22 チーム・グレイス再び
冬休みになった。魔法少女の活動はもちろんやることが増えるけれど、私達には受験勉強も課されている。世間の中学生は私達が魔法少女の活動をしている間も勉強しているのだからと、連盟から受験の指導員が送られてきているのだ。
正直、受験勉強もとなると疲労は溜まるけれど、連盟の指導員の教え方は確かにかなり上手で、並の塾には存在しないレベルらしい。
「終わったよ~」
リゼが指導員に結果を見せると、指導員はにこやかにサムズアップをした。リゼの頭が欲しい……。
「うーん」
理人が私の横で高校の問題集を開いて唸っている。困る姿も何だか可愛い。ちょっとした時に肩が触れてしまった時の体温が心地よかった。
私達は相変わらずだ。誰も今告白なんてしようとは思わないし、理人の隣に座るのも順番だったりする。今はこれでいいやと思っている。
◇
ある日、魔法少女ランク3位のチーム・グレイスがチーム・ユーラルの拠点に来てくれた。いつもは忙しく飛び回っているチームなのだが、スキマ時間に後輩の指導に当たるということになり、うちのチームに白羽の矢が立ったのだ。
「よろしくお願いします」
理人が代表でチーム・グレイスに挨拶をする。
その後、早速訓練ということで準備をしていると、グレイス・キルシェこと桃華先輩が話しかけてきた。
「桜乃、久しぶりね」
「桃華先輩、お久しぶりです!」
「何かあった? 良い顔してるんじゃないの?」
「いやぁ、心の中のトゲが少しだけ抜けたような……。まあでも、解決したわけじゃないんですけどね」
「いいねぇ。私も桜乃ぐらいの頃は色々と悩んでたなぁ」
「桃華先輩もですか?」
「そりゃ、そんなもんだよ」
他愛のない話をする。優しいこの先輩も、3年前は私と同じ中3なんだから、そういうものなのだろうか。今の姿を見ていると全くそんな気がしないのだけれど。
準備をし、全員で魔法少女に変身する。
訓練は私達にだけではなく、理人にも行われた。チーム・グレイスの導き手である将さんがつきっきりで理人のことを見ている。
「いいよ理人、その調子。集中を分散させないこと」
「はい!」
しかし、何だかその姿が妖艶だ。理人は肩を抱かれ、耳元でささやかれるようにして指導されている。どうしてか、その光景を見ていると頬に温度を感じてくる。
「ハート、行くよ!」
「は、はい!」
グレイス・キルシェ先輩の声に私は我に返り、チーム・グレイスの4人と向き合った。いつも通り、私が前衛、ユーラル・トパーズとラベンダーが後ろよりの前衛、アクアが後衛だ。
チーム・グレイスの組織立った攻撃を、私達は何とかしのいだ。何とか喰らいつきたかった。強くなって皆を助けたいから!
「「「「はあっ、はあっ、はあっ!」」」」
私達の全員が息切れをしているのに、チーム・グレイスは涼しい顔をしている。まだまだ差があるんだ。
「いや、チーム・ユーラル凄いよ」
「ホント。ここまでやってまだ誰も倒れていない」
「合宿の時とは大違いだね」
チーム・グレイスの先輩達がそう言ってくれた。もっとも、先輩達は大して実力を出していないんだろうけれど。
「けど、意外なところに脆さがありそうだねぇ」
グレイス・キルシェ先輩が顎に手を当てながら言った。
「アクア! ちょっと抜けてみて!」
「え、あたしですか?」
「そう。代わりにこっちは二人抜けるから」
私達は顔を見合わせた。痛いところを突かれたと、少なくとも私は思ったし、トパーズとラベンダーもそうだと思う。
「はぁぁ、いいところを突いてきますね、キルシェ先輩……」
「ああ、自覚あるんだ。まあ、ちょっと見せてみてよ」
キルシェ先輩ともう一人が残り、こちらはアクアが抜けた3人になった。
「やったー、休憩!」
「こらアクア! せっかく指導してもらってるのにそういう態度を取るんじゃない!」
アクアとユリールは定番のやり取りをしていたし、ユリールはチーム・グレイスの妖精にも何やらペコペコと弁解しているようだった。
そして、インターバルの後に再度訓練をしてもらったところ、今度は私達は全員伸びてしまった。
「私達、さっきよりも出力を落としたよ。気づいてる?」
「はい……」
尻もちをついて大きく息切れしながら私が答えた。
「アクアのフォローが上手いから、私達、気持ち良く全力を出せている面があって」
「あの娘、よく見てるもんね」
「実戦でも、アクアが敵の態勢を崩して攻撃しやすくしてくれることとかもよくあって」
私とトパーズとラベンダーが次々と口にした。
「そういえば、キルシェ先輩、夏にもアクアのこと褒めてましたもんね」
「そうだったね。じゃあ、そうだなぁ。アクア、戻ってみて!」
「おわ、休憩終わりですか! はーい、行きます!」
ドリンクを飲んでいたリゼは、変身をしてから戻ってきた。
そして、今度の相手はキルシェ先輩一人だけだった。
「ごめんね、ちょっと力を入れるよ」
キルシェ先輩が将さんと目配りをすると、アルティメットフォームに変身した。
「ア、アルティメットフォーム!?」
「な、なにを!」
「こういうケースもあるってことを伝えたくてね!」
キルシェ先輩がそう言うと、とんでもないスピードで私達の方に迫ってきた。
「ぇええ!? ちょっ!!」
叫んだのはユーラル・アクアだ。キルシェ先輩がアクアを抱きかかえて大きく移動してしまった。
キルシェ先輩はアクアを抱えたままこちらを向いた。
「とまあ、こんな感じで、アクアの有用性に気づいた敵に、陣形無視でアクアからやられちゃうケースもあるからさ」
前衛には私達3人がいるのだから、流石にキルシェ先輩ほどの力があるからこそできる芸当だとは思う。ただ、確かにアクア抜きというのはチーム・ユーラルにとっては痛手だ。
「アクア、どう思う?」
「えーっと、キルシェ先輩から良い匂いがしてドキドキします」
「バカ」
アクアがキルシェ先輩にポカっと叩かれた。
「でも、そうですね。こうなってしまったらあたし抜きで頑張るしかないのでは?」
「自分がやられないようにする、とかじゃないんだ」
「いえ、こういうケースとして考えるべきかと。キルシェ先輩クラスにこれをやられたら、あたしじゃどうにもならないし、ハートもトパーズもラベンダーも止められないですよ」
「ふむ」
キルシェ先輩はアクアを降ろし、私達の方へ戻ってきた。
「そうね、じゃあ、今回はそういうケースとして訓練してみましょ。近い将来、そういうことがあるかもしれないしね」
「「「は、はい!」」」
私とユーラル・トパーズとラベンダーが答えた。これまであまり想定してこなかったアクア抜きでのチーム戦。あくまで1ケースとしての訓練だったが、残りの時間はそれに集中することにした。
「アクアはこっちで一人みっちりとね!」
「えー! 何であたしだけ二人がかりでなんです! お助け~!」
アクアはアクアで、一人頑張らないといけないようだった。




