20 くそったれなシステム
最近、桜乃の様子がおかしい。十中八九、理人絡みだと思った。そして、それは俺も苦しめていた。ユーラル・ハートと理人が抱き合う姿は、いつまで経っても頭から離れてなどくれなかった。
けれど、桜乃もまた苦しんでいるようだったから、話を聞いてみても良いのかもしれないと思った。それで、俺自身の気持ちにも決着がつくならばと。
俺は意を決して桜乃と二人で会うことにした。流石にちょっとチーム・ユーラルの拠点に行くのはメンタルが厳しかったので、休ませてもらった上でだ。
家の近所の河川敷を桜乃と歩き、廃村での戦いの反省会をしたりした後、俺は話題を切り出した。
「最近、ちょっと桜乃が思い詰めた顔をしてたからさ」
「え?」
「悩みを聞いてやろうかと思ったんだけど、結構すっきりした顔してるな」
桜乃が少し吹っ切れたような顔をしているとは思った。この短期間で理人との関係が進展したわけではなさそうだったけれど。
「いいのかな?」
「俺とお前の仲だろ? 聞いてほしいことがあるならどうぞ」
嘘だ。本当は聞きたくなんてない。
「はは、紅一には敵わないなぁ」
「そうか?」
きっとこれは、以前の誰それに告られたとか、そういうのとは違う相談になる。
「あのね、もしかしたら知ってたかもしれないけど、チーム・ユーラルって、理人のことが好きな娘が多いの」
「あー、ごめん、知ってた」
「ええ!? 紅一も知ってたんだ」
これだけは少し痛快だ。俺が知らないとでも思ったか!
「大人だと思っていたら実は二個上とか、どういうチートだよって感じだよな」
「あはは……、うん、そうだよね」
桜乃の表情が変わる。
「でね……」
「……」
「私も……、好きなんだ……、理人のこと」
「…………そっか」
来てしまった。聞きたくないのにはっきりさせたくもあったその事実。
「ずっとモヤモヤしてて、自分がどうかなっちゃったんじゃないかと思ってたんだけど、やっと好きだったんだってことが分かった」
「…………」
ああ、やばいな……。言葉が出てこない……。でも、会話を止めちゃいけないよな……。
「他の皆には……?」
「言った! 皆頑張る、邪魔しない、理人が誰を選んでも受け入れるって、皆で決めたの!」
嬉しそうに言うんだな。桜乃のそんな顔、初めて見たよ。
「じゃあ、頑張るのか?」
「うん! やるだけやってみたいと思ってる!」
「はは、それでこそ桜乃だな」
「なのかな! 紅一も、いつも話を聞いてくれてありがとね」
そこから先は何とか会話をしていたという状態だ。逃げ出したかった。これまでに告ってきた男達は振ったのに。ついにできた想い人はあのイケメンだったか。どうして俺じゃなかったんだ。
様々な感情が渦巻き、肉体と精神が分離しているようだった。
◇
「俺、もう少し川辺を歩くから」
「そう? じゃあ、私は帰るね」
「ああ、またな」
「またね」
桜乃はそのまま土手の階段を降りていった。
「はぁぁ……」
ため息をついて現状を憂いていると、スマホに着信が入った。
「リゼ?」
珍しく、リゼから通話だ。どうしたんだ、いったい。
「もしもし?」
「紅一、今、桜乃と何の話をしてたの?」
「はぁ!? お前、どっかで見てたの!」
「いいから答えて! もしかして、理人の話とかしてた?」
こいつはエスパーなのだろうか。もしくは人生二周目か。俺の闇の力をやたら見抜いてきたり、今もこうして状況を言い当てたり!
「ああ、その話をしてたよ」
「はぁぁぁ……。バカなの? ドMなの?」
「そういや、チーム・ユーラルの皆で話したって桜乃が言ってたな。なら当然リゼも知ってるってことか」
「紅一、ちょっと出てきてよ。少し話そう……」
「ええ? まあ、まだ大丈夫だけど……」
俺はリゼに言われた場所に移動すると、物凄い豪華な黒い車が迎えに来て、やたら豪華なビルの応接間に連れていかれてしまった。
「おし、来たね、紅一」
「リゼってマジで金持ちなのな……」
俺は呆気に取られて応接間を見渡した。メイドの姿をした人達がお菓子やお茶を用意してくれる始末だ。
そして座るなり、リゼが頭と手を机にぶつけた。
「ごめん、紅一!」
「ええ、何だよ!?」
リゼが顔を上げると、額に赤い痕がついていた。
「桜乃がああなっちゃって! 油断してた!」
「あー、その話か。いやいや、リゼがどうにかできた問題じゃないだろ!」
「いや、でも何かできたんじゃないかと。紅一に申し訳ない」
「なんでリゼがそこまで」
「あたくし、浅黄や紫帆の交友関係にもフォローを入れてきた歴史がございまして」
「ええ……?」
リゼからは、苦労してきたんだよというオーラを感じた。
「例えばさ、浅黄には友達以上恋人未満な人がいたんだよ。けど、浅黄が理人を好きになっちゃって……。その人泣いちゃって、大変だったんだよ!」
「そ、それで一体どんなフォローを……?」
「あたしの友達を紹介した。今はその娘と付き合ってる」
「おー、凄ぇな」
リゼの印象が変わりそうだ。何だ、この面倒見の良さ。
「でも浅黄達と比べて、桜乃と紅一は大丈夫だと思ってたんだよ」
「そっか。いや、そう思ってくれてた人がいるだけで救われる」
リゼは俺と桜乃を見ていてくれたということだ。何だかその気遣いがとても嬉しかった。
「魔法少女はさ、導き手を好きになっちゃう娘、多いんだ」
「へぇ、うちのチームだけじゃないのか」
「うん。てか、他のチームの導き手も美形ばかりだと思わなかった?」
「あー、そう言われてみればそうかも」
「恋の感情も、魔法少女の力を伸ばすんだってさ。どのぐらい影響あるのか知らないけど。だから基本は美形が配置される」
「……それ、なんか嫌な話じゃないか?」
「嫌というか、あたしはくそったれなシステムだと思ってるよ」
「ぷっ!」
リゼの言い方がおかしくて、俺はつい吹き出してしまう。
くそったれ……、そうか、くそったれか! それは良い表現だ!
「だって、10代女子を沼にはめるようなことをしてるじゃん! 桜乃も浅黄も紫帆も良い娘達だと思うけど、まだ中学生だよ!? 理人には悪いけどシステムとしてクソだね」
「リゼがこんなに痛快な奴だなんて思わなかった……」
「あら、そう?」
「ちなみに、リゼ的には理人はどうなの?」
「ない! あたしはイケメンよりは強面派だし」
「なんだそりゃ……!」
そういえばリゼは前から自由な人だった。魔法少女でありながら、魔法少女の型にハマらない。その在り方が、今は眩しく見える。
「と、色々と言ってきたけどさ」
「ん?」
「紅一は辛いと思うよ。ただの恋愛をしたいんなら、振り向かせるために仕掛けたっていいし、理人とのことが終わるのを待ったっていいんだけど、きっと紅一の気持ちはガチ恋だったと思うから、そうではないんでしょ?」
「……」
リゼが言語化してくれた通りだ。桜乃とは息をするように当たり前にいられる関係なのが良かった。ああ、そうだ、リゼの言う『ただの恋愛』とは違う。
「あいつとは相性良いと思ってたんだけどなぁ。俺の方がずっと一緒にいたのに……」
「うん」
何故か置いてあったテーブルの上のタオル。俺は突っ伏してそこに顔を埋めた。
泣いていたのかどうかすら、よく分からない精神状態だった。
「あんたは頑張った! もう自由にしていい! 他の娘とただの恋愛をしたって良い! 覚えといてね!」
そんなリゼの励ましに、俺は親指で答えた。




