19 同じ人を好きになった
廃村での戦いが終わり、後始末が行われた。製造されていた魔物はほとんど残っておらず、どこかに移動させられていたと推測されている。さらには、結社アルコのNo.5ファルコンが残した言葉、ただの囮だという情報も気がかりだった。魔法少女連盟はその情報を精査している。
私達チーム・ユーラルとはいうと、基本的には無事だ。浅黄と紫帆はダメージを負ったが、重症ではない。
それより、私は紅一が危機に陥った場面を思い返していた。私が未だに力不足のせいであんな事に。危機を脱することができたのは理人のおかげだ。私がピンチの時にではなかったが、理人に抱き締められた感覚を覚えている。
思い出すと頬が熱くなるのを感じる。決して、邪な場面ではなかったはずだ。あの時は、紅一を助けるために必死だったのだから。
「はぁ……」
チーム・ユーラルの拠点でため息をつきながらペットボトルの中身を口に流し込む。
ランク3位のチーム・グレイスとの差を見せつけられたことには、皆そこまで悲観していない。チーム・グレイスだって同じ仲間だし、一歩一歩近づいていけばいい。皆、そういう想いだった。ため息をついているのは私ぐらいだ。
「桜乃、ちょっといい?」
「浅黄、どうしたの?」
「ため息ばっかりついている桜乃に少しお話をね」
「は、はぁ……」
「ちょっといらっしゃいな」
浅黄に肩を抱かれ、ずかずかと歩く。連れていかれた部屋には紫帆が待っており、私を見るなり手を振って手招きする。さらに、リゼもそこにいた。
「どうしたの?」
「桜乃がしんどそうだと思って」
「ちょっと話をね」
浅黄も紫帆も笑顔だ。一体何の話を?
「チーム内の話で桜乃にだけ伝えていなかった話があったの」
「う、うん……」
「じゃあ、私から言うね」
紫帆が私の目を覗き込む。
「私、理人が好き」
「えっ!?」
突然の宣言に、私は固まってしまった。紫帆と理人からは何か感じるものはあった。そうか、紫帆は……。
「それを聞いて、どう思った?」
「浅黄、いや、その……」
待ってほしいと思った。多分、そういうことなんだ。この話を聞いて私の心がこうも揺さぶられるというのは。
「桜乃の口からも、言ってほしい」
「あ、あの……」
「うん」
私が口を動かせないでいる間も、紫帆は静かに待ってくれた。
「うん、今、はっきりと分かった。私も……、理人が……、好き」
言った。言ってしまった。そして、その想いはきっと間違っていない。
理人の声、いつもチームのために必死に頑張っている姿、抱き締められた時に感じた意外な力強さ。全部が愛おしい。叶うことなら、私を見てほしい。ずっと苦しんでいた自分の感情に、名前をつけることができた。
「よしよし、よく言った、偉いゾ」
「あ、浅黄……!」
浅黄は私を背後から抱き締め、頭を撫でてくる。
リゼは机に突っ伏して、ゴンという音が聞こえた。
「なんてこと……、桜乃もなの……」
リゼは何だか疲労感のありそうな声を出した。
「桜乃の気持ちが聞けて良かった」
「紫帆、でも、嫌じゃないの?」
「まー、そこは既に通過した事だから」
「え?」
私が素っ頓狂な声を上げると、私に抱きついている浅黄が力を強め、さらに言葉を続けた。
「同じ人を好きになったってこと。皆でね」
「ええ!? ということは浅黄もなの??」
「そうなのよ」
「そうだったのかぁ……」
どうするのが正解か分からず、私は浅黄の方に体重をかけた。すると、紫帆も私と浅黄の横に来て、私達を抱き締めてくる。
「いやぁ、チーム内で恋のライバルとかどうなんだろうと思ってたんだけどさ」
「桜乃がチームに入る前にも腹を割って話したことがあるんだ。理人には正々堂々と向き合おうって。その代わり、邪魔をしたりはしないし、理人が誰を選んでも受け入れようってさ」
何となく、そんな関係だと、チーム内がギスギスしてしまうのではないかと思ったけれど、浅黄からも紫帆からも悪い空気は感じなかった。事前によく話をしていたからだったんだ。
「偉いね、浅黄も、紫帆も。羨ましい」
「桜乃はどう? 同じ気持ち?」
「うん。私も、それに混ぜてくれると、嬉しいかも」
「勿論よ!」
「頑張っちゃおう!」
そのまま3人でキャッキャとはしゃぎ合う。
苦しかった自分の気持ちの正体を認めて理解できたのも嬉しかったし、チーム内がそれを受け入れてくれる環境だったのも嬉しかった。歪なのかもしれないけれど、私達は同じ人を好きになって、そして頑張るって決めた!
その輪から少し離れた位置で、リゼはコップに入っていた氷を口に含み、ガリガリと噛み砕いていた。そして、私達に聞こえない声量で何かを呟いた。
「桜乃はそっちじゃないと思うけどなぁ」
◇
チーム・ユーラルの皆と秘密を共有した後は、何だか気分が良かった。胸のつかえが取れた気がする。本当に皆のおかげだ。
そんな時に、紅一からスマホに連絡があった。少し話したいということだった。私も、廃村での戦いの時のことをもう少し紅一と話したかったので、ちょうどいいと思った。
家の近くの河川敷の土手の階段の所を待ち合わせ場所として、学校が終わってチーム・ユーラルの拠点で魔法少女活動をしてから向かった。紅一は今日は拠点には来なかったので、私が後から着いた形だ。
「ああ、紅一の方が早かったんだね。ごめんごめん」
「いや、俺も今来たとこ」
私は制服姿だったが、紅一は一度帰ったようで私服姿だった。
「紅一はさ、他人を優先しすぎな所があるよ」
「こないだの戦いのことを言ってる?」
「うん! 紅一は魔法少女じゃないんだから、ホントああいうのはやめて! 私、どれだけ心配したことか!」
「心配はしてくれるのな」
「当たり前じゃん!」
「ま、そっか。でもさ、桜乃もたいがい他人優先だぞ」
「だって、それは私が魔法少女だから……」
「そうであったとしてもだよ! だー、もう平行線だなぁ! じゃあ、これからは俺も気をつけるし、桜乃も気をつける! それでいいか!」
「ぷっ! なにそれ! あはは、でも分かった、それでいいのかもね」
生身で無茶するのは自重してほしいが、何だか本当にいつも通りに会話が進むものだから、受け入れてしまった。後は、私が守れるようになればいいのかな。
「最近、ちょっと桜乃が思い詰めた顔をしてたからさ」
「え?」
「悩みを聞いてやろうかと思ったんだけど、結構すっきりした顔してるな」
紅一が話を変えた。確かに最近、私は自分の感情がどうなっているのか分からず苦しんでいた。悩みが消えたわけではないし、紅一に話しても良いものだろうか。




