18 ダメ押し
俺は戦闘スーツを解除し、連盟の職員に合流した。そういう名目で離脱した以上、実際に何らかの作業をしなければ怪しまれると思ったのだ。
「チーム・ユーラル、引き続き、魔物と交戦中です」
「紅一か! ちょうどいい、これを現場に!」
「はい!」
うまいタイミングで道具の運搬を仰せつかり、俺は走り回った。2チームに道具を届ける。
そして、チーム・ユーラルの位置に戻っている時に、その異変は起きた。藍色とオレンジの光がほとばしり、何者かが転移してきたようだ。
「あ、あなたは結社のゲルマ!」
「久しいですな、ユーラル・ハート。今回は戦力を連れてきていますぞ」
「ボクは結社No.5ファルコン。遊びに来たよ、チーム・ユーラル」
結社アルコのNo.7とNo.5! ランク入りしている魔法少女チームが多く来ているのに、ここに来るとは!
「どうしてここに!」
理人が声を上げる。
「我々の計画に、長い目で見れば君達が大きな障害になると判断したのですよ」
「この廃村での作戦のついでに、君達を倒せれば大成果さ!」
ゲルマは小剣に藍色の光を、ファルコンはムチを取り出してオレンジに光らせながらチーム・ユーラルを攻撃した。
「う、うわっ!!」
「ははは、そんなものかい!!」
ユーラル・トパーズがバランスを崩したのを見て、ファルコンはさらにムチを振るう。助けようとしたユーラル・ラベンダーを牽制しながらだ。
「くっ! なんて範囲攻撃!!」
「うぐぐ、これは……!」
ラベンダーとアクアが叫ぶ。アクアは相変わらず後衛を務めていたが、アクアの放つ青い攻撃をファルコンが全く相手にしていない。ここで攻撃力不足が出てしまっているようだった。
「まだまだ!」
「ほう、流石は若手のエースと言われるユーラル・ハート! 以前の戦いより遙かに腕を上げている。だが!!」
ゲルマは小剣だけでなく、左手からも藍色の攻撃を繰り出した。
「うあっ!!」
ゲルマの攻撃が脇腹に入り、ハートが吹っ飛んで地面に倒れる。
「あの赤い闇使いがいた時の方が厄介でしたね」
「く、くそっ……」
ハートが歯を食いしばりながら起き上がろうとしている。
完全に助けに入るタイミングを間違えた! さっきの魔物の襲撃では見守るのに徹するべきだった! 入るのは今だった!!
「おー、やったね、ゲルマ! ならボクもそろそろ本気で行くよ!」
そう言うと、ファルコンが振るうムチの速度が上がった。オレンジの竜巻が起こっているかのようだった。
「あぐっ!」
「きゃあっ!」
「うっ!!」
爆発が起きて、一瞬何が起きたか分からなかったが、トパーズとラベンダーは吹っ飛ばされて地面に倒れている。アクアは……、魔法少女形態を保てていない! 変身が解除されてしまっている! リゼは倒れてこそいなかったものの、左膝をついてファルコンを睨みつけていた。
「おいおい、もう変身が解除されたのかい! つまらないなぁ! なら残りの二人で遊ぶか。ピンクの娘に手を出すと、ゲルマに怒られちゃうしなぁ」
ファルコンは笑いながらユーラル・ハートとゲルマの方を見た。
ハートはダメージを受けたようで、起き上がれていない。闘志は失っていなかったが、ゲルマの追撃が行われようとしていた。
「こっちだ!!」
俺は銃型の道具を使ってゲルマを撃った。当然、効果はない。
「こ、紅一!! バカ! 出てきちゃダメ!!」
「小僧……。ただの人間の分際で!」
ゲルマは俺の方に小剣を振り抜き、藍色の斬撃が飛んできた。
「紅一!!」
ユーラル・ハートが気合を込めて脚で地面を踏み込み、急移動で俺と斬撃の間に入る。
ははっ、そう来ると思ったよ……。こうやってお前のこと、色々分かっちゃうんだけどなぁ……。
目を瞑って歯を食いしばり、ダメージを予想しているハートのことを抱え、右脚で思い切り地面を踏み込む。そして、そのまま左に跳躍。闇の力なしでもこのぐらいはできる! ハートが目の前に移動してくると予想していたからこそ出来たことだった。
くっついた俺とハートがいた位置を藍色の斬撃が通り過ぎた。俺達はそのまま地面に転がる。
すかさず、俺はその位置にいた人物を掴んで、地面に引きずり降ろした。
「やれっ! 理人! ハート!!」
引きずり降ろしたのはうちのチームの導き手である理人。能力が未完成の理人は、遠隔ではまだ能力を発揮し切れていない。なら、近接だ……。
もういい。下手な嫉妬も見栄も。ハートを助けることの方が重要だ。
すぐに俺の意図を理解した理人は、ハートを正面から抱き締める。状況を理解したハートの目が大きく開いたのが分かった。
俺にも分かるぐらい、導き手による増幅を受けたハートのパワーが溢れた。ハートは左手で理人の背中に腕を回し、右手でゲルマを撃った。
「バ、バカなぁ……!!」
強烈なピンクの魔法光は、ゲルマをぶち抜く。ゲルマは倒れたまま動かなくなった。
理人とハートが抱き合った体勢のまま、ファルコンを警戒する。戦闘中なのに個人的な感情を吐露すれば『キツい』だ! そんな姿見せつけるんじゃないよ、くそったれ!
「ありゃりゃ、ゲルマ、負けちゃったのか」
ファルコンは引き続きオレンジのムチを振るって、地面を叩く。その度にオレンジの光がほとばしった。
「なら、全員ボクが遊んじゃうよ! 満身創痍のところ悪いけど」
「そうはいかないよ!」
「えっ!」
上空から声が響いた。そして、別の魔法少女チームが降りてくる。
「ランク3位、チーム・グレイス! マジかよ!」
ファルコンが叫んだ。
「チーム・ユーラルの皆、よく耐えた。後は任せて」
首藤桃華先輩が変身した姿であるピンク型のグレイス・キルシェが言い、ファルコンに向かって歩みを進める。他の3人はリゼとユーラル・トパーズとラベンダーの元に向かった。
「一人で大丈夫だってのかい! 舐められたもんだな!」
ファルコンはグレイス・キルシェ先輩に向かってムチを振るう。しかし、キルシェ先輩は左手だけで攻撃を受け止め、何の障害もないと言わんばかりの表情で歩みを止めなかった。
「ここまで差があるのか……」
ファルコンはそう呟く。諦めも感じる声色だった。最後にムチを最大級に光らせ、オレンジの光で攻撃したものの、それも左手だけでいなされ、キルシェ先輩の右手から発せられたピンクの波動にファルコンは倒れた。
「ぐ……、ここまでか……」
「設備は抑えた。あなた達の負けよ」
「ふっふっふ、そう思う? そうじゃないよ。ボク達はただの囮さ」
「なんですって……?」
「この国の魔法少女戦力はここに集中している。その状況こそ結社アルコの望み。ボク達の次の一手を楽しみに待つことだね。それと、No.1からNo.3までは、それ以外とは比較にならないぐらい強い。いくら君がランク3位のチーム・グレイスのエースだからって、どうにかなる相手ではないよ」
「……忠告感謝するわ」
ファルコンとキルシェ先輩の言い合いはそれで終わった。
「終わったのか……」
「よ、良かった……」
ユーラル・ハートは、もう一度理人の胸に顔を埋めた。そして、俺の前に座る。
「何か言いたいことは……?」
「結果オーライってことにしてくれ」
「バカ……」
ハートは俺には接触してくることなどなく、ただその場でうなだれていた。




