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16 動きゆく想い

 各地で出没する邪気と魔物が強まっている。どうやら結社アルコが原因だという調査が上がってきていた。桜乃(さくの)が見たという、魔物が魔物を吸収するというのも、結社アルコが放った魔物が関係しているそうだ。


 夏が過ぎ、秋も深くなる頃には、チーム・ユーラルもかなりの数の出撃をこなしていた。


「多すぎるね」

「そうなんだ」

「うん、平時に比べて多すぎる」

 ユリールや理人(りひと)が言うには、チーム・ユーラルの出撃回数は、平常時の通常チームに比べて4倍近くに跳ね上がっているそうだ。


「かと言って、君達は受験もあるんだし、勉強を疎かにしてはいけないけどね」

 理人が俺達に向かって言う。


 これまでも、魔法少女の活動をするだけでなく、拠点で勉強もしてきた。理人やリゼは教える側だ。


「理人、あのさ……」

 紫帆(しほ)が理人に話しかけに行く。


 浅黄(あさぎ)と理人が話している時に、二個上だから可能性ありという言葉に反応していた紫の魔法少女。いくら鈍い俺でも段々と分かってきていた。紫帆も、理人に恋している。浅黄が理人を見る目と、紫帆が理人を見る目が似ていると感じた頃からそれに気づいてきた。


 気づいてしまえば、たまに浅黄と紫帆が真面目な顔をして話し合ったり、そこにリゼがいそいそとジュースやお菓子を届けては退散している場面があったりしたのは、恋愛相談をしていたのかと思えるようになってきた。


 ただの勘違いかと思って、偶然を装ってその場を通り過ぎたりすると、理人の名前が出ていたから十中八九当たっていると思う。


「理人、かっこいいもんな……」

 中学生の身から見れば大人に見えると思う。本当に大人だったなら距離がありすぎるけれど、二つしか違わないというのは、もし自分が女だったらと考えても頑張ろうと思ってしまうのではないかと感じられた。


 チーム内で二人も理人を想っているというのは、他のメンバーはどうなんだと考えてしまうのは自然だ。例えばリゼは、と。


 しかし、リゼは一番分からない。本当にいつでも自由だ。闇の力を敏感に見抜くという思わぬ能力があって、油断ならない人だけれど。


 そして、俺が一番想像したくない幼馴染の様子を見てみると……。


 理人の方をよくチラチラ見ている気がする。その目は、浅黄や紫帆と似ていた(・・・・・・・・・)。そんなまさかと、忘れようとして勉強に集中し、ふとした時にまた桜乃を見たとき、やっぱり桜乃は理人を見ていることが多い。


 さらに、最近、桜乃はよくスマホを気にしている。まるで、誰かからの連絡を心待ちにしているかのような……。


「ふーっ、休憩!」

「こらリゼ! 予定のページまでは終わってるのか!」

「終わってるどころか、随分と進んでる!」

「マ、マジ……? あ、本当だ……」

 ユリールがリゼの要領の良さにぽかんと口を開ける。


 理人は年長者としてチームをまとめるためか、リゼにも勿論気を使っている。しかし、当のリゼはいつでも飄々(ひょうひょう)としており、浅黄や紫帆の方に行けと追い払ったりすることが多い。


「……」

 桜乃の気持ちを確認したわけではない。確認するのは怖い。何故か、当たっている気がするのだ……。桜乃がリゼのようにしてくれていたなら、こんな悩みを抱えなくても良いはずだったのに……。


 ふと、そんなことを思った。



    ◇



 ある出撃予定の日、俺は桜乃を家に誘った。母もいるし、邪な誘いではない。元々、中3になった今でも、桜乃とは家の行き来をする仲なのだ。


「桜乃、誕生日おめでとう!」

「ええ!? あ、ありがとう!」

 桜乃が驚いているのは、今日の出撃をこなした後、チーム・ユーラルの皆で誕生パーティをすることになっていたからだ。それとは別に、俺と桜乃との間で、ということでのお祝いだった。


「後でもっかいあるからケーキはショートだけどな」

「ううん、ありがと! 嬉しい!」

 ちょっとしたサプライズになったようで、桜乃が笑顔になる。魔法少女としての活動は熱心にやっていたが、プライベートでは憂いのある顔を見せることが多かったから、自然な笑顔を久々に見た気さえする。


 美味しそうにケーキを頬張る顔も、バレー部を引退しても身体を使う活動をしているから全く衰えずに健康的な身体も、魔法少女を頑張る姿も、本当に愛おしい。


 それでも、やっぱり俺の知らない桜乃が顔を覗かせることが多くなった。それが、心にチクチクと刺さる。


 悩みがあるなら聞くぞと、これまでは気軽に聞けていたのに、今回ばかりはその言葉を出すのが怖かった。



    ◇



 俺も、どこか平常心を失いつつあった。出撃の際、言い訳をしてチームから距離を取り、戦闘スーツを展開して現場に戻った。


 当然、魔法少女達は理人との導き手(ビーコン)連携をして戦おうとするが、ユーラル・ハートと理人が行う回数を減らすように援護をした。意味のない行動だと、頭のどこかで分かっていつつも。


 そうして魔物を祓った後、再びユーラル・アクアに先回りをされて対峙することになった。


「警告をしたのにまだ続けているんだね」

「警告ありがとう。だが、決めるのは私だ」

 アクアに言い返す。ここで俺を拘束すると言うなら立ち向かう必要がある。


「あなたがそこまでするのは何のため?」

「答える理由はない」

「ま、そりゃそうか」

「私を捕らえるのか?」

「まさか。ここまで観察してきて理解したけど、あなたに勝てる魔法少女なんてそうそういない」

「……は?」

 思いがけない言い回しに俺は素っ頓狂な声を出してしまった。流石にそれはないだろう。


「私は長時間戦えるわけじゃないのに?」

「長時間戦ったらあなたは闇に堕ちる。それより後のこと、ちゃんと考えてる? あなたの人格は消えてしまうかもしれないけど、魔法少女と堕ちたあなたとの戦いは続くんだよ?」

「そう、か……」

 確かに、闇に堕ちて全力を出す俺を魔法少女は止めなければならなくなる。その時に俺の人格はもうないかもしれないけれど。


「案外、難しい事なんだよ、あなたみたいな存在を無理やり拘束しようってのは」

「だったらどうする?」

「まずは、観察かな」

 ユーラル・アクアは悠長なことを言い始めた。


「自分の危険性が理解できた? それでも続けるのならそれは何故?」

「忠告ありがとう……」

 それ以上詰められたくはなく、俺はその場を離脱した。桜乃との接点を、これ以上失いたくなかった。



    ◇



 何食わぬ顔でチームに合流し、桜乃の誕生パーティが行われた。やはり桜乃は理人と接する時、俺の知らない顔をする。さっきの戦いでお前を援護したのは俺だと、言ってしまいたい気分だった。


 家に帰ってからも苦悩は続いた。地下室で作業をしている時、ふと母が地下を訪れた。


「紅一」

「母さん?」

「あんた、魔法少女に関わってるんだって?」

「ああ……」

「それは、一人の人間として? それとも闇使いとして?」

「……」

「父さんも言っていたでしょう? 闇の力のことは一族の悲願だから継いでいけば良い。だけど、その力で魔法少女と関わるなんて」

「母さんも、やめろっていうのか……」

「知っているだろう? 闇に堕ちてしまったらどうなるか?」

「知ってるよ! でも!!」

 手放したくなかった。これ抜きでは、俺は理人に何一つ敵(かな)わなかったから。


「誰か相談できる人はいるの? 一人で無理してない?」

「相談できる人は……」

 いるわけがない。魔法少女に俺は闇使いだと明かせっていうのか。


「よく、考えておくれよ……」

 そう言うと、母は地下室を後にした。


 俺は壁に寄りかかった。頭が壁に当たってゴツという音がする。


「やっぱり、いけないことだっていうのか……?」

 人は歴史から学べという。それなら、闇使いの末路というのは悲惨だからやめろというのは実に理にかなっている。しかし、感情がそれを受け入れてくれなかった。

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