15 夏祭り
結社アルコによる襲撃の影響で魔法少女連盟が混乱する中、合宿は終了した。結社No.7ゲルマが予告した、魔法少女を辞めようという娘は出なかった。
それは多分、紫帆のおかげだ。一番酷い怪我を負って殺されそうになってもなお、強くなりたい、今度は皆を守りたいと魔法少女を続けることを力強く宣言したからだ。その意味では、結社の思惑は失敗に終わった。
紫帆は頑張ったと思うけれど、ボロボロだった。理人は紫帆を必死で看病した。チームの年長者としてそうするのは当然だった。なのに、どうしてか私の心にはモヤがかかってしまうのだった。
◇
合宿が終わってから数日経ったある日、紅一から誘われて夏祭りに行くことになった。色々なことが起きたので、気分転換にもちょうど良いと思った。
「紅一、おまたせ」
待ち合わせ場所に行くと、紅一は笑顔で手を振っていた。気分を出そうと意気投合し、二人とも浴衣姿だ。
屋台で買い物をしながら歩いていると、ふと同級生と出くわした。
「うわ、紅一! 出たよ、森谷とデートかよ!」
「羨ましいねぇ!」
紅一も私もこういうのは慣れていたので、適当にあしらう。まったく、男女が一緒に歩いていたらいつでもそういう勘繰りをするのはやめてほしい。
「中学男子ってバカだな」
「紅一もでしょ!」
「まあ、そうなんだけどさ」
「あはは、じゃあ紅一もバカだ」
「うっさいよ」
改めて紅一のことを見る。息をするように当たり前に一緒にいられる男の子。こうして二人で歩くことに全く抵抗感はない。
けれど、こうしていると誰もがそういう関係だと勘ぐるのなら……。もし、理人に見られたら……。
「花火まで時間あるけど、どっかで座って食べる?」
「えっ!?」
紅一に話しかけられ、現実に戻る。本当に、最近なんか変だ。
「空いてるベンチを探してみよっか」
「なら、あの丘の上が良いんじゃね?」
「いいね、行ってみよう」
紅一と一緒にベンチに座って焼きそばとか買ってきたものを食べ始める。
自分の気持ちでモヤモヤしていたが、紅一に相談してみるのもありなのだろうか。しかし、何をどう相談すれば良いんだろう。
そんなことを考えていると、紅一が何かに反応した。懐から道具を取り出す。
「おいおい、邪気が出てるぞ……」
「えっ、こんな神社に!?」
私は魔法少女に変身しなければそういうことは感知できない。だから通常状態では道具に頼るわけだが、紅一は使いこなしているんだなぁと思う。
「あの辺りだな」
紅一は境内の裏の林を指さした。
「私が行くわ」
「分かった。皆にも連絡する。気をつけろよ」
「うん、ありがと」
林に入ると、私は魔法少女ユーラル・ハートに変身した。この状態になれば邪気を感知できるから、そのまま林を進んだ。
「こ、これは!?」
現場に着くと、猪の形をした魔物と蜘蛛の魔物が戦っていた。優勢だったのは蜘蛛の魔物だ。猪の魔物を糸で絡め取り、とどめを刺そうとしているところだった。
猪の魔物が動かなくなると、蜘蛛の魔物はその身体を吸収してしまった。明らかに邪気が増えた。
「吸収して強くなった!?」
蜘蛛の魔物は私に反応して、糸をけしかけてきた。冷静に見極めて、それを回避し、一部の糸をピンク色の魔法光で焼き切った。
私もあの合宿で色々と学んできたんだ。不思議な強化を遂げていても、野良の魔物に手こずっている場合ではない!
隙をついて攻撃の光線を魔物に放った。しかし、魔物の前に貼られた糸が、それを分散させてしまった。
「厄介ね!」
けれど少しは焼き切れている。時間さえかければ!
そう思って行動に移そうとした時、頭上から赤い光線が蜘蛛の魔物に届いた。私は思わず、光線の出どころを見た。
何かがいる! 恐らく、こないだ出会った赤い闇使い!
「今だ、やれ!」
「っ……!?」
逮捕命令が出ているから、赤い闇使いの対処もしようかと意識が分散されたが、確かに今は魔物が優先だ。
赤い光線が貫いた空間はそのまま糸がなくなっている。私はその空間を利用してピンク色の魔法光線を放った。喰らった魔物は消滅していった。
「ふぅ……」
もう少し長期戦になるかと思ったが、赤い闇使いのおかげであっさり勝つことができた。ふと振り返ると、もう闇使いの気配はなかった。
「何なのよ、もう……」
私は変身を解除し、来た道を戻り始めた。
◇
「桜乃!」
「あっ、理人!」
理人が駆けてくる。どうやら紅一からの情報で来てくれたらしい。
「他のメンバーもこちらに向かわせたけど、対象は?」
「もう倒したよ」
「えっ! はは、流石だな!」
理人は私の頭に手を置いて労ってくれる。その手が、心地よい。
そのまま理人は他のメンバーに連絡をしてくれて、集まらないでも良い旨が伝えられた。
「状況も聞きたいから、少し座ろうか?」
「うん……」
二人でベンチに腰掛け、赤い闇使いが出現したからあっさり倒せたことを報告した。
「なるほど、また現れたのか。どういうつもりなんだ」
思えば、あっさり倒せたからこそ、理人との導き手連携をしなくても良かったんだ。それはそれで寂しい気もする。
ふと、理人がユーラル・ラベンダーを抱き締めた光景を思い出してしまう。導き手を前線に出させてはいけないから、普段は禁じ手の最終手段の一つではあるはずだ。
でも……。私もピンチになったら、あんな風にしてもらえるの……?
◇
報告を簡単に済ませると、私と理人は夏祭りの中心に向かって歩いた。ちょうど、紅一も合流してきた。
「せっかく二人で楽しんでいた所、申し訳なかったね。後のことは僕に任せて、引き続き夏祭りを楽しんでおいで」
「あっ、ちょっと待っ!!」
思わず、理人を引き止めようとしてしまったが、理人はそのまま行ってしまった。
「待ってよ……」
どうしてこんな言葉が出てくるのだろうか。なんで心が痛いのか。自分で自分が分からなかった。




