14 組織立った敵
怪我を負った魔法少女達に重症者はいなかった。チームメンバーがやられても誰かしらがカバーし続けたおかげだ。合宿の効果が活かされた結果と言えるかもしれない。
もたらされた情報が多く、魔法少女連盟も混乱しているようだった。俺達はチーム・ユーラルで集まっている。紫帆は森にいた魔法少女の中で一番ダメージが酷かったぐらいで、横になったままだった。
「結社アルコか」
「もうその手の勢力は一掃されたと思っていたよ。また湧いて出るとはね」
「ユリール、そういうの知ってるんだ?」
「ボクは人間より長生きだから、君達の何代か前までなら知っている。あったよ、そういうテロ集団はね」
「そっか……」
ユリールの声はいつもの飄々としたトーンではない。それなりに思う所はありそうだ。
「ねぇ、ユリール」
「桜乃?」
「ゲルマが言っていた魔法少女が隠している秘密って、ユリールは心当たりある?」
「いや、それだけの情報では何のことか分からない」
「そっか」
実際のところ、ユリールは知っている可能性はある。過去に起きたその出来事に関わっているのなら。もっとも、知っていたとしても所謂テロリストに言われて、はい実はそうでした、などと言うとは思わないが。
「……」
世界を滅ぼす災厄、ネクロズガカ。この世界の歴史の裏に隠された闇。歴史上、魔法少女が倒せなかった唯一の存在だ。
倒せないから隠匿するというのは理解はできる。無駄な混乱を招かないためにも。代わりに魔法少女連盟が打ってきた手は封印。しかし、やり方は醜悪だ。何をしているのかを知ったら誰もがそう思うのではないか。
魔法少女が倒せないのならばと、別の勢力が挑んだことは多々あったと聞かされている。結果は惨敗。俺の先祖もその一つだ。勝利は叶わなかったし、魔法少女に潰されもしたが、それでも俺の一族が闇の力を放棄していない理由だった。
けれど、俺には無理だ。桜乃を助けるためにちょっと戦っただけで闇に堕ちかけたのだ。戦いの効率化、戦闘スーツの改良、あらゆる方法を使ってもっと長時間戦えるようにする必要がある。代々受け継がれてきた方法で、少しずつ改良はされているが、とても俺の代で至ることはできない。
「紫帆、大丈夫?」
「ありがと、リゼ」
リゼが紫帆の額のタオルを交換している。闇に飲まれかけて精神がおかしくなり、リゼにもネクロズガカの事を一部喋ってしまった。しかし、リゼは特に気にはしていないように見える。闇堕ち寸前の狂った人間の戯言とでも思ってくれただろうか。
正直、関わるべきではない。ネクロズガカの封印方法は酷いものだが、今の現役世代は気にしなくて済むはずだ。
関わる可能性があるとすれば、結社アルコの目的が、ネクロズガカの封印を解くことだった場合だ。それは、断じて許してはならない。ネクロズガカは制御不能の怪物。ただ、世界を滅ぼそうとするだろう。結社アルコは何を考えているのだろうか。
◇
しばらくすると魔法少女連盟から情報が展開された。魔法少女連盟の海外支部でも結社アルコによる新人攻撃があった。
「情報によると、襲撃者は結社No.5ファルコンと名乗ったと」
「さっきのゲルマはNo.7って言ってた」
「なら、そのナンバー付きの奴が少なくとも7人いるってことか」
闇の力を操れる人間はそう多くはない。7人も集めたなら上出来というところだろう。全員、もう闇に心を飲まれて堕ち切っているかもしれないが。
各支部で結社アルコによる攻撃を警戒することが確認されたが、ネクロズガカについての一切の情報は出されなかった。
ただし、俺達には出されなかっただけで、ランクの高い魔法少女チームには知らされている可能性はあると思う。魔法少女連盟にしたって、ネクロズガカに関する案件なら、対処の必要があるだろうから。
そして、共有された情報はもう一つ。
「赤い闇使いか」
理人が情報を見ながら呟いた。
「私を助けてくれた人だよね? でも、逮捕命令ってどういうことなの?」
「闇の力を使っているからだよ。それは止めなければならない」
ユリールが桜乃に答えた。そして、さらに説明を続けた。
「闇使いは身体と心を蝕まれる。桜乃を助けてくれた事といい、今は善人なのかもしれないけど、闇に飲まれたら別人のように凶悪になってしまうんだ。下手すると魔物になってしまうこともある」
「そ、そうなんだ……」
「この赤い闇使いが善意でやっているのなら、尚更止めないといけない。不幸な歴史も記録されているよ。例えば、魔法少女になった恋人を助けようとして闇使いになった男が、闇に侵食されてその恋人を殺してしまったケースとかね」
「悲しい話ね……」
ユリールが語ったその例えは耳が痛かった。別に俺は桜乃と恋人というわけではないが、想い人を助けたいというのは同じだからだ。
しかし、さっきの戦いはユーラル・ハートだけでは危なかった。やはり、見過ごすわけにはいかない。
何にしても、これで俺も魔法少女連盟から正式にお尋ね者にされてしまった。注意して活動しなければ。
◇
「紫帆、上手く立ち回れなくてすまなかった」
「ううん、いいの。来てくれたもの」
理人が布団で横になる紫帆の手を握っている。理人は優しい男だ。紫帆がこの状態なら励ますことぐらいはするだろう。
一方で、リゼが浅黄の隣に座って浅黄に身体を押し付けて甘えるような行動を取っている。
「もう、何よリゼ!」
「べっつに~。ただ、今はこうしておくべきかなと思って」
「まったく、気にしないでも良いのに……」
浅黄はリゼの頭を撫で返している。
「そうか、そういえば」
浅黄は理人のことが好きなんだったな。状況が状況とはいえ、理人が紫帆の面倒を見ているから、リゼが気を使っているということなのだろうか。なら、リゼも浅黄の気持ちを知っている?
結社アルコの登場や、俺の一族の宿命ネクロズガカのことで頭がいっぱいになっていたが、目の前の人間関係も大事なことだったなと思い直した。
俺はふと、桜乃の方を見る。桜乃は机に突っ伏しながら、理人と紫帆の方を見ていた。
「桜乃?」
桜乃の表情は、俺の位置からはよく分からなかった。




