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13 警告

 俺は木の上からユーラル・ハートの行く手を見守った。必要があればいつでも助けに行くつもりだったが、ハートは物凄い強さで奮闘した。


 様子のおかしい魔物達を次々と撃退する。ただ、


「ハート?」

 理人(りひと)とユーラル・ラベンダーの元に向かった時のハートは変だった。自分がいなくても魔物を撃退できたからホッとしたのかもしれないが、それにしても声もかけずにその場を去るとは。


 しかし、ゲルマという人物に出会い、ハートは押された。俺以外の闇使いの人間の登場に、俺も驚いた。


 ハートだけで撃退できるかを見極めようとしていたが、ハートがダメージを負いそうな局面で攻撃をし、介入することにした。


「一体あなたは? それ、闇の力でしょう?」

「話は後だ。まずはこいつをどうにかするぞ」

 俺はゲルマを指さした。声は変えているから聞かれても問題なかった。


「貴様、何者です!? なぜ邪魔を!」

 ゲルマが小剣を使おうとし、俺は高速移動してゲルマを赤い拳で攻撃した。


「なに!?」

 ゲルマが態勢を崩し、俺はさらに背後に回り、ハートの方向に蹴り飛ばした。


「今だ、魔法少女!」

 俺はハートの正体を知らないふりをし、声をかけた。ハートは言われるまでもないという様子でピンク色の魔法光線を繰り出した。


「舐めるな!!」

 しかし、ゲルマは身をよじって攻撃をかわしてしまった。


「ちぃっ!!」

 今のであっさり決めたかった。俺の交戦可能時間は極端に短いからだ。


「うおお!!」

 ゲルマは己を鼓舞した様子で、俺とハートに藍色の攻撃を連打してきた。俺は赤い光で、ハートはピンクの光でそれらを打ち払う。


 時間をかけてはいられない!!


 俺は力を使えば使うほど、身体に闇が溜まってしまう。心が闇に染まると、もう戻れない! 決めに行くしかない!


 俺は被弾覚悟で攻撃に移った。


「来るか、邪魔者め!」

 俺の腕から繰り出される赤の光と、ゲルマの小剣から発せられる藍色が交差する。しかし、その隙をついて、ハートが特大の攻撃をゲルマに喰らわせた。


「ぐあっ!!」

 ゲルマはピンクの光に押し込まれ、壁で倒れた。


「くそっ、邪魔をしおって……!」

「お前、一体何者だ?」

 俺は倒れたゲルマに言葉をかける。


「いいでしょう。元々、新人達を倒して宣言するのが目的だったのです。我々は結社アルコ! 私は結社No.7ゲルマ! 腐ったこの世界を変革するもの!」

「結社だと……?」

「魔法少女も腐った世界を守る旧態依然のシステムに過ぎない! ユーラル・ハート、お前は知らぬでしょう。魔法少女が隠している強大な秘密を」

「な、なんですって……!」


 魔法少女が隠している強大な秘密というのは、俺には心当たりがある。確かにそれは解決すべき大問題なのだが、ユーラル・ハートには関係のない話だ。


「魔法少女の隠すそれこそ、世界を正すもの。我々はそれを求める」

「せ、世界を正す?」

「お前もそこの赤い闇の者も分からないでしょう。しかし、上層部がそれを聞けば理解するはず。奴らがどう出るか、見ものですね。それに闇の者よ。魔法少女など肩入れする意味はない。なぜそちらに回ったのかは知りませんが、手を引くことです」

「それはお前が決めることじゃない」

「ふっ。まあいい。流石に私の力ではランク3位のチーム・グレイスはどうにもできませんが、新人達に大きな爪痕を残せました。死者が出なかったのはなかなか優秀なようですが、ここまでの経験をして、何人が魔法少女を続けようと思いますかね?」

「新人に損害を与えるのが目的の一つということか」

「その通り。では、私はここで失礼しますよ」


 藍色の光がほとばしり、光が収まると、ゲルマはもう目の前にはいなかった。


「結社アルコか。何を考えているのやら」

「あ、あの……」

 俺が物思いにふけっていると、ハートが話しかけてきた。警戒している様子だったが、闇使いが現れたのだからそれは当然だ。


「大丈夫だったか?」

「え、ええ……」

「ふっ、それは良かった」

 ハートの答えに頬が緩む。助けることができて良かった。


「うっ……!?」

 俺は思わず胸を抑えた。ダメだ、力を使い過ぎた。もうこれ以上は危険だ。


「え、どうしたの?」

「私もここで失礼させてもらう。では」

「ち、ちょっと!」

 俺は地面を蹴ってその場を離脱した。


 ハートに全力で追われてしまうと厄介だが、ひとまず追ってくる様子はなさそうだ。離脱するのにもう少し力が必要なものの、何とかなる範囲だろう。


 それにしても、闇の勢力が組織立って出現するとは。それも魔法少女が隠しているあれ(・・)を求めるだと? 強奪しようとしているのならお門違いだ。あれ(・・)は決して制御できるようなものではない。何を考えているんだ。中身を知らないのか?


 そんなことを考えていると、森を出た。しかし、その行く先に思いがけない人物が待ち受けていた。


「なに!?」

 青が基調の衣装、青い髪の魔法少女、ユーラル・アクアが立っていた。まるで、俺が来るのを待っていたかのように。


「やあ、闇の人。はじめましてじゃないよね?」

「っ……!?」

 な、何を言っている!? まさか、俺が紅一(こういち)だとバレているのか!?


「あたし達が3ヶ月くらい前に戦った木の魔物。あの時、魔物にとどめを刺したのはあなたでしょう?」

「気づいて、いた……?」

 あまりの的確さに、背筋が凍る。魔法少女に正体がバレるのはダメだ。魔法少女は決して闇の存在を許さない。


「同じ闇の力がまた現れたから、追ってみたらビンゴだったね」

「……」


 よく考えろ。アクアは魔物を倒したのが赤い戦闘スーツの男だと言っているんだ。奈雲(なぐも)紅一と認識はされていない。あの魔物を倒したのが紅一だとは決して言っていない。森の中に潜んで、密かに倒した何者かだと思っているはずだ!


「なぜ、私を追った?」

「そりゃあ、闇の力を人間が使っていたら追うでしょう。知らない? そういう人間の対処も魔法少女の仕事の範疇」


 君は魔法少女の活動に乗り気ではなかったじゃないかと、もし、そんなことを言おうものならたちまち関係者だと思われて、俺に結びついてしまうから言えるはずもなかった。


「あなたは友達を助けてくれたみたいだから悪人じゃないと信用する。だから、今回のこれは警告よ。闇の力を使うのは難しい。身体も心も闇に侵食されてしまうからね。一度そうなったらもう戻れない。どんな善人でも、たちまち邪な心になり、悪人と化して最悪魔物にもなってしまう」


 そんなことは知っている! そう言ってしまいたい気持ちもあった! 分かった上で俺は桜乃(さくの)を助けたいんだ!


「だから、もうやめることね。あなたの存在は魔法少女連盟に共有されて、これからはあなたも追われることになる。そうなったら、今日みたいな動き方はできないよ。だいたい、もう闇に侵食されてキツくなってきているでしょう?」

「なんだと……?」

「少なくとも、一刻も早く力を使うのをやめるべき」


 その通りだった。しかし、いちいち知っていることをとやかく言われるのも何だか不快だった。


『言い返してやればいいじゃないか』

 心の中で俺じゃない俺が俺に語りかける。


『偉そうに説教する魔法少女に、魔法少女が隠しているあれ(・・)の話をしたら一泡吹かせることができるんじゃないか?』

 そんなの、くだらない反発だ。


『くだらないことをして何が悪い。心を解放しろよ、俺』

 ああ、まずい。本格的に闇の侵食が始まっている。休まないと。


 その闇の問いかけに、俺は乗ってしまった。


「君こそ、魔法少女が隠している大問題を知らないのか?」

「え……?」

「魔法少女が闇の勢力を敵視するなんて承知の上だ。そんなことより、魔法少女が、犠牲を払ってでも隠し通しているあの災厄(・・・・)の方をこそ知るべきだ」

「えっと……、災厄……?」

 目を白黒させるユーラル・アクアがどこか愉快に見え、俺は言葉を続ける。


「くっくっく、調べてみてはどうだ? そうしたら君は魔法少女を信用していられるかな?」

「……あなたは、その災厄とやらと関係しているの?」

「おやおや、興味が出てきたか? なら教えてやる。それを打倒するのが我が一族の悲願! 私の代で叶うことはないが、世代を重ねて、いずれ必ず!」

「……」

「その時には、魔法少女は必ず我々の意志を継ぐ者の邪魔をする。その場合、世界に仇なすのは魔法少女の方だ!」

「世界に、仇をなす?」

「そうだ! お前も真実を知るべきだ! そうすれば、きっと!!」


 自分で自分が何を言っているのか分からない。なんで俺はそんな身の上を目の前の魔法少女に話しているんだ? この内容を話すことは、大丈夫なのか? 判断ができない……。まずい、本当に闇に飲まれてきてしまっている!


『気にするな、闇に心を委ねろよ、俺』

 黙れ!



 俺はユーラル・アクアと対峙して会話していたにも関わらず、深呼吸を始める。冷や汗が止まらない。抑え込まなければ! でないと、ここで終わってしまう!


 外からは決して分からないであろう自分との戦いをしていると、目の前のユーラル・アクアが突然変身を解除した。その余波なのか、一瞬青い光が渦を巻いて風を起こした。


「な、何の真似だ!?」

「別に最初から戦う気なんてないから変身してても意味ないからさ。もう行きなよ」

「なんだって?」

「少しは収まったんでしょ? ならもう力を使わないようにしてゆっくり休むことね」

「え……。あ、ああ……」

 見逃すというならありがたい。乗らせてもらう。


「もう一度そうなったら、次は引き返せるか分からないよ」

 俺が自分との戦いを繰り広げていたことを見透かされていたらしい。


 目の前の少女は、本当に闇の力に敏感なようだ。ユーラル・ハートが急成長し、トパーズとラベンダーも喰らいついている。さらに、アクアことリゼにもこんな性質があるなら、チーム・ユーラルは良いチームになるのではないか。


 何とか闇の侵食が収まって、正常な思考を取り戻した俺は、ふとそんなことを思った。


「警告はしたからね」

「分かった」

 俺は何やら余計なことを言ってしまったが、リゼがしようとしたのは俺への警告だったから、それへの返答だけしておいた。


 そして、闇の力を使わないようにして、リゼの隣を抜けて走ってその場を去った。

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