11 襲撃
合宿の休息日。この日ばかりは各魔法少女チームも遊びに繰り出した。チーム・ユーラルは水着を持ってきていたので、海水浴だ。海に来てそうしない手はないし、そうしている別のチームもいる。
「はぁ……」
俺は海ではしゃぐ桜乃を見る。浅黄と紫帆とはしゃいでいる所だ。
皆、中学生の範疇を超えるような攻めた水着ではない。当然、桜乃もだ。しかし、やはり普段着とは違うし、俺にとっては眩しすぎた。
ふと別の所に目を向けると、リゼが砂浜から離れた所におり、ウェットスーツを着てサーフィンを楽しんでいた。そう来たかと感じたし、なんて自由な奴だと思った……。
しかし、夕方を迎える頃、休息の時間は突如終わりを迎えた。
「嘘だろ、何で急にこんな邪気が……?」
突然溢れてきた邪気が、海近くの森を覆うのが分かった。すぐに魔法少女連盟も気づき始め、急遽全員が招集されることになった。
「合宿中だが、ここにいるチームで対応してもらう」
連盟の職員がそう告げ、俺達チーム・ユーラルを含む全チームが準備に入った。現場はかなり広い森だ。多数のチームで同時攻略するのは確かに効率的だろう。しかし、
「これ、大丈夫か? だいぶ闇の濃度が高いけど」
俺はふとそんな嫌な予感がした。
◇
各チームが違う場所から森に入り、チーム・ユーラルもまとまって森に入った。ほどなくして、頭上からそれらは襲ってきた。
「上よ!」
「理人、紅一! 下がって!」
魔法少女視点では、理人や俺は防御面では一般人と変わらないはずだから、その判断は正しい。
この合宿で大きく成長したユーラル・ハートを中心に、ユーラル・トパーズとユーラル・ラベンダーが攻撃陣形を取り、ユーラル・アクアが全体を見渡しながら、理人や俺の防御や遊撃を担当する。木々の間に隠れていた少なくない数の動物型の魔物が襲いかかってきた。
「一体一体は強くない! けど……」
「どうなってるの、この数!」
それは俺も同感だった。自然発生した邪気だけでここまで沢山の魔物がついてくるものだろうか。
「ごめん、アーマー損傷!」
「了解! トパーズ、受け取れ!」
俺は魔法少女連盟から支給されている回復道具をトパーズに投げた。トパーズは見事に受け取って衣装を修復する。
魔法少女の衣装はそれがアーマーでもある。魔法の力で作られているものだから自然修復させることもできるのだが、道具で急速回復させた方が戦闘効率が良い。通常のチームは導き手がこの役目を兼ねていたりするが、チーム・ユーラルでは俺も受け持っていた。
「きゃああ!」
不意に悲鳴が聞こえた。
「どうしたの!?」
「私達じゃない!」
どうやら他のチームの魔法少女に何らかの事態が起きたようだ。
「隣のチームから援護要請だ!」
通信機に入ってくる情報を読み取って俺が叫んだ。
「分かった、私が行く!」
ユーラル・ラベンダーが答え、紫色のオーラを光らせながら現場に消えていった。
「う……、何だよこれ! あちこちから要請が来ているぞ!」
「まさか、魔物の同時多発!?」
これは予定と違った。広い森だからどこに邪気の原因があるのか特定できなかったので、多チームでの捜索をしていたはずだ。発見したチームが祓えばそれで良いはずだった。それなのに、全チームが襲われるとは。
援護に向かったラベンダーだけでなく、魔物の数に押されてチーム・ユーラルのメンバーも分断されそうになっていた。
これは……、まずいぞ……!
「紅一! いったん離脱して! 離れ過ぎたら守れない!」
「ハート!! でも!?」
「お願い! 自分を優先して!!」
ユーラル・ハートの声はどこか必死を感じた。
「分かった! 気をつけろよ、ハート!」
「うん!!」
俺はその場を離れるふりをした。実際は、密かに潜む。この状況、明らかに異常事態だ。何が起きるか分からない。もしもの時には、ハートを援護するつもりだった。
「ここが使い時だな」
俺は左手に仕込んである魔具を起動した。たちまち、身体を戦闘スーツが覆う。魔法少女と似たように、俺の闇の力にも赤い色の性質がある。そのため、戦闘スーツも赤が基調だった。
顔を分からなくするマスクが展開されると、俺は脚に闇の魔力を込めた。赤い光が脚を包み、木々の上に向かって大きく跳躍する。
魔物達が隠れていたように、俺も木々に潜むことにした。
◇◇
ユーラル・ラベンダーは救援要請のあった位置に急行した。しかし、
「こ、これは!?」
現場では、3人の女子が倒れていた。魔法少女としての力を使い果たし、変身が解けてしまったのだろうか。
「あ……うぅ……」
「っ……!?」
うめき声が聞こえた方を見ると、4足歩行の動物の形状をした魔物が後ろ足で立ち上がり、未だ変身状態を維持している最後の魔法少女の首を掴んで持ち上げていた。
ラベンダーは咄嗟に高速移動し、魔物に体当たりをした。魔物は吹っ飛び、首を掴まれていた魔法少女が自由になる。地面に落下する所をラベンダーが抱きとめた。
「大丈夫!?」
「げほっ、げほっ!! 気をつけて……。あいつ、強い!」
「分かった。安心して、私が何とかする」
魔法少女を大木の所で休ませ、ラベンダーは魔物の迎撃に入った。
ユーラル・ハートが合宿で相当に強くなったと評判だったが、その頑張りに夢中でついていったユーラル・ラベンダーもかなりの強化を果たしている。
「はぁぁ!!」
紫の光を帯びた攻撃が次々に魔物を捕らえる。魔物は吹っ飛び大木に激突した。
「はぁっ!! はぁっ!! さあ、どう!?」
「ダ、ダメよ!! そいつはすぐに回復する!」
大木の所に寝かせた魔法少女が怒鳴った。
「えっ!?」
ラベンダーが反応した直後、魔物は身を翻してラベンダーに飛びかかった。右前脚による横薙ぎが繰り出され、ラベンダーはギリギリでそれを避ける。しかし、
「がはっ!?」
左前脚がボクサーのボディブローのようにラベンダーの腹部を捉えていた。
ラベンダーは、急激に痛みに襲われる腹部を抑えて崩れ落ちた。そこへ魔物の後ろ脚がキックとなり、ラベンダーを吹っ飛ばした。
「ラベンダー!!」
ユーラル・ラベンダーの名前を覚えていた魔法少女の悲痛な叫びが響いた直後、ラベンダーは大木に激突して地面に落ちた。身体のあちこちが痛むのか、ラベンダーは痙攣して動けていない。
魔物はそのまま右前脚を伸ばし、ラベンダーの首を掴んで持ち上げてしまった。
「うっ……くっ……!!」
先ほど助けたばかりの魔法少女がされていたのと同じ状態にされてしまったラベンダーだったが、魔物は左前脚も使い、もう一人の魔法少女の首も再び拘束してしまった。
そして、見せつけるようにラベンダーともう一人の魔法少女を向かい合わせにする。
「あ……ぐっ!!」
首を締められ、ラベンダーがうめき声を上げる。
「こ、このぉ!」
もう一人の魔法少女が何とか攻撃をしようとしたところ、今度は魔物が左前脚からその魔法少女に電撃を流した。
「ぅぁぁあああああ!!」
その状態で今後はラベンダーの首への圧力を弱め、ラベンダーを見る。片方の苦しむ姿を一方に見せつけているかのようだ。
「や、やめなさい……!!」
そんなラベンダーの言葉を聞いて気を良くしたのか、魔物は左前脚への電撃攻撃を停止した。
「はぁっ、はぁっ……」
もう一人の魔法少女は弱々しく息を切らす。
魔物はラベンダーを見ながら言葉を発した。
『お前が代わりになるならこいつは見逃してやる』
「し、喋るの……?」
自分を睨みつけるユーラル・ラベンダーを遊び相手とでも思ったのか、左前脚で掴んでいる魔法少女を地面に落とした。そしてその魔法少女に言葉を発した。
『お前は自分の代わりに殺されるこいつを見届けろ』
「な、何を……!?」
「ぐ……ぁぁぁあああ!!!」
今度はラベンダーに電撃が流され、ラベンダーが絶叫を上げた。
「ラ、ラベンダー!! や、やめなさいよ!!」
『ならお前が代わりになるか?』
「なっ……!?」
『どちらでもいいぞ。こいつが死ぬ前に決めろ』
「ぁぁぁぁぁああああ!!」
電撃を流され続け、さらにラベンダーの悲鳴が上がる。
残酷な拷問を楽しんでいる様子の魔物は、いったん電撃をやめ、ひれ伏している魔法少女に再度問いかけた。
『どうする? 代わるか?』
「そ、そんな……」
魔法少女が答えられずにいると、再び電撃が流され、ラベンダーが絶叫する。
「ラ、ラベンダー!!」
魔法少女が顔を背けてしまうと、魔物は電撃を流し続け、ラベンダーは言葉を発することができないぐらいに衰弱してきてしまった。
魔物が電撃を停止し、さらに言葉を続ける。
『最後の警告。代わる、か?』
「あ、悪魔……!!」
魔法少女は涙を浮かべて魔物を睨んだ。
一方のラベンダーは歯を食いしばり、苦痛に悶え、何もできない自分を嘆く。
(くそぉ……。ハートのおかげで強くなれたと思ったのに、こんな事って……)
『時間切れ。こいつ殺す』
「い、いや……。やめて、助けて…………、理人……」
終わりを宣言する魔物に、ラベンダーはついに心が折れて助けを乞う。しかし、
「ラベンダー!!」
聞こえてきたその声に、ラベンダーはもう一度己を鼓舞し、魔物に手を向けた。その声が聞こえている範囲なら、自分の攻撃が何倍にもなると信じて、
『ぐわあ!!』
極太の紫の光線が魔物を吹っ飛ばした。
ラベンダーは地面に落ち、声が聞こえた方向に這いずった。
「り、理人……。来てくれた……」
「ラ、ラベンダー!! なんてことだ……!?」
理人はラベンダーを仰向けにし、その頭を支える。
「ラ、ラベンダーは私を庇ってそこまでの怪我を……。ごめん、なさい……」
もう一人の魔法少女が泣きながら説明する。
「そうか、頑張ったなラベンダー!」
そう言うと、理人はラベンダーを抱き締めた。
「あっ……!」
ラベンダーはそのまま泣き崩れ、両手を理人の背中にまわして抱き締め返した。
『グルルル』
魔物はまだ健在なようで、うめき声を上げる。
「僕の大事な仲間を傷つけて、ただで済むと思うな」
理人はそう言葉を発し、ラベンダーの目を覗き込んだ。
意図を察した様子のラベンダーは、再び両手を魔物にかざした。
「まだ僕の実力では遠隔では不足だが、こうしてラベンダーとくっついていれば最大出力で導き手の能力を発揮できる。終わりだ、魔物め!」
「うああああ!!」
ラベンダーは最後の力を振り絞って、理人からのパワー供給を直に受けて、紫の魔法攻撃を魔物に繰り出した。
今度こそ、魔物は消滅していった。




