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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第99話 ただでさえ忙しいのに、サークルまで?

「変な人?」


 エリルは椅子に座ったまま、キュルに顔を向ける。


「うん。キツキを見てた」


「キツキを?」


 キュルは少し考えるように間を置いた。


「ずっと、キツキがいなくなるまで」


「……いつ?」


「この前」


 エリルがもう少し聞くと、相手は男の上級生で、背は高かったらしい。


「前に、レニアの近くにもいた人」


 そこまで聞いて、エリルには1人思い当たった。


「セドリックのことかな」


 最近、セドリックがキツキのことを調べているらしいことは知っている。


 何をどこまで調べたのかまでは分からないが、彼がレニアに強い関心を持っていることを考えれば、その近くにいるキツキが気になるのも不思議ではなかった。


 そのうえ、キツキには過去の情報がほとんどない。エリルも散々調べたが、出てきたのは空白ばかりだった。セドリックも、調べればそのうち同じ気分を味わうだろう。


「なにかしてた?」


 キュルは首を横に振った。


「見てただけ。けど、危ないと思う」


 エリルはキュルを見る。


「目が嫌だった」


 キュルが、こういうことをなんとなく口にする子ではないのは、エリルもよく知っている。ただ、聞く限りでは、セドリックはキツキを見ていただけだ。


 それに、エリルの知るセドリックは、注意する必要こそあっても、差し迫って対処しなければならないほどの脅威ではなかった。


 最近は、予定になかったことが起きても、必ずしも悪い方へ転んではいない。キツキも、レニアもそうだった。


 なら、今すぐ動く必要はないだろう。


「分かった。気にはしておく」


「うん」


「でも、大丈夫だと思うよ。何かするつもりなら、その前に私が気づくから」


「エリルがそういうならわかった」


 キュルは少し間を置いてから、窓の外へと視線を戻した。


 その頃には、エリルはもう別のことに思案を巡らせていた。


◇


 翌日。


「それと、サークルの所属届がまだの者。期限が近い。遅れずに提出しておけ」


 授業の終わり際、ガルドはそれだけ告げると、教本を手に教室を出ていった。


 昼休みになった教室では、すぐにあちこちで椅子を引く音が鳴り始める。その中で、キツキは席を立てずにいた。


 サークルの所属届。


 言葉の意味は分かる。

 分かるのだが。


「……サークルって、入らないといけないのか?」


「え?」


 近くにいたエリルが目を丸くした。


「知らなかったの?」


「存在自体はなんとなく知ってたけど」


 思い返せば、放課後に何人かで集まっている生徒を見たことはある。あれがそうだったのだろう。


 エリルは一度、キツキの顔を見直した。

 冗談を言っている様子でもない。本当に知らなかったらしい。


(……やっぱ違うかー)


「1年生は原則、どこかに所属することになってるよ。期限は今学期中」


「初耳なんだけど」


「最初の頃に説明あったと思うけど」


「……あったか?」


 言われてみれば、あったような気もする。

 入学してから、勉強して、訓練して、ダンジョンに行って、森に飛ばされて。落ち着く暇なんてほとんどなかった。どこかで聞き流していたのだろう。


 とはいえ、最近はプライムフォーラムの研究もあって、寝る時間まで少しずつ削っている。それで今度はサークルかよ。


「この学院は――」


 言葉になりかけた文句を、そこで引っ込めた。

 周囲を見ても、今さら慌てている生徒など1人もいない。少なくとも、サークルのことを知らなかったのは学院のせいではなさそうだった。


(……聞いてなかった俺が悪いのか)


 なんとなく顔を上げると、少し離れた席で本を閉じたザッカ・フォンと目が合った。


「ザッカは?」


「ん?」


「サークル。どこ入ってるんだ?」


「ああ。俺は『筋肉は裏切らない』に入ってるよ」


「は?」


「筋肉は裏切らない」


「……それがサークル名なのか?」


「そうだよ」


 ザッカはいつもと変わらない顔で答えた。


 細身で、どちらかといえば本でも読んでいる方が似合う男だったはずだ。少なくとも、筋肉という言葉から真っ先に思い浮かぶ見た目ではない。


「キツキもまだならどうだ? 一緒に鍛えないか」


「あー……はは。考えとくよ」


「待ってるよ」


 ザッカは立ち上がると、制服のポケットに手を入れた。


「これもやる」


「え?」


 手渡されたのは、包みに入った鶏胸肉だった。

 ザッカはそれを渡すと、そのまま教室を出ていった。どうやら本当に筋トレへ向かったらしい。


 キツキは手の中の鶏胸肉を見る。


 今、ポケットから出したよな。そもそも、この大きさがどうやって入ってたんだ。衛生的に大丈夫なのか。


 包み越しに触れると、ほんのり生温かい。


「……これ食って大丈夫か?」


「さあ?」


 エリルは笑っていた。


 キツキはとりあえず鶏胸肉を机の端に置く。


「で、他にはどんなのがあるんだ?」


「いっぱいあるよ。実戦系とか、研究系とか、文化系とか。あとは出身国ごとの集まりも多いかな」


「国ごと?」


「フォルテアとか、ルミネーラとか。ギルザークの人たちが集まってるところもあるし」


「へー」


 どうせ入るなら、レニアと同じところが良い。

 そう思って、キツキは少し離れた席のレニアに目を向ける。フォルテアの学生が集まるサークルがあるなら、そこだろうか。


 席を立って、レニアのところへ向かう。


「レニアはどこに入ってるんだ?」


 ノートを閉じかけていたレニアが顔を上げる。ルビーのような赤い瞳が、キツキに向いた。


「サークルのこと?」


「そ」


「まだ入っていないわ」


 思っていた答えと違った。


「フォルテアの人が集まってるところもあるんだろ? そこじゃないのか?」


「違うわ」


 レニアはそれだけ答えると、机の上のノートをまとめ始めた。


 その様子を見て、キツキもそれ以上は聞かなかった。

 レニアが何も考えず、期限ぎりぎりまで放っておくとは思えない。何か理由でもあるのだろう。


 それより、今は自分の心配だ。まだ所属先すら決まっていない。


 エリルのところに戻ると、彼女はキツキの顔を見るなり笑った。


「レニア姫に振られちゃったの?」


「そんなんじゃない」


「一緒のところ入りたかったんじゃないの?」


「……で、エリルたちはどこなんだ?」


「あ、逃げた」


「いいから」


 エリルはまだ楽しそうだったが、それ以上は追ってこなかった。


「私たちはまだ入ってないよ」


「なんだ、お前らもまだなのか」


「新しく作るからだけど」


「……え?」


「サークル。私とキュルで作るの」


「今から作れるのか?」


「期限までならね。だいたい準備もできてるし」


 どうやら、思いつきで言っているわけではないらしい。


「……で、どんなサークルなんだ?」


「総合研究会」


 さっき『筋肉は裏切らない』なんて名前を聞いたせいか、ずいぶんまともな名前に思えた。


「何を研究するんだ?」


「気になったものを見たり、調べたりする感じかな」


「……そんなざっくりしたので通るのか?」


「通るよ」


 エリルは何でもないことのように答えた。


「ただ、あと1人必要なんだよね~」


 それまで口を挟まずにいたキュルが、そこでキツキへ顔を向けた。


「キツキがいい」

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