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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第97話 レニアならいいとは言ったけど……

 その日は珍しく、授業が午前で終わった。


 キツキは昼食を済ませると鍛錬区画へ向かい、いつもの鍛錬を済ませたあと、少し早めに寮へ戻ってシャワーを浴びた。


 着替えを済ませ、机の上に置いていたノートを手に取ったところで、ここ数日のことがぼんやりと頭に浮かんだ。


 定期考査の最後に、点を取るために書いた七環術式の答案。

 それがまさか、エストたちまで集まる話になり、プライムフォーラムへの推薦にまでつながるとは。


 そのうえ学院からは研究奨励金まで出て、当分は金を稼ぐ方法に頭を悩ませなくてもよさそうだった。


「……棚からぼたもちだな」


 参加資格の目処が立ち、おまけに金まで入った。

 ずいぶん都合よく転がったものだと思う。


 ただ、あの答案を書けたのも、結局はメガネのおかげだ。

 便利なのは前から分かっていた。けれど、便利すぎる。


 使う場所や、誰の前でどこまで見せるかは、もう少し気をつけるべきなのだろう。


「……まぁ、レニアなら大丈夫か」


 今日は、そのレニアと初めて共同研究をする日だった。


 共同研究をすると決めてから数日。授業や七環術式の件もあり、お互いの予定がなかなか噛み合わなかったが、ようやく時間が取れたのだ。


 キツキはノートを抱えると、まだ少し早い時間だったが、そのまま部屋を出た。


◇


 予定より少し早く、小演習室に着いた。


 当然、レニアの姿はまだない。


 キツキは机の端に座り、ノートを開いた。

 杖の形。覚えている限りの内部経路。曖昧な場所には印があり、どうしても思い出せなかったところは空白のままだ。


 何度見ても、よくこれで作ろうと思ったな、と今さらながら思う。


 ペン先で曖昧な箇所をなぞっていると、扉が開いた。

 入ってきたレニアの姿を見て、キツキは無意識に少しだけ姿勢を正した。


「待たせたかしら」


 たしか、こういう時の返事は決まっていたはずだ。


「いや。俺も今来たところだ」


 レニアは机の上の開いたノートにちらりと目をやり、それから少し冷めた目でキツキを見た。


 何も言わなかった。


 その後ろから、以前にも見た黒髪の長身の侍女兼護衛が入ってくる。

 腕には数冊の本と紙束、それに標準的な長さの杖まで抱えていた。机の上に次々と置かれていくそれらを見て、キツキは目を瞬いた。


「……多くないか?」


「必要なものを持ってきただけよ」


 女性は荷物を置くと、レニアに一礼して部屋を出ていった。

 キツキは、自分の前にあるノートを見る。


「俺、ノートしか持ってきてないんだけど」


「ええ。あなたにそこまで期待してなかったわ」


「そうですか……」


 一応、思い出したことを書き足したり、気になる場所に印をつけたりと、それなりに準備したつもりだったのだが、どうやら共同研究というものを少し甘く見ていたらしい。


 レニアは席につくと、持ってきた紙を何枚か並べた。


「まず今後の予定を決めるわ。プライムフォーラムは7月の半ば。それまでに、最低でも発表できるところまで持っていく」


「あと1か月半くらいか」


「そうよ。ただ、問題は研究だけじゃないわ。あなたの参加資格も――」


「あ」


 レニアが止まった。


「……なに?」


「それ、目処が立った」


「……どういうこと?」


「参加資格だよ。エストって人が推薦してくれることになった」


 数秒、返事がなかった。


「……エストって、緋石塔のエスト・リバー?」


「うん」


 レニアがじっとキツキを見る。


「あなた、一体何をやらかしたの?」


「やらかしたって……考査の最後の問題あっただろ。あれの答案がちゃんと成立してたらしくて、それで評価してもらった」


「……あなたもあれを解いたの?」


「まあ、一応」


 レニアは大きくため息をついた。


 キツキは気まずそうに頬をかき、少しだけ視線を逸らす。


「ただ、俺が解いたことも、答案の中身も、しばらく外では話さないようにって言われてる」


「……それを私に話してよかったの?」


「まあ、レニアならいいかなって」


 レニアは一瞬だけ目を瞬いた。

 その顔に、わずかな満足の色が浮かぶ。


「……そう。じゃあ、その答案、後で私に見せなさい」


「いや、それは駄目だろ」


「どうしてよ。私ならいいんでしょう?」


「話すのと見せるのは別じゃないか?」


 レニアの眉が分かりやすく寄った。


「私が誰かに話すと思っているの?」


「いや、そういう意味じゃなくて」


「なら、見せられないか聞いてきなさい」


「……俺が?」


「他に誰がいるのよ。それに、研究にも使えるかもしれないでしょう」


「いや、まあ、そうだけど……」


 レニアなら見せてもいい気はする。

 いや、でも駄目だろ。

 とはいえ、確認くらいなら――と思ったところで、別の問題に気づいた。


 そもそも、レニアに話したことだって許可は取っていない。そこまで考えると、今ここで答えを出せる話でもなかった。

 キツキははっきりした返事をせず、その場を流した。


 レニアはまだ不満そうだったが、それ以上は追及せず、資料に視線を戻した。


「参加資格の問題が片づくなら、あとは研究を形にするだけね」


 そう言って、レニアは小さく息を吐いた。

 それから気持ちを切り替えるように、机の上の資料を引き寄せる。


 そうして2人は、普段使われている杖とキツキのノートを見比べていった。


 キツキがメガネ越しに杖を観察すると、ノートに残した古杖との違いがすぐに見えてきた。


「ここ、途中で分かれてるな」


「資料にはない構造ね」


「こっちに戻ってたと思う」


 レニアの視線が、キツキの目元で一瞬止まった。


「……本当に便利ね、それ」


「なにがだ?」


 レニアは今度はキツキの顔を見た。ほんの一拍置いて、


「別に」


 それだけ言うと、何事もなかったように資料に視線を戻した。


 キツキも杖に視線を戻したが、数秒してからようやく気づいた。


(……今の、絶対メガネのことだよな?)

 少し不安にはなったが、当のレニアは何も言わず資料を見ている。なら、こちらから掘り返す必要もない。


 そういうことにした。


 だが、問題はその先だった。


「ここを流れていた魔力の量は?」


「……分かんない」


「この2つは同時に動いていた?」


「そこまでは見れてない」


「じゃあ、この接続は?」


「たぶん、こうだったと思う」


「たぶん?」


「う……」


 最初は順調に埋まっていた紙も、細部に入った途端、それ以上進まなくなった。

 形は覚えていたが、実際に同じものを作るとなれば、それだけでは圧倒的に情報が足りない。


 レニアはノートに描かれた杖を見下ろした。


「この杖をもう1度見ることはできないの?」


「俺もできるならそうしたいんだけどな」


 キツキは、あの場所へ行った時のことを簡単に説明した。

 自分から行く方法は分からないこと。そもそもホンペクも、頼めば素直に連れていってくれるような奴ではないこと。


「つまり、今頼れるのは、このノートとあなたの記憶だけということね」


「そうなる」


 レニアはしばらく黙ってノートを見ていたが、やがてペンを置いた。


 キツキもそれを見て、自分も椅子の背に深くもたれかかる。


「これ、思ってたよりやばくないか?」


「ええ。今のやり方でその杖を再現しようとしていたら、7月には到底間に合わないわ」


 レニアも資料から顔を上げた。少し疲れた顔をしている。


「なあ、一回休まないか?」


「……そうね」


 そうして2人は揃って小演習室を出た。

 凝り固まった頭を少し休ませるつもりだったが、廊下に出ると、周囲は妙に騒がしかった。


 何の騒ぎだろうとキツキが顔を上げたところで、すれ違った生徒の声が耳に入った。


「ブロムがクラス4になったって!」

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