表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/88

第59話 供物の森・四

 根の向こうで、剣と爪がぶつかる音が響く。

 そちらへ視線を戻さなくても、4人がそれぞれに動いていることは分かっていた。


 ――自分だけが、何もしていない。


 改良した雷なら撃てる。

 炎も、水も、風も。これまで覚えた魔法なら、形にすることはできる。

 だが、レニアの魔法でさえ、フォールンへ届くまでにほとんど力を失っていた。


 4人に劣っている自分の魔法を加えたところで、力になれるとは思わない。それどころか、ブロムやキュルの動きを邪魔する可能性すらある。


 なら、攻撃とは別の形で、自分にできることを探すしかない。


 キツキは持ち上げかけた手を止め、メガネに意識を向けながら、爪に抉られた太い根を見つめた。

 露出した根の内側を、淡い反応がゆっくりと流れている。


 その向こうで、キュルの手元から黒い線が伸びた。フォールンへ近づくにつれ、線が細くなっていく。


 同時に、根の内側を走る反応が、わずかに強まった。


 今度は、エリルの障壁がフォールンの爪の前に現れた。やはり、形になった時点ですでに薄い。


 その瞬間にも、根を流れる反応が強まった。


 キツキは目を凝らした。

 偶然ではない。外へ出した魔力が弱まるたび、根の反応が大きくなっている。


 脳裏に、木に手を触れていた村人の姿が浮かんだ。男が魔力を流すと、根が動き、獣の囲いを塞いでいた。

 レニアとブロムが試したときも、魔力を受け取った根は同じように動いた。


 なら、外へ出した魔力は消えているのではなく、根に流れ込んでいるのかもしれない。


 確証はない。

 それでも、試す価値はある。


 ブロムの剣が大きく弾かれた。

 光をまとった刃が横へ流れ、フォールンの前から一瞬だけ障害が消える。


 それをカバーするように、キュルがすぐに飛び込んだ。短い黒い線を手首へ絡ませるが、踏み込みの勢いを止めきれない。


 エリルの障壁が、キツキへと続く進路に2枚重なって現れた。

 1枚目が爪に触れて砕ける。続く障壁も、フォールンの肩に押されて大きくひび割れた。


「キツキ、下がって!」


 レニアの声に、キツキは反射的に後ろへ足を引きかけた。

 だが、すぐ背後まで迫った足音が、それでは間に合わないと告げている。


 キツキはフォールンを視界の端に置いたまま、露出した根に向かって走った。


 そこまでは、ほんの数歩しかない。

 だが、背後から迫る足音は、どんどん距離を詰めてくる。


 追いつかれる――そう思った瞬間、ブロムが再びフォールンの前に割り込み、血の流れる左腕で剣を支えた。


 黒い爪と光の刃がぶつかり、フォールンの足が止まる。


 その隙に、キツキは太い根の前に滑り込み、片膝をついた。勢いのまま、根の表面へ手を押し当てる。


 何が動くのかは分からない。そもそも、自分の魔力にも反応する保証すらない。

 それでも、迷っている時間はない。


 キツキは掌から、一度に出せるだけの魔力を根へ流し込んだ。


 太い根の内側を走っていた淡い反応が、一気に広がる。

 直後、足元の土が低く震えた。


「うおっ……」


 キツキが思わず手を引きかけた、そのときだった。


 フォールンの周囲で地面が盛り上がり、いくつかの太い根が土を押し退けて姿を現す。地面すれすれに並んだ根は、敵も味方も関係なく、戦場そのものを細かく区切っていった。


 根がフォールンへ襲いかかるような、都合のいいことは起きなかった。

 それでも、形を変えた戦場へ先に適応したのは、3人の方だった。


 ブロムが持ち上がった根を避けて踏み位置を変えた。キュルも1度は進路を塞がれたが、すぐに根の隙間へ身体を滑り込ませた。フォールンが踏み込める場所も、同じように限られていた。


 わずかに向きを変えたところへ、ブロムの剣が振り下ろされる。それを爪で受け止めたフォールンの側面にキュルが回り込み、反対側からエリルの障壁が差し込まれた。


 キツキは、根に触れた手に思わず力を込めた。


 ――思った通りだ。


 顔を上げると、持ち上がった根を見ていたエリルの視線が、キツキの手元へ移った。


 一瞬だけ目が合う。

 それだけで何が起きたのかを察したらしく、エリルはすぐに戦場へ視線を戻した。


「キツキ、そのまま続けて」


 根の間を縫って動くブロムたちを追ったその目が、フォールンのさらに奥で止まる。

 木々の間には、先ほど見た獣の囲いよりも、一際大きな根の囲いがあった。


「あそこまで追い込むよ」


 キツキもフォールンの向こうへ目を向けた。

 囲いまでは、かなりの距離がある。


「次に動かせそうな根を探して。根が動いたら、キツキもその近くまで前へ出て」


「俺も?」


「離れたままだと、根がどう動くのか見えなくなるでしょ。私たちがフォールンを押すたび、キツキもついてきて」


 エリルは持ち上がった根から、囲いまでの間に並ぶ木々へ目を走らせた。


「片側ずつ道を塞ぐ。空いている方へ進ませながら、戦場ごと森の奥へ移すよ」


 言葉が終わるより早く、フォールンが根を踏み越えようとした。ブロムの剣がその進路を遮り、空いている側へ押し戻す。


 キツキはその動きから、囲いまでの道へ視線を伸ばした。


 根で片側を塞ぎ、ブロムたちが空いた方へ押す。自分も根を動かすたび、それに合わせて前へ出る。


 それを繰り返せば、遠くにある囲いまで戦場ごと移していける。


「分かった! やってみる」


 キツキは根に手を当て直し、もう1度魔力を流した。

 掌に、流し込んだ魔力が途中でいくつかに分かれる感覚が返ってくる。


 そのままメガネに意識を向けると、露出した根の内側で、淡い反応がいくつかに分かれ、それぞれ別の向きへ流れていくのが見えた。


 その先で何が動くのかまでは分からない。

 それでも、掌に返る感覚とメガネに映る流れを重ねれば、反応が向かうおおまかな方向は追えた。


 キツキは、囲いへ続く道の片側へ向かう反応を選び、さらに魔力を流した。


 地面が震え、少し離れた場所で太い根が持ち上がる。道の片側が塞がれ、フォールンの進める方向が狭まった。


「ブロム、キュル! 空いている方へ押して!」


 エリルの指示に、2人がすぐさま動く。


 ブロムが正面から剣を押し込み、キュルが短い黒い線で爪の軌道をずらす。フォールンは根を越えることができず、開いている方へ足を踏み出した。


「そのまま続けるよ」


 それからは、同じ動きを繰り返した。


 エリルが塞ぐ側を選び、キツキがその方向へ魔力を送る。ブロムとキュルは根で狭められた道を利用して、フォールンを空いている方へ押し込んでいった。


 根が持ち上がるたび、キツキも次の根へ移り、前線は少しずつ森の奥へ押し上がっていった。


 それでも、フォールンの視線は、何度遮られてもキツキへと戻っていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


基本、毎日2話更新です!


続きが気になる、また読みに来てもいい、と思っていただけましたら、

ブックマークしていただけると励みになります!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ