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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第六章

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第146話 絶対に怒らせちゃいけない人

 食事を終えてからも、飛行船は順調に航行を続けていた。


 共用ホールでは乗客たちが思い思いに過ごしており、その中にはエリルの姿もあった。


 エリルは同行している4年生の男子学生と談笑していた。相手の話に耳を傾け、ときおり質問を挟んでは、楽しそうに笑っている。


 その合間に、エリルは少し離れたところにいるキツキとレニアへ何気なく目を向けた。2人は資料を広げ、ときおり指し示しながら言葉を交わしている。どうやらフォーラムでの発表に向けて、何かを確認しているようだった。


 そうして船内でそれぞれの時間を過ごしているうちに、窓の向こうにはカルネアの街並みが見えてきた。


「おお……!」


 キツキは目を輝かせ、思わず窓に近づいた。


 遠くまで建物が続いている。その中には周囲よりもひときわ高い建物や塔がいくつもあり、午後の日差しを受けた窓ガラスがところどころで輝いていた。


 建物の数も、密集の仕方も、キツキがこれまで見てきた街とはずいぶん違っている。


「ここがカルネアか……」


 学問や研究が盛んな街だとは聞いていたが、実際に見ると想像以上の規模だった。これほど大きな街なら、見て回るだけでも楽しそうだ。


 街並みに見入っていると、飛行船がゆっくりと高度を下げ始めた。

 乗客たちも荷物を整え、着陸の準備を始めている。キツキも窓から離れ、自分の荷物を取りに戻った。


 そこにはホンペクの姿もあった。ところが、いつもは綺麗な毛並みが、なぜかあちこちボサボサになっている。


(……何やってたんだ、こいつ?)

 当のホンペクは、特に気にした様子もなかった。


「ホンペク、もうすぐ着くぞ」


『……フンッ』


 ホンペクは鼻を鳴らすと、全身をブルブルと震わせた。ボサボサになった毛が一斉に揺れ、そのまま霊体化して姿を消してしまった。

(……本当に何しに来たんだ? もしかして飛行船に乗りたかっただけなのか?)


 そんなことを考えていると、船体が小さく揺れ、飛行船は無事に着陸した。


 乗客たちが順番に降り始めると、ギレル騎士団や緋石塔の関係者も、それぞれ荷物を持って移動を始めた。レニアに付き従うフォルテア王国の騎士たちの姿もある。


 キツキも荷物を手に出口へ向かった。


 初めての空の旅は、思っていた以上に楽しかった。窓から眺める景色も、船内での食事も、何もかもが新鮮だった。


 そして次はいよいよ、自分たちが作った杖の研究を発表する番だ。


 ほかの学生たちは、いったいどんな研究を発表するのだろう。何か面白いものが見られるかもしれないと思うと、それだけでも楽しみだった。


 一方で、自分たちが苦労して作り上げた杖の研究が、ほかの参加者にどう受け止められるのかも気になる。レニアと一緒に考え、何度も試してきたものを、今度は自分たち以外の人間に見てもらうのだ。


 そんな期待と少しの緊張を抱えながら、キツキは飛行船の階段を降り、学究都市カルネアの地面へと足を踏み出した。


 地上に降り、改めて周囲を見渡すと、発着場には荷物を抱えた人々が行き交っていた。


 大きな荷物を運ぶ者もいれば、書類や本を抱えて足早に歩く者もいる。何人かで集まって話していた者たちも、手元の書類を確かめると、すぐに別々の方向へ歩き出していった。


 プライムフォーラムが間近に迫っているからだろうか。街の規模にも驚いたが、こうして地上に降りてみると、人々の慌ただしい様子も目につく。

 キツキがそんな光景を眺めている間に、ほかの学生たちも降りてきた。


 そのまま一行は発着場でマリベルからの指示を待った。

 同行していた騎士たちは、行き交う人々に目を配りながら周囲を警戒していた。フォルテア王国の騎士たちも、その警備に加わっている。


 レニアのすぐそばには、侍女兼護衛のリゼットがいた。

 そこへ、小さな羽虫がふらふらと飛んできた。レニアからはまだ少し距離があり、すぐそばにいたリゼットの方が近い。


 次の瞬間、リゼットの手が動いた。

 鋭い手刀が羽虫を切り裂くと、リゼットは何事もなかったように手を下ろした。


 キツキは思わず目を瞬かせた。

(……え? 今、何をしたんだ?)


 キツキが捉えられたのは、リゼットの手が動いた一瞬だけだった。


 しかも、当の本人は涼しい顔で立っている。レニアもリゼットの動きに目を向けていたが、特に驚いた様子はなかった。


 キツキはごくりと唾を飲んだ。思わず額に冷や汗がにじむ。

(……あの人だけは、絶対に怒らせちゃいけないな)


 そんなキツキをよそに、マリベルの案内で一行が動き始めた。キツキも慌ててその後についていく。


 護衛の騎士たちも一緒に移動しており、ほかの通行人とはある程度の距離が保たれていた。


 キツキが行き交う人々を眺めていると、向こうから歩いてくる少女が目に留まった。


 鮮やかなピンク色のボブヘアに、すらりと尖った耳。どうやらエルフの少女らしい。年齢は自分たちとそう変わらないように見える。可愛らしい顔立ちをしており、周囲の建物を興味深そうに眺めながら歩いていた。


(……ずいぶん目立つ子だな)

 キツキはそう思いながらも、そのまま歩き続けた。


 そのとき、レニアの視線が少女の顔で止まった。


 モニカ・ソラリー。

 レニアは、その顔を知っていた。

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