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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第五章

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第140話 ピーマンと筋トレと見落とし

 夕食にはまだ早く、おやつにするには少し遅い。そんな中途半端な時間の食堂は、普段よりずっと空いていた。


 トレーを持ったキツキが席を探していると、エリルとキュルを見つけた。向かい合って座り、ちょうど食べ始めたところらしい。


「よっ。ここいいか?」


「いいよ~」


 エリルは気軽に答えた。


 キュルは何も言わず、自分の隣の椅子をぽんぽんと叩く。どうやら、そこへ座れということらしい。


 今日はやけに歓迎してくれるな。


 なんの気なしに隣に座ると、キュルのトレーにはキツキより少し多いくらいの料理が並んでいた。


「結構食うな」


「成長期」


「まだ伸びるつもりなんだ?」


「伸びる」


 エリルにからかわれても、キュルは真顔だった。


(意外と身長気にしてたんだな)


 その後もしばらく、取り留めのない話をしながら食事を続けていた。

 ふと自分の皿に目を戻すと、さっきまでなかったはずのピーマンが紛れ込んでいる。


「あれ、俺のにピーマンなんて入ってたっけ」


 自分で頼んだ料理を思い返すが、入っていた覚えはない。

 向かいのエリルを見る。そちらの皿には、まだピーマンが残っている。


 それから隣を見ると、キュルは何食わぬ顔で食事を続けていた。


「……お前だろ」


「違う」


 即答だった。


 ピーマンを1切れつまみ、キュルの皿に戻そうとする。すると、キュルは皿をすっと引いた。


「コラ、好き嫌いせず食べなさいっ」


 もう1度ピーマンを近づけると、キュルはわずかに身を引き、警戒するように目を細めた。


 向かいでは、エリルが口元を緩めている。


「……見てたのに止めなかっただろ」


「どーだろうね」


 口元がもう答えになっていた。


 仕方なくピーマンを口へ放り込み、キツキは話題を変えた。


「そういや、エリルの方はフォーラムの準備どうなんだ?」


「んー、研究自体はほとんど終わってるよ。あとは発表に合わせて少し整えるくらいかな」


「もうそこまで終わってんのか」


「うん。たぶん、キツキも発表を見たら驚くと思うよ」


「……そんなこと言われたら気になるだろ。何やるんだよ」


「んふふ~。それは当日のお楽しみ」


 楽しそうに笑うだけで、それ以上は教えてくれない。


「キツキたちの方は?」


「それぞれの効果はだいたい確認できた。今はそれを1つにまとめてるところだな」


 料理をもぐもぐと食べていたキュルが、そこで短く口を挟んだ。


「遅い」


「うっ……まあ、そうだよな」


 思ったより刺さったキツキを見て、エリルも少し笑う。


「結構ギリギリじゃない? 間に合いそ?」


「……なんとかするよ」


「レニア姫にとっても大事な機会なんだから、ちゃんとしなよ」


 少しだけ真面目になった声音に、キツキは箸を止めた。


「わかってるよ」


 そう返して、また食事へ戻った。


◇


 最近はフォーラムの研究や魔法の鍛錬に時間を使うことが多く、身体の方まで手が回っていなかった。

 さすがにそろそろ身体も動かしておかないとな、とキツキは学院内の鍛錬施設に足を運んだ。


 中に入ると、探すまでもなくブロムが目に入った。背が高く、鍛えた身体つきというだけでも目立つ。すでに何種目か終えているらしく、薄く汗が浮いている。近くの女子生徒も、時折そちらへ視線を向けていた。


 ちょうど1セット終えたところらしく、ブロムが器具から手を離す。それを見て、キツキは軽く声をかけた。


「よっ、ブロム」


 声に気づいたブロムが振り返る。額にかかった金髪の先が汗でわずかに濡れ、光を拾ってきらりと煌めいた。鍛えた身体も相まって、ただ振り向いただけなのに妙に絵になる。


(なんでこんなに汗かいてんのにかっこいいんだよ)


「珍しいね、キツキ」


「まあ、最近フォーラムの研究とかで、こっちまで手が回んなくてな」


 軽く身体を温めたあと、2人は隣り合った同じ型の器具へ、それぞれ腰を下ろした。


 座ったまま、重りにつながった取っ手を腹のあたりまで引き寄せる、いわゆるシーテッドローと呼ばれる類の器具だ。


 キツキは10回を何セットかやるつもりで、少し重めに設定した。

 8回目を越えたあたりから腕が重くなる。最後の2回はかなりきつかったが、なんとか引き切った。


 取っ手を戻し、大きく息を吐く。


「そういや、休みに入ったら師匠のとこ行くって言ってたよな?」


「うん。入ったらすぐ行くつもりだよ。たぶん、しばらくはみっちりしごかれると思う」


 ブロムはそう言って、少し苦笑した。


「お前ぐらい強くても、まだしごかれるのか」


「師匠から見たら、まだまだだからね。道のりは遠いよ」


 ブロムがそこまで言うほどなのか。


「その師匠って、どれくらい強いんだ?」


 ブロムは少し考えた。


「……本気の師匠は僕も見たことないんだよね。でも、たぶん相当だと思うよ」


 ……ムルガドとどっちが強いのだろうか。

 ふとそんなことを考えたが、比べようもない。


 次のセットに入ろうと取っ手に手を伸ばしたところで、ブロムが口を開いた。


「キツキ、さっき最後の方ちょっと反動使ってたよ」


「え、マジ?」


「うん。上体ごと後ろに倒して引いてたから気になってね」


 言われた通り、今度は身体を振らずに引いてみる。さっきよりきつい。力を入れようとすると、肩が上がった。


「次は肩に力が入りすぎてるかも」


 反動を使わないことと、肩に力を入れすぎないこと。両方を意識してやろうとした途端、身体が妙に固くなる。


「全部いっぺんに直さなくてもいいと思うよ。まずは反動を使わないことだけ意識してみたらどうかな」


「そういうもんか?」


「うん。1つずつ直していけばいいと思うよ」


「言われなかったら気づかなかったな。助かった、ブロム」


 ブロムは軽く笑って、自分の取っ手を握り直した。


 キツキも少し重さを落としてやり直す。軽くしたはずなのに、反動を使わずに引くと妙にきつい。


 ちゃんとやってるつもりだったんだけどな。


 その後も2人はいくつか器具を回った。久しぶりだった分、思った以上に効き、終わる頃にはキツキの腕も脚もわずかに震えていた。


 帰ろうとしたところで、入れ替わるようにクラスメイトのザッカ・フォンが来た。《筋肉は裏切らない》に所属しているだけあって、妙に本格的なタンクトップ姿だった。


 軽く挨拶を交わし、キツキは施設を後にした。


◇


 施設を出てしばらく歩いても、腕や脚の震えはまだ抜けていなかった。久しぶりにしっかり身体を動かしたためか、その震えもどこか心地いい。ちゃんと鍛えたという実感があった。


 そんなことを考えていると、さっきのシーテッドローを思い出した。

 反動を使っていたことも、ブロムに言われるまで気づかなかった。普通にやれているつもりだった。


 なら、魔法の鍛錬はどうだろう。


 4属性をもう1度同時に使おうとするより、まずは2属性を安定して同時に使えるようにした方がいいのかもしれない。普段の魔法の鍛錬にも、見直せるところはありそうだ。


 いや、研究もか。

 この前だって、レニアが魔力の減り方の違いに気づいたから研究が進んだ。


 他にもまだ、自分では気づいていないことがあるんじゃないか?


 ふと視線を上げると、いつの間にか陽はだいぶ傾いていた。斜めから差す光に照らされ、見慣れた校舎もいつもとは少し違って見えた。

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