第135話 極端な30位と、止まっていた流れ
第2回定期学科考査の結果が掲示板に張り出され、キツキは上から順に目を走らせた。
1位、エリル・ポルテュン。100点。
前回に続いて満点だったが、今さら驚くほどでもない。あいつならまた取るか、とそのまま視線を下げると、2位には同じ98点でレニアとブロムの名前が並んでいた。
ブロムも相変わらず高い。レニアに至っては、研究も続けながらこの順位だ。少し前、研究中に見えた目元のクマを思い出す。研究と考査の準備を両方やっていたなら、あれもまあ納得だった。
そこからさらに自分の名前を探していく。
あった。30位。前回の15位から見れば、かなり落ちていた。
とはいえ、前回は七環術式の問題で、自分だけ大きく点を拾えた。今回はそういう問題もない。前より知っていることは増えているし、考査前にもそれなりに勉強した。順位は下がったが、まあ、こんなものだろう。
隣にいたエリルは、30位にあるキツキの名前を見て、それから本人へ顔を向けた。
「……ほんと極端だよね、キツキって」
「何がだ?」
「別に~」
それ以上説明する気はないらしい。
その隣では、25位だったキュルが腕を組み、少しだけ胸を張っていた。前回より順位は落ちているはずなのに、妙に誇らしげだ。
あれだけ勉強会から逃げ回っていたのに、自分より上の25位。
結果がこれでは、さすがに何も言えない。
何とも言えない気分のまま掲示板へ視線を戻すと、かなり下の方に見知った名前が2つ並んでいた。
ライトとロアン。
なんというか、あの2人らしい。
◇
その日の放課後、キツキはレニアと研究室にいた。
考査を挟んでも、杖の研究自体は少しずつ続けていた。魔力のロスをさらに減らすところまではできたが、同じ条件で氷魔法を使っても結果が安定しない状態が続いていた。
机の上には、その間に手を加えた試作品と記録が広がっていた。
レニアは失敗した結果を書き留めると、ほとんど間を置かず次の確認に移る。普段より、その切り替えが少し早い。
プライムフォーラムも近づいている。ここ数日進展が止まっていることもあって、レニアも多少焦っているのだろう。
その様子を見ていると、こっちまで気が引き締まる。少なくとも、自分が見落として余計に時間を食うのはなしだ。
キツキはメガネ越しに、杖を通る魔力の流れへ意識を集中させた。今まで以上に、何一つ見逃さないつもりで追っていく。
「いくわよ」
「ああ」
レニアが試作杖を構え、氷塊を放つ。
氷は標的にぶつかり、砕ける。魔法そのものは問題なく成立している。だが、さっきより少し弱い。
杖の中を通る魔力も、途中までは滑らかだ。だが、ある箇所を境に乱れている。流れが途中で乱れること自体は、ここ数日の実験でも見てきた。
けれど、今回は妙に引っかかる。
「……前も、この辺から崩れてなかったか?」
「この辺?」
キツキは、さっき流れが乱れ始めた辺りに当たる杖の一部を指した。レニアは示された箇所に目を向け、少し考える。
「もう1回、同じ条件でやってみましょう」
キツキがもう1度魔力の流れへ意識を向けると、レニアが同じように氷魔法を放つ。
今度も、ほとんど同じ場所を境に、まとまっていた流れが乱れたまま、先へ続いていく。
「やっぱり、同じところからだ」
レニアの手が一瞬止まった。キツキに視線を向け、その目がメガネの辺りでわずかに止まる。
けれど、何も言わずに過去の記録を引き寄せた。キツキも横から覗き込み、今示した箇所とこれまでの結果を照らしていく。
「……確かに。前もこの辺りね」
何枚か見比べたところで、レニアの指が止まった。
「……ここで損失を抑えた分、その先へ流れる魔力が増えている。けれど、その先は今までの流れに合わせたまま……。そういうことね。だから、ここから崩れていたんだわ」
キツキはすぐには返さず、少し眉を寄せた。しばらく考えたあと、ようやく腑に落ちたように小さく頷く。
「……ロスを減らしたところだけ見れば成功だけど、その先がついてきてないってことか」
「ええ。おそらくね」
そう言うと、レニアは広げていた記録から何枚かを抜き出した。さっきまで結果を追っていた時とは違い、手が止まらない。
「調整するわ。キツキ、また流れを見て」
「わかった」
そこからは、レニアが何度か構造を調整し、そのたびにキツキが魔力の流れを確認した。古い杖の記録と直前の結果も見直しながら修正を重ね、レニアが再び同じ氷魔法を試す。
これまで流れが崩れていた箇所を過ぎても、今度は乱れが起きない。まとまった流れのまま、その先へ続いていく。
「乱れてない……ちゃんと先まで流れてるぞ!」
キツキがそう伝えると、レニアの表情がわずかに明るくなった。すぐに手元の結果を確かめる。
「……ええ。威力も上がってるわ。でも、まだ1回よ。もう少し確かめましょう」
その後も条件を揃えて何度か試したが、結果は大きくぶれなかった。魔力の流れも途中で崩れず、損失は安定して抑えられ、その分だけ威力が上がる傾向も続いた。
最後の結果を書き終えたところで、レニアが小さく息を吐いた。少しだけ肩から力が抜ける。
「……これなら、強化の方はひとまず形になったと言えそうね」
「ようやくだな!」
「ええ」
レニアはもう1度記録に視線を落とした。けれど、今度はすぐに次のページをめくろうとはしなかった。
「ただ、フォーラムへ持っていける形にするなら、最終的には私たち以外が使っても同じ結果になるかは確認しないと」
「……あ、そうだった。そこまで確かめて、やっとか」
「当たり前よ」
即答され、キツキは一瞬だけ口を開いたが、結局何も言わずに机の上の試作品に目を戻した。
あの杖を使った時に気になったことは、もう1つある。魔法の威力が上がることとは別に、使っている間が妙に楽だった。
強化の方が一段落したなら、次に確かめるのはそっちだろう。
「じゃあ、次はもう1つの方だな」
「そうね。そっちも確認しないと」
レニアが次の記録へ手を伸ばしかけて、その手を止めた。
何かを思い出したように、広げていた記録をまとめ始める。
「今日はここまでにしましょう」
「なんかあるのか?」
レニアは、何を言っているのかとでも言いたげにキツキを見る。
「エリルが、今日また5人で集まりたいって言ってたでしょ」
「……そうなのか? 俺、聞いてないんだけど」
レニアの手が止まった。
「え?」
一瞬だけ目を瞬かせる。
そのまま少し考えたあと、何かを思い出したらしい。けれど悪びれるでもなく、むしろ少しだけ胸を張ってキツキへ向き直った。
「そういえば、あなたにも伝えるように言われていたわね」
「……もっと早く言ってほしかったな」
「今言ったでしょ」




