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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第五章

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第132話 3日前から本気出す

 総合研究会でエリルたちに聞かされてから少しして、2回目の定期学科考査の日程が正式に発表された。それから何日か経ち、今は考査まであと3日。


 キツキは自室の机に向かい、広げた教材とノートを睨んでいた。


 前回みたいに七環術式なんてものを出されたら、たまったものではない。

 そう考えたところで、ふと引っかかった。


 いや、問題はそこじゃない。


 前回だって、問題を見た時点では、あれがどれだけおかしいのか判断できなかった。自分にとって見慣れない問題でも、この世界では普通なのかもしれない。逆に、普通そうに見えても、実はそうではない可能性だってある。


 つまり一番困るのは、何を警戒すればいいのか自分で判断できないことだった。


「……怖いな、これ」


 小さく呟いて、教材の続きを追う。


 また前回みたいな問題が混じっていたとしても、それを丸ごと取りこぼしていいほど余裕があるわけでもない。なら、せめて取れるところは確実に取っておきたい。


 その点、メガネを使ってどうにかなる問題ならまだ助かる。ここまで学院生活をやってこられたのも、このメガネのおかげだ。今ではもう、頼りっぱなしと言ってもいい。


 ただ、メガネでどうにもならない問題もある。暗記が必要なものは、自分で覚えるしかない。


 そう考えると、結局は普段からちゃんと勉強しておけ、という話になる。


「過去の俺よ……なぜやらなかった……」


 とはいえ、キツキにだって言い分はある。


 この世界のことを覚えながら授業についていって、魔法の鍛錬もして、そのうえ研究まで始めた。こうして並べてみると、我ながら結構いろいろやっている。


 ……まあ、だからといって考査が待ってくれるわけでもない。

 結局、今やるしかないのだ。


 キツキは小さく息を吐き、ペンを動かし始めた。


 それからしばらくは順調に進んでいたが、同じ行を何度か目で追っていたことに気づいた瞬間、ふっと集中が切れた。


 椅子にもたれ、そのまま窓の外を見る。特に何か面白いものがあるわけでもないのに、ぼんやり眺めているだけで少しだけ頭が休まる気がした。


 そうしているうちに、ふと喉の渇きを覚える。

 次に気づいたときには椅子を離れ、冷蔵庫からコーラを取り出していた。


「……糖分補給」


 自分に言い聞かせるように呟いて、開けたばかりのコーラを一気に飲む。

 冷たさと炭酸が喉を通り抜ける。その感覚に浸りながら、ひと息ついた。


 ふと、何人かの顔が頭に浮かぶ。

 その中の1人だけが、なぜか少し長く残った。


 あとになって、もっとやっておけばよかったと後悔するのは嫌だった。


 キツキは机へ戻ると、再び教材を手元へ寄せ、さっきの続きへ目を落とした。


◇


 プライムフォーラムの開催準備を進める一室で、2人の男が今年の関係資料に目を通していた。


「今年も水準は高そうですね」


 若い男が、並んだ名前を追いながら言う。


「これだけ名前が揃っていれば、期待していいんじゃないですか?」


「……そうだな。顔ぶれだけ見ても、今年も十分だ」


 そう答えたものの、年長の男の視線は資料の上に残ったままだった。

 その様子に気づいた若い男が、少し首を傾げる。


「何か気になりますか?」


「いや、むしろ逆だ」


 プライムフォーラムに集まる学生たちは、間違いなく優秀だ。年を追うごとに、その水準も上がっている。


 それなのに、年長の男自身は、以前ほど驚かなくなっていた。


「……優秀なのが当たり前になりすぎたのかもしれんな」


「贅沢な悩みですね」


「まったくだ。こちらが求めすぎているだけかもしれんがな」


 年長の男はそう言いながら、次の名前へ目を移した。


 レニア・フォルテア。


「第三王女もいるんですね」


 若い男の声には、素直な興味が混じっていた。


 年長の男は答えず、その名前をしばらく眺めた。

 フォルテア王国第三王女。類まれな容姿で知られ、それに加えて、あらゆる方面に才能があるという話も聞いている。


 だが、第一王女や第二王女ほど、目立った実績の噂は耳にしたことがない。過去にプライムフォーラムへ参加した2人は、どちらも強い印象を残していた。


 ただ、年長の男が覚えているのは、華々しい成果だけではない。その成果の裏側についても、彼はいくつか知っていた。そうした事情もあって、フォルテアという国そのものにも、あまり良い印象はない。


 もちろん、第三王女本人について知っていることは多くない。だから同じだと決めつけるのは早計なのだろう。

 それでも、フォルテアの名を見れば、期待より先に不信感が立つ。


 年長の男は次の名前へ目を移した。

 そこにあった「キツキ」という名前を見て、考える間もなく声が漏れた。


「……誰だ?」


「1年生ですね。私も知りません」


 年長の男は簡単な記載を追い、その中にあった推薦者の名で目を止めた。


「……エスト・リバー?」


 その名を読み上げながら、年長の男はキツキという名前へ視線を戻した。


 どんな人物なのかは、まだ何も分からない。

 それでも、エスト・リバーが推薦しているというだけで、流していい名前ではなくなった。


 そんな年長の男をよそに、若い男はとっくに別の資料へ目を移していた。


「あ」


 不意に上がった声に、年長の男もそちらへ意識を向ける。

 若い男は資料の一か所を指していた。


「この生徒、例の七環術式を解いた子ですよ」


 示された先には、エリル・ポルテュンの名前がある。

 年長の男は少しだけ間を置いた。


「……今年は、少しくらい予想を裏切ってくれるといいんだがな」


◇


 エルフェリア樹学院では、モニカ・ソラリーが友人と並んで廊下を歩いていた。


 ピンク色のボブヘアに、それとよく似た色の瞳。髪の間からは、エルフ特有の尖った耳がのぞいている。


「――それで、フォーラムの研究は順調なの?」


「うん! ちゃんと進んでるよ」


 モニカは迷いなく笑って答えた。


「ならいいけど。最近ずっとやってるでしょ。あんた、ちゃんと休んでるの?」


「うん! いっぱいご飯食べてるよ」


「……寝なさいって言ってるのよ。まあいいわ。頑張ってるみたいだし、今日は私がケーキ奢ってあげる」


「ほんと!?」


 さっきまで研究の話をしていたとは思えない勢いで、モニカの顔が明るくなった。


「早く行こ!」


 弾むような足取りで、モニカは友人の袖を引く。


「はいはい」


 友人は笑いながら、引かれるまま歩調を速めた。

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