第129話 食事だけじゃないんだよね
次に運ばれてきたのは、白身魚に澄んだ汁を合わせた料理だった。
キツキが魚を口へ運んでいると、エリルがブロムへ視線を向ける。
「そういえばブロム。あの大きい剣みたいなの、何だったの?」
「『黎明剣』のことかい?」
「そう、それ」
ブロムは食器を置いて、少し考えるように笑った。
「僕はどうしても近い距離で戦うことが多いからね。離れている相手にも使える技が欲しくて、僕なりに作ってみたんだよ。まだ完成とは言えないけどね」
「へ~」
「それに、大きい剣って格好いいだろう?」
「……それも込みなのか?」
ブロムは不思議そうに首を傾げる。
「? もちろん」
レニアも少しだけ意外そうにブロムを見ていた。
「まあ……分からなくはないけど」
キツキがそう返すと、ブロムは嬉しそうに笑った。
「だろう?」
「つーか、あの時いきなり俺にディオン先輩の相手をしろなんて言いやがって。こっちはびっくりしたぞ」
「あはは。あの時は助かったよ」
「無茶言いやがって」
今となっては笑い話だが、あの時は本気で焦った。
ブロムはふと思い出したように口を開く。
「でも、キツキもすごかったじゃないか。僕が『黎明剣』の術式を組んでいる間、4属性を同時に使っていたよね。僕もあれには驚いたよ」
レニアがわずかに目を見開いた。
「……あなた、それ本当なの?」
「あー、えーっと」
そこへ、エリルもすぐに食いついた。
「ああ、それ! 雷、水、氷、風だったよね?」
「……まあ」
「でもキツキ、火も使ってたことあるよね?」
嫌な流れになってきた。
案の定、エリルが面白そうに身を乗り出す。
「ね。結局、何属性使えるの?」
レニアたちまで揃ってキツキを見る。
集まった視線に、思わず言葉が詰まった。
「いや、それが……俺にも分かんないんだよな」
「どういうこと?」
「ちゃんと測ったの、入学した時くらいなんだ。あの時は測定不能だったし。全部試したわけでもないからな。それに今日も試したけど、2属性すらまともに重ならなかったよ」
ここまでなら、別に話しても問題ない。
ただ、このまま掘られて、どこで覚えたとか、昔はどうだったとか、その辺まで話が広がると困る。
キツキは無理矢理、話を変えることにした。
「……ところで、レニアたちは2位だったよな。どんな戦いだったんだ?」
そんなキツキの意図を見抜いたかのように、レニアはキツキをじっと見た。ほんの少し目を細めてから、小さく息を吐く。
「途中まではみんなで守備役を狙って動いていたわ。その後、3人は先に納品して、私は残ってジル先輩と戦ったけれど……負けたわ」
「でも、レニア姫もかなり目立ってたよ」
エリルが横から口を挟む。
「あのフォルテアの炎、すごかったよ。なんたって、あのジル先輩がビビってたくらいだから」
「……それは言い過ぎでしょう」
「そう? でも、最後のやつがまともに当たってたら、どうなってたか分かんなかったと思うけどな~」
レニアはエリルを見たまま、わずかに眉を寄せる。
「……あなた、どうしてそんなに詳しいの?」
レニアの言葉に、キツキも改めてエリルを見る。
確かに、エリル自身もクリスタルラッシュに参加していたはずなのに、少し前にはブロムが『黎明剣』を使っていたことを知っていたし、キツキが4属性を同時に使ったことも知っていた。
それに今度は、レニアとジル先輩の戦いまで、まるで見ていたかのように話している。
ブロムも黙ってエリルを見ていた。
そこへ、次の料理が運ばれてきた。
小さな器に入った穀物料理が、それぞれの前に置かれる。
エリルは給仕が離れるのを待ってから、口を開く。
「……ま、ちょうどいっか」
そう呟いて、レニアへ視線を戻した。
「信用できる人に、競技中の映像を追ってもらってたんだ。見ておいた方がよさそうなところは、あとで分かるようにしてもらってた」
「……そう」
レニアはそれ以上聞かなかった。
エリルはその反応に小さく頷いた。
「実は、今日みんなを呼んだの、ただ食事を楽しもうってだけじゃないんだよね」
それまでテーブルから聞こえていた食器の小さな音が、途切れた。
「キュルには、先に話してあるんだけど……」
「ん。いいと思う」
キュルが短く答える。
その返事に、エリルは少しだけ微笑んだ。けれど、すぐに真面目な顔に戻る。
「私、個人的にここにいるみんなは信用できると思ってるんだ」
キツキが目を瞬かせた。
ブロムも笑みを薄くしてエリルを見る。レニアも黙ったまま、話を聞いている。
「だから、これから何か気になることとか、危なそうなことを知ったら、お互いに共有しない?」
「……この5人でか?」
「うん。私も話せることは話すし、みんなも何か気づいたら教えてほしい。それで、危ないことを1人で抱え込まない」
少しだけ間を置く。
「それと、本当に必要な時は力を貸してほしい。もちろん、みんなに私の力が必要な時は、ちゃんと手を貸すよ」
そこでエリルは表情を緩めた。
「ただ、何でも話してってことじゃないよ。個人的な事情とか、誰かから預かってる秘密とか。そういうのは、本人が話したいかどうかでいいから」
エリルの言葉のあと、誰もすぐには口を開かなかった。
ブロムは少し考えるように視線を落とし、やがて静かに頷いた。
「僕は構わないよ」
口調はいつもと変わらない。ただ、表情は真剣だった。
「何かあった時は、僕も知ってた方が力になれると思う」
「ありがと」
エリルが頷き、今度はキツキを見る。
「キツキは?」
「俺もいいぞ。1人でどうにかできることばっかじゃないしな」
正直なところ、エリルの話を聞いた時から答えは決まっていた。
それに、ここにいる4人なら俺も信用できる。
エリルはそれを聞いて少し笑い、最後にレニアへ視線を向けた。つられて、キツキもレニアを見る。
レニアはすぐには答えなかった。
エリル、キュル、ブロムへと順に視線を向けていく。
そして最後に、キツキを見る。
目が合う。
ほんの一瞬だけ、レニアの視線がそこで止まる。
それから、レニアはエリルへ向き直った。
「……私もそれでいいわ」
「そっか」
エリルの表情が少し柔らかくなる。
「……みんな、ありがと」
エリルは満足そうに頷くと、目の前の4人を見回した。
「じゃ、早速なんだけど」




