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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第125話 クリスタルラッシュ・11

 ディオンとの戦いを終えてから少し経ち、残り時間も少なくなっていた。


 キツキとブロムは、無理に高得点のクリスタルを狙うのをやめて、確実に取れそうなものだけを拾いながら、最後の更新で使用可能になった納品地点へ向かう。


 少し早めに動いたこともあり、終了時間にはまだ余裕がある。


「ここまで来れば大丈夫そうだね」


「ああ。さすがにもう戦う気力はないしな」


 そう返した頃には、2人はもう納品地点のすぐ近くまで来ていた。

 そのまま戦闘禁止区域へ入ると、すぐに学院側の確認が始まった。あとは所持しているクリスタルの処理が終われば、安全区画へ転送される。


 そのまま待っていると、ブロムがふと別の方向へ顔を向けた。


「誰か来るね」


 キツキもそちらを見ると、少し離れたところから、1人の少女がこちらへ走ってきていた。


「あ、レニア!」


 最後の最後で知っている顔を見つけ、思わず声が出た。


 レニアもこちらを見た。

 その顔を見たところで、キツキはわずかに首を傾げる。


 何があったのかまでは分からない。ただ、レニアの顔が、いつもより少し張り詰めているように見えた。


 そのまま2人の目が合う。

 ほんの一瞬だけ、レニアの表情がやわらいだ。

 けれど、キツキの視線はその変化を拾う前に、別のところへ向いていた。


 走ってくるレニアの銀髪。その毛先に、まだわずかに薔薇色が残っている。


(あれ……?)

 前にも、どこかで見たような気がする。だが、思い出そうとしてもすぐには出てこない。


「それ、どうした――」


 最後まで言い切るより先に、視界が切り替わった。


「……え?」


 気づけば、キツキとブロムは待機場所へ転送されていた。さっきまで目の前にいたレニアの姿はもうない。


「なんだよ、今のタイミング……」


 狙ったようなタイミングに、思わず悪態が漏れる。周囲を見回してみても、当然レニアの姿はない。


 結局、髪のことも、張り詰めたような顔のことも聞けなかった。

 あれは何だったのかと再び考えかけたところで、すぐ近くから聞き覚えのある声が飛んできた。


「キツキ! ブロム!」


 ライトだった。

 少し離れたところではロアンもこちらへ手を上げている。


「お前ら!」


 キツキが2人の方へ歩き出す。その瞬間、急に両脚から力が抜けた。


「うおっ」


 膝がぐらつき、そのまま床へ尻をつく。


「……あ、やべ。もう立ってらんねえ」


「なんだよそれ!」


 ライトが吹き出しながら駆け寄ってくる。


「最後まで残ってたくせに、終わった途端それかよ。かっこ悪いな」


「うるせえ。……お前らは元気そうだな」


「まあ、こっちは先に休んでたからな」


 ロアンも口元をわずかに緩めながら、そう返した。


「大丈夫?」


 ブロムは苦笑しながら、キツキへ手を差し出す。


「……ああ」


 その手を取って1度は立ち上がろうとしたものの、中腰になったところで両脚がまた震えた。結局、キツキはもう1度床に腰を下ろし、そのまま脚を伸ばす。


 競技中はほとんど気にならなかったが、今になって急に身体が重くなった気がする。今日走り回った量を考えれば、当然といえば当然かもしれない。


(明日は筋肉痛確定だろうな)


 キツキが脚を休めている間にも、競技を終えた参加者たちが次々と戻ってきた。周囲の人数も少しずつ増えていく。


 やがてクリスタルラッシュも終了し、最後まで競技を続けていた参加者たちも戻ってきた。その頃には、キツキもどうにか歩ける程度には戻っていた。


 全員が揃ったところで、参加者たちは係員に案内され、中央の実技ドームを囲むスタジアム側の一角へ集められた。キツキもライトたちと一緒に移動する。


 観客たちが見守る中、やがて大型映像が結果発表用の表示へ切り替わった。


『それでは、1年生部門の結果発表です!』


 会場のざわめきが少しずつ小さくなる。


『第3位――!』


 大型映像に、ブロム、キツキ、ライト、ロアンの4人の名前が並ぶ。


「よっしゃー!」


 ライトが真っ先に両手を上げた。


「3位か!」


 ロアンもいつになく大きな声を出している。

 ブロムも嬉しそうに笑い、キツキも思わず拳を握った。


「やべえな、俺たち!」


 ライトがそのまま大きな声を上げる。


 ほとんど勢いだけで始まったチームだったが、終わってみれば3位だった。少しくらい喜んでも罰は当たらないだろう。


『続いて第2位!』


 表示が切り替わり、レニアを含む4人の名前が並ぶ。

 少し離れたところでは、先に競技を終えていた3人の仲間がレニアのそばに集まっていた。そのうちの1人は、嬉しそうに目元を拭っている。


 キツキもレニアへ目を向ける。

 けれど、そこにあるのはいつも通りの綺麗な銀髪だけだった。


 そのことが気になったままレニアを見ていると、次の発表が始まった。


『そして第1位! 2位に大きく差をつけて優勝したのは――!』


 大型映像に、エリルを含む4人の名前が並んだ。

 大きな拍手と歓声が上がる。


「エリルか」


 キツキは素直に頷いた。


 七環術式のこともある。何をやらせても普通ではないことくらいは、もう知っている。だから1位と言われれば、なんとなく納得できた。


『それでは、優勝した4人の中から、エリル選手に特別にお話を聞いてみましょう!』


 呼ばれたエリルが、参加者たちの中から前へ出る。

 それに合わせて大型映像も切り替わり、エリルの姿が映し出される。


『今回、エリル選手はなんと、単独で7人もの守備役を脱落させました!』


「……7人?」


 思わず聞き返した。

 隣ではブロムも目を見開いている。


 会場全体にも大きなどよめきが広がり、少し離れた場所ではレニアもわずかに目を見開いていた。


『これほどの活躍を見せた秘訣は、いったい何なのでしょうか?』


 問いかけられたエリルは少しだけ考えるように間を置いたあと、いたずらっぽく笑った。


「私が戦っている間、3人が探索を進めてくれました! チームメイトのおかげです」


 (……猫かぶってんな)

 大型映像に映るエリルを見ながら、キツキはそう思った。


 実況がほんの一瞬だけ間を置く。


『……なるほど! 仲間との連携が今回の勝利につながったということですね!』


 なんとも言えない空気をわずかに残したまま、結果発表は2年生部門へ移った。


 以前から実力を評価されているカイル・レヴァンを含む3人が1位となった。その後のインタビューを終えると、続いて上位チームへの報奨が発表される。


『それでは、各部門の上位3チームに贈られる報奨を発表します! まず第3位、ギレル騎士団の1日訓練体験です!』


「おお!」


 ブロムが嬉しそうに声を上げた。


 ギレル騎士団は、国外にも名の知られた精鋭だ。その訓練へ参加できる機会など、そう簡単に得られるものではない。


 だが、キツキたち3人は揃って苦い顔をしていた。

 ブロムはそんな3人に気づいた様子もなく、嬉しそうに続ける。


「すごいね! ギレル騎士団の人たちと一緒に訓練できるなんて」


「お前、ほんと鍛えるの好きだよな……」


 キツキが呆れている間にも、次の報奨が発表される。


『第2位は、マクナル先生による特別指導!』


 その名前が出ると、会場が少しざわついた。

 キツキもつられるように周囲へ意識を向けると、あちこちからマクナルの名前を口にする声が聞こえてくる。


 そして最後に、第1位の報奨が告げられた。


『栄えある第1位は――ギレル学院が用意した高級料理店へのご招待です!』


 キツキは少し黙った。

 (……高級料理? 1位がそれだけなのか?)


「いいな! 俺も1位がよかった!」


 ライトはむしろ羨ましそうにしている。


「悪くないな」


 ロアンもそれらしい顔で頷いた。


「僕は騎士団の方が嬉しいかな」


 それを聞いて、キツキは思わず吹き出した。疲れているせいか、その一言が妙にツボに入った。


 やがて報奨の発表もすべて終わり、会場にもひと区切りついたような空気が広がる。


 キツキは少しだけ周囲を見渡す。


 さっきまで自分たちが走り回っていた実技ドーム。その周囲を埋める観客席には、まだ大勢の人が残っている。歓声や話し声も、あちこちから聞こえてくる。


 すぐ隣では、ライトとロアンがまだ報奨について話している。ブロムもその会話に混ざりながら笑っている。


 キツキもつられて笑う。


 思い通りにならないこともあったし、知らなかったものもたくさん見た。脚はまだ重いし、明日はたぶん、ひどい筋肉痛でまともに歩けないだろう。


 それでも――


「……楽しかったな」

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