第122話 クリスタルラッシュ・8
レニアたちは、その後も守備役のいる区域をいくつか回り、高得点のクリスタルを狙って戦闘を重ねていた。
また1つの戦闘を終え、次の区域へ向かっている途中、仲間の1人の足がふらついた。
「危ない!」
隣を歩いていた仲間が咄嗟に身体を支える。
「大丈夫ですか?」
「……はい。まだ行けます」
支えられたまま一度息を整え、そう答えた。
その返事に、もう1人も足を止める。
「でも、さすがに無理しない方が……」
レニアも立ち止まり、3人の様子を見た。
ここまでかなり厳しい動きを重ねてきた自覚は、レニアにもある。それだけ動き続ければ疲れるのも当然で、今では3人ともその疲れを隠せなくなっていた。
その時、実技ドーム内に学院側のアナウンスが響いた。
『納品地点の最終更新が行われました。以降、競技終了まで有効地点の変更はありません』
4人ともそちらへ意識を向けた。
アナウンスが終わると、仲間の1人がレニアを見る。
「……レニア姫。ちょうど更新も入りましたし、そろそろ納品しませんか?」
レニアはすぐには答えず、改めて3人を見た。
「……そうね。ここまでにしましょう」
「でも、私はまだ――」
「もう十分よ」
先ほどふらついた仲間の言葉を、レニアが静かに止めた。
仲間はしばらくレニアを見ていたが、やがて小さく頷いた。
「……わかりました」
話がまとまると、近くの有効な納品地点を確認し、4人はそちらへ向かった。
やがて戦闘禁止区域が見えてくると、レニアは自分が持っていたクリスタルも3人へ移す。
「これも持っていきなさい」
「え?」
差し出されたクリスタルを受け取りながら、仲間は戸惑ったようにレニアを見る。
「レニア姫も納品するんじゃないんですか?」
「私はまだ動けるもの」
レニアはいつもと変わらない顔で答えた。
3人は一度顔を見合わせたが、止めようとする者はいなかった。
そのまま戦闘禁止区域へ向かおうとする3人を見て、レニアは一瞬だけ言葉をためらった。
「……よく頑張ってくれたわ」
思いがけない言葉に、3人が揃って振り返る。すぐには返事が出てこない。それだけ、レニアからかけられたその言葉が嬉しかった。
やがて、先ほどまでふらついていた仲間が口を開く。
「……レニア姫も頑張ってくださいね」
残る2人も、言葉の代わりに何度も大きく頷いた。
「ええ」
レニアが返すと、3人は戦闘禁止区域へ入っていった。
その姿を見送り、レニアだけがその場に残った。
◇
「ついに納品地点の最終更新です! クリスタルラッシュも、いよいよ終盤へ入りました!」
実況の声に観客席が再び沸く中、フィリンは目の前に並ぶ小型映像を見比べていた。残った参加者たちは、それぞれ最後の動きを始めている。
1つを見ては、また別の映像へと視線を移す。終盤だけあって、どの映像も見応えがありそうで、なかなか1つに決められずにいた。
「なんだ小娘、楽しんでんな」
横から突然声がして、フィリンはそちらを向いた。
ビールを片手に持ったムルガドが、大型映像を眺めながらこちらへ歩いてきている。
「……どこに行ってたんですか」
フィリンが尋ねると、ムルガドは誤魔化すように笑い、そのまま隣に座った。ビールを一口飲んで、観客席を見回す。
「えらく盛り上がってんな。さすがギレルだな」
今さら問い詰めてもムルガドがまともに答えるとは思えず、フィリンもそれ以上は聞かなかった。
代わりに、ムルガドが見回していた観客席へフィリンも目を向ける。
観客席には学生やその関係者だけでなく、外部から招かれた者たちの姿も多い。
来賓席ではフォルテア王国の第二王女シエラ・フォルテアが、大型映像を見上げながら口元に薄く笑みを浮かべている。その少し離れた席では、緋石塔のエスト・リバーも興味深そうに競技を眺めていた。
競技が始まった頃より、会場全体の熱気も明らかに増している。
ムルガドはそんな様子を眺めていたが、やがて近くの小型映像へ目を移した。いくつかを順に見ていくうち、無人街を映す1つでふと視線が止まる。
そこにはキツキとブロムの姿があり、その先の中央広場には、空中に浮かぶディオンが映っていた。
「……あー」
ムルガドはビールを一口飲む。
「勇者候補といえど、あいつは無理だろうな」
その言葉に、フィリンも同じ映像へ目を向ける。
「……そんなに強いんですか?」
「まあな」
フィリンが横目を向けても、ムルガドは映像から目を離さない。
「お前もちゃんと見とけ。ディオンもジルも、そうそう見られるもんじゃねえぞ」
ムルガドが顎で映像を示すと、フィリンもそちらへ視線を戻した。
「ま、せいぜい派手にやれ」
そうぼやいてからも、しばらく視線を外そうとはしなかった。
◇
1人になったレニアは、次に向かう先を探して周囲へ目を向けた。
最終更新も終わり、残された時間はそう長くない。それでも、まだ高得点を狙いに行けるだけの余力はある。
近くの区域を見ていくと、その中に金のクリスタルが残っていた。レニアはそこを次の目的地に決め、歩き出す。
しばらく進むと、周囲の景色に白いものが混じり始めた。最初は地面に薄く残る程度だった雪も、進むほどに増えていく。吹き抜ける風も冷たくなり、一面が雪に覆われていった。
途中には、削れた氷壁や大きく抉れた雪原など、すでに誰かが戦った跡も残っていた。そうした跡を横目に、レニアはそのまま奥へ進んでいく。
遠くで響いていた戦闘音も、進むにつれて次第に減り、最後には雪を踏む足音と冷たい風の音だけになった。
やがて視界が開けると、広い雪原の向こうに長剣を手にした1人の女が立っていた。
レニアが近づいてきたことに気づき、女がゆっくりと顔を上げる。レニアも足を止めた。
その人物が誰なのか、レニアにはすぐに分かった。
――ジルだった。




