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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第122話 クリスタルラッシュ・8

 レニアたちは、その後も守備役のいる区域をいくつか回り、高得点のクリスタルを狙って戦闘を重ねていた。


 また1つの戦闘を終え、次の区域へ向かっている途中、仲間の1人の足がふらついた。


「危ない!」


 隣を歩いていた仲間が咄嗟に身体を支える。


「大丈夫ですか?」


「……はい。まだ行けます」


 支えられたまま一度息を整え、そう答えた。

 その返事に、もう1人も足を止める。


「でも、さすがに無理しない方が……」


 レニアも立ち止まり、3人の様子を見た。


 ここまでかなり厳しい動きを重ねてきた自覚は、レニアにもある。それだけ動き続ければ疲れるのも当然で、今では3人ともその疲れを隠せなくなっていた。


 その時、実技ドーム内に学院側のアナウンスが響いた。


『納品地点の最終更新が行われました。以降、競技終了まで有効地点の変更はありません』


 4人ともそちらへ意識を向けた。

 アナウンスが終わると、仲間の1人がレニアを見る。


「……レニア姫。ちょうど更新も入りましたし、そろそろ納品しませんか?」


 レニアはすぐには答えず、改めて3人を見た。


「……そうね。ここまでにしましょう」


「でも、私はまだ――」


「もう十分よ」


 先ほどふらついた仲間の言葉を、レニアが静かに止めた。

 仲間はしばらくレニアを見ていたが、やがて小さく頷いた。


「……わかりました」


 話がまとまると、近くの有効な納品地点を確認し、4人はそちらへ向かった。

 やがて戦闘禁止区域が見えてくると、レニアは自分が持っていたクリスタルも3人へ移す。


「これも持っていきなさい」


「え?」


 差し出されたクリスタルを受け取りながら、仲間は戸惑ったようにレニアを見る。


「レニア姫も納品するんじゃないんですか?」


「私はまだ動けるもの」


 レニアはいつもと変わらない顔で答えた。

 3人は一度顔を見合わせたが、止めようとする者はいなかった。


 そのまま戦闘禁止区域へ向かおうとする3人を見て、レニアは一瞬だけ言葉をためらった。


「……よく頑張ってくれたわ」


 思いがけない言葉に、3人が揃って振り返る。すぐには返事が出てこない。それだけ、レニアからかけられたその言葉が嬉しかった。


 やがて、先ほどまでふらついていた仲間が口を開く。


「……レニア姫も頑張ってくださいね」


 残る2人も、言葉の代わりに何度も大きく頷いた。


「ええ」


 レニアが返すと、3人は戦闘禁止区域へ入っていった。

 その姿を見送り、レニアだけがその場に残った。


◇


「ついに納品地点の最終更新です! クリスタルラッシュも、いよいよ終盤へ入りました!」


 実況の声に観客席が再び沸く中、フィリンは目の前に並ぶ小型映像を見比べていた。残った参加者たちは、それぞれ最後の動きを始めている。


 1つを見ては、また別の映像へと視線を移す。終盤だけあって、どの映像も見応えがありそうで、なかなか1つに決められずにいた。


「なんだ小娘、楽しんでんな」


 横から突然声がして、フィリンはそちらを向いた。

 ビールを片手に持ったムルガドが、大型映像を眺めながらこちらへ歩いてきている。


「……どこに行ってたんですか」


 フィリンが尋ねると、ムルガドは誤魔化すように笑い、そのまま隣に座った。ビールを一口飲んで、観客席を見回す。


「えらく盛り上がってんな。さすがギレルだな」


 今さら問い詰めてもムルガドがまともに答えるとは思えず、フィリンもそれ以上は聞かなかった。


 代わりに、ムルガドが見回していた観客席へフィリンも目を向ける。


 観客席には学生やその関係者だけでなく、外部から招かれた者たちの姿も多い。

 来賓席ではフォルテア王国の第二王女シエラ・フォルテアが、大型映像を見上げながら口元に薄く笑みを浮かべている。その少し離れた席では、緋石塔のエスト・リバーも興味深そうに競技を眺めていた。


 競技が始まった頃より、会場全体の熱気も明らかに増している。


 ムルガドはそんな様子を眺めていたが、やがて近くの小型映像へ目を移した。いくつかを順に見ていくうち、無人街を映す1つでふと視線が止まる。


 そこにはキツキとブロムの姿があり、その先の中央広場には、空中に浮かぶディオンが映っていた。


「……あー」


 ムルガドはビールを一口飲む。


「勇者候補といえど、あいつは無理だろうな」


 その言葉に、フィリンも同じ映像へ目を向ける。


「……そんなに強いんですか?」


「まあな」


 フィリンが横目を向けても、ムルガドは映像から目を離さない。


「お前もちゃんと見とけ。ディオンもジルも、そうそう見られるもんじゃねえぞ」


 ムルガドが顎で映像を示すと、フィリンもそちらへ視線を戻した。


「ま、せいぜい派手にやれ」


 そうぼやいてからも、しばらく視線を外そうとはしなかった。


◇


 1人になったレニアは、次に向かう先を探して周囲へ目を向けた。


 最終更新も終わり、残された時間はそう長くない。それでも、まだ高得点を狙いに行けるだけの余力はある。


 近くの区域を見ていくと、その中に金のクリスタルが残っていた。レニアはそこを次の目的地に決め、歩き出す。


 しばらく進むと、周囲の景色に白いものが混じり始めた。最初は地面に薄く残る程度だった雪も、進むほどに増えていく。吹き抜ける風も冷たくなり、一面が雪に覆われていった。


 途中には、削れた氷壁や大きく抉れた雪原など、すでに誰かが戦った跡も残っていた。そうした跡を横目に、レニアはそのまま奥へ進んでいく。


 遠くで響いていた戦闘音も、進むにつれて次第に減り、最後には雪を踏む足音と冷たい風の音だけになった。


 やがて視界が開けると、広い雪原の向こうに長剣を手にした1人の女が立っていた。


 レニアが近づいてきたことに気づき、女がゆっくりと顔を上げる。レニアも足を止めた。


 その人物が誰なのか、レニアにはすぐに分かった。


 ――ジルだった。

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