第121話 クリスタルラッシュ・7
大型映像の中で、エリルが片手を横へ振るった。
その動きに合わせ、大きな風の刃が走る。
直撃を受けた守備役の身体が後方へ弾かれ、地面へ落ちるより先に光に包まれて姿を消した。
「守備役を脱落させましたー! なんと、これで4人目です!」
実況がそう告げる間にも、映像の中のエリルは目的のクリスタルへ向かって歩き出していた。
「しかも、ここまで4人すべてを単独で脱落させています!」
観客席のざわめきがさらに大きくなる。
「それにしても、エリル選手は学院の正式登録ではクラス2だったはずですが……本当にクラス2なのでしょうか!?」
「登録上は、間違いなくクラス2ですね」
解説がそう返すと、観客席から再びざわめきが広がった。
その間にエリルはクリスタルを回収し、もう次の場所へ向かっていた。
やがて姿が映像の端から外れると、大型映像は別の区域へ切り替わる。
「そしてこちらは、レニア王女のチームです。こちらも順調に高得点区域を攻略しています!」
映像が切り替わった時には、ちょうど戦闘が終わったところだった。
守備役の姿はすでになく、レニアは仲間たちの様子を一度確認すると、すぐに次の区域へ視線を向ける。
4人はそのまままとまって歩き出した。
そこからさらに、各地の様子が次々と映し出されていく。
別の区域では攻略側が守備役の隙をついてクリスタルを奪い、また別の場所では守備役の脱落が告げられていた。納品地点へ向かう参加者の姿も増え、すでに競技を終えた者も少なくない。
「各地で高得点区域の攻略も進んでいます。ですが――」
実況の声とともに、再び大型映像が切り替わる。
「いまだ、ほとんど攻略の進んでいない区域が2か所残っています!」
映し出されたのは、建物が並ぶ無人街だった。
その中央広場の上空に、1人の男が浮かんでいる。
ディオンだった。
そこでは、ちょうど攻略側のチームが魔法を放ったところだった。
だが、ディオンが片手を軽く動かすと風が巻き起こり、迫っていた魔法はあっさりと軌道を変えた。
そのまま風が広場一帯へ押し寄せ、攻略側のチームをまとめて呑み込む。
次々と光が瞬き、風が収まる頃には、そこに挑戦者たちの姿は残っていなかった。
それでも、空中に浮かぶディオンには特に気負った様子もない。
むしろ次々とやってくる挑戦者を前に、どこか面倒そうに見えるほどだった。
観客席で映像を眺めていたフィリンも、少し首を傾げる。
(あんなに簡単に倒してるのに……なんでだろう。そこまで怖そうに見えない)
ほどなく、大型映像は次の区域へ切り替わった。
今度は一面の雪と氷に覆われた区域だった。
その中で長剣を手に立っているのはジルだ。
新たな挑戦者たちが近づいてくるのを見つけると、ジルはわずかに口元へ笑みを浮かべた。
「来たわね」
フィリンは思わずジルの姿を見つめた。
先ほどの男とはまるで違う。こちらは立っているだけでも、正面から挑むのをためらってしまいそうだった。
(私でも、選ぶなら最初の男の人の方かも……)
「ディオン選手、ジル選手ともに5年生。そして正式クラスは6。学院でも頂点に数えられる2人です」
解説の言葉に、実況も大きく頷いた。
「どちらも金のクリスタルを守っていますが、まだ攻略を許していません!」
再び映像が無人街へ戻る。
先ほどの挑戦者たちが姿を消したばかりだというのに、通りの向こうからはもう別の参加者たちが近づいていた。
それに気づいたディオンは、空中からゆっくり視線を落とし、困ったように眉尻を下げた。
「なんで俺のところにこんなに来るんだよ……」
そんなぼやきが届くはずもなく、挑戦者たちはなおもこちらへ向かって来ていた。
◇
キツキたちも、3人になってから足を止めていたわけではなかった。
探索や小競り合いを続け、その途中では守備役のいる区域にも挑んだ。
ブロムが正面で守備役を引きつけ、キツキが後方から攻撃を重ねる。ライトも動き回りながら何度も炎を放ち、守備役の意識を散らしていく。
やがて守備役がキツキの攻撃に対応した一瞬を突き、ライトが赤のクリスタルを奪った。
守備役を倒すところまではいかなかったものの、3人はそのまま区域を離れることに成功していた。
そこから十分に離れたところで、ライトが大きく息を吐いた。
「いやー……もう無理だな」
キツキがそちらを見る。
「魔力ほとんど残ってねえ。これ以上戦っても、たぶん俺が足引っ張るわ」
そう言って、ライトは少しだけ肩をすくめた。
「俺もここで納品するよ」
ブロムが頷き、キツキもそれを止めなかった。
近くの有効な納品地点を確認し、3人でそちらへ向かう。
やがて戦闘禁止区域が見えてくると、その手前でキツキとブロムも持っていたクリスタルをライトへ渡した。
「じゃ、俺はここまでだな」
そう言ってから、にっと笑う。
「先上がってちゃんと見てっからな。終わったら飯でも行こうぜ!」
「おう」
「また後でね」
2人の返事を聞くと、ライトは軽く手を上げ、そのまま戦闘禁止区域へ入っていった。
その姿が見えなくなるまで見送ってから、キツキは隣に立つブロムへ目を向けた。
「なあ、ブロム」
「ん?」
「最後に金のクリスタル、狙いに行かないか?」
ブロムは一瞬目を丸くしたが、すぐに楽しそうに笑った。
「奇遇だね。僕も同じことを考えてたんだ」
キツキも思わず口元を緩める。
「じゃあ決まりだな」
2人は周辺の区域を確認し、まずは一番近い金のクリスタルへ向かうことにした。
しばらくすると、前方から魔法の爆発音や激しくぶつかり合う音が何度も聞こえてきた。
「……結構やってるな」
「金だからね」
そのまま話しながら進んでいたが、近づくにつれて戦闘音は次第に大きくなっていった。
木々の向こうに建物が見え始める頃には、2人の会話も自然と途切れていた。
無人街へ入り、通りを進む。
その先で中央広場が見え始めたところで、隣を歩いていたブロムの足がわずかに遅くなり、視線が上へ向いた。
キツキもその視線の先を追う。
広場の上空に、1人の男が浮かんでいた。
ブロムが小さく呟く。
「……ディオン先輩か」




