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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第120話 クリスタルラッシュ・6

「まあ、セドリック先輩」


 声をかけると、石壁のそばに立っていたセドリックが振り向いた。


 エレオノーラは少し前まで、レニアの後をこっそり追っていた。

 チームメイトには、分散して探索した方が効率がいいと言いくるめ、レニアの勇姿を少しでも多く目に焼き付けるつもりだったのだが、途中でその姿を見失ってしまった。


 それでも諦めきれずに探し回っている途中で見つけたのが、目の前のセドリックだった。


 エレオノーラはそのままセドリックへ近づきながら、周囲へ視線を向けた。すぐそばの石壁は一部が砕け、表面も黒く焼け焦げていた。


(ずいぶん荒れていらっしゃいますね)


「……エレオノーラ嬢か」


 セドリックはふっと息を吐いた。

 苛立ちはまだ消えていない。それでも、それを押し込めるように表情を整えた。


「クリスタルならまだないぞ」


「あら、そうなのですか」


 守備役が残っている区域では、奪われたクリスタルは一定時間が経てば再び現れる。セドリックの言葉で、先ほどの石壁の有様にも納得がいった。


 エレオノーラは頬に指先を添え、わざと考えるように首を傾げた。少し間を置いて、ふっと微笑む。


「ですが、せっかくですので」


 そのまま、エレオノーラの周囲に炎が浮かんだ。


「……何のつもりだ」


 そう言いながら、セドリックも周囲に炎を集め始めた。


 エレオノーラは、構えたセドリックを静かに見つめた。

(なんて幸運なのでしょう。レニア様に何度も余計なお手間をかけた方へ、直接ご挨拶できる機会が訪れるなんて♪)


「お手柔らかにお願いしますね」


「……本気か」


 セドリックの眉間の皺が深くなった。


 それでもエレオノーラは微笑んだまま、構えを解く様子はない。


 セドリックはそんなエレオノーラを見据え、周囲に集めていた炎をさらに膨らませ、そのまま正面から放つ。


 迫る炎へ、エレオノーラも片手を向けた。周囲に浮かべていた炎を、そのまま正面へ放つ。


 ――ドォンッ!!


 正面でぶつかり合った炎が激しく揺れ、熱風が周囲へ弾ける。


 次の瞬間、セドリックの炎が押し返される。


「なっ……!?」


 セドリックがさらに炎を重ねる。

 それでも勢いは止まらない。押し返されてきた炎を前に、セドリックは咄嗟に防御膜を広げる。


 炎が防御膜にぶつかり、セドリックの身体が数歩後ろへ押される。足を踏みしめて勢いを殺し、すぐに体勢を立て直した。


 同じフォルテアの貴族として、エレオノーラが高い実力を持つことは知っていたつもりだった。

 だが、ここまでとは思っていなかった。


 セドリックはわずかに目を細める。

 今度は左右に炎を浮かべ、別々の方向からエレオノーラを挟むように放つ。


 エレオノーラは左右から迫る炎へほんの一瞬だけ目をやった。

 それから片手を上げると、先ほどよりも大きく炎を広げ、左右の炎をまとめて呑み込んだ。


「…………は?」


 セドリックの口から、声が漏れた。

 正面から押しても駄目。左右から崩そうとしても、まとめて呑み込まれた。


 一瞬だけ動きが止まる。

 だが、すぐに表情を引き締めると、距離を取り、防御膜を残したまま攻め方を変えて食い下がる。


 対して、エレオノーラがすることはほとんど変わらない。

 穏やかな微笑みを浮かべたまま、向けられた炎を、それより大きな炎で押し返す。それだけだった。


「まあ、多彩な攻め方をお持ちですのね」


 ほどなくして、セドリックの脱落が告げられた。


◇


 一方、セドリックの担当区域から十分に離れたところで、4人はようやく足を止めた。


 キツキは肩で息をしながら、来た道を振り返った。しばらく待っても、追ってくる気配はない。


「ハァ、ハァ……よっしゃ! 取ったぞ、赤!」


 その空気を破るように、ライトが声を上げた。


 ロアンが息を整えながら、呆れたように笑った。


「危なかったけどな」


 その様子に、ブロムも堪えきれないように笑い出した。

 キツキもつられて口元を緩めた。


 セドリック相手に誰一人脱落せず、赤のクリスタルまで奪えた。十分すぎる成果だった。


 ひとしきり笑ったところで、ロアンが大きく息を吐いた。


「悪い。俺はそろそろ限界に近い」


 その言葉に、3人の視線が集まった。


「まだ動けはするが、ここからまたデカいのとやるのはきつい。それに、ここまで取った分まで失うくらいなら、今のうちに納品しておきたい。俺はここで上がろうと思う」


 ライトが少し残念そうな顔をしたが、ブロムはすぐに頷いた。


「そうだね。それがいいと思うよ」


 キツキも改めてロアンの様子を見て、小さく頷いた。


「……そうだな」


 話がまとまると、近くの有効な納品地点を確認し、4人はそちらへ向かって歩き出した。


 しばらく進むと、戦闘禁止区域を示す境界が見えてきた。ロアンは3人が持っていたクリスタルも受け取り、その手前で3人へ向き直った。


「じゃあ、後は頼んだ」


「おう、任せろ!」


「また後でね」


 キツキも軽く手を上げた。

 ロアンはそれに応えると、そのまま戦闘禁止区域へ入っていった。


 その姿を見送ってから、ライトが自分の腕を軽く回した。


「……よし、じゃあ次行こうぜ!」


 ライトは返事も待たずに先へ進んだ。

 ブロムもその背中を見て小さく頷き、すぐに歩き出した。


 キツキもひとつ息を吐き、2人の後を追った。


◇


 観客席では、先ほどから大型映像へ注目が集まっていた。


「おおっと、エリル選手! またしても――!」


 実況の声とともに、会場のざわめきが一段大きくなる。

 映し出されている光景は、それだけの反応を引き出すには十分だった。

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