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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第119話 クリスタルラッシュ・5

 最初に狙われたのは、キツキではなかった。


 セドリックが腕を振ると、浮かんでいた炎が一斉に広がった。正面だけでなく左右にも分かれ、ライトとロアンの逃げ道まで塞ぐように迫った。


「うおっ!?」


 ライトが慌てて足を止めるより早く、ブロムが2人の前へ出た。

 広げた手の先に淡い光が走り、4人を覆うように薄い幕が広がった。迫っていた炎は光の幕に阻まれ、その場で赤く弾けた。


 その間にブロムは剣を抜いていた。刀身へ光をまとわせ、セドリックとの距離を詰めた。


 横薙ぎに振るわれた火炎を剣で受け流し、さらに前へ出る。

 そこへキツキも氷を走らせた。


 セドリックは位置をずらして氷を避け、ブロムの剣を防御膜で受け止めた。

 光をまとった刀身に押され、身体がわずかに後ろへ下がった。


 だが、すぐに炎が膨らんだ。

 ブロムが距離を取り、その横からライトが魔法を放とうとしたが、炎の一部が即座にそちらへ向きを変えた。


 ロアンが地面を盛り上げて遮ったが、次の火球がその上を越えてきた。


「うおっ、先輩こっちまで見てんのかよ!」


 ライトが慌てて身をかわす。


「……隙がないな」


 ロアンが短く呟いた。


 キツキも同感だった。

 セドリックはこちらを意識しながらも、4人全員を見ている。ライトやロアンが動けばすぐに牽制が飛び、ブロムの攻撃にも遅れず対応する。


 これなら、最初から自分だけを狙ってくれた方が楽だった。


 そう思いながら、キツキはもう一度氷を走らせた。

 セドリックがそれを避けたところへブロムが踏み込み、その隙へキツキが別方向からもう一度氷を差し込んだ。


 まともに当たったところで、セドリックを崩せるほどの威力ではない。

 それでも、無視して受けるわけにはいかないだろう。


 案の定セドリックは防御膜を張った。


「貴様……」


 低い声に、キツキは少しだけ眉を上げた。

 そこまで反応されるとは思っていなかった。


 そこで、なぜか昔の友人の言葉が頭に浮かんだ。


『なあ知ってるか? ゲームってのはな、試合に負けても相手をイラつかせれば勝ちなんだぜ』


 何を言ってるんだと思った記憶がある。なぜ今それを思い出したのかは分からない。ただ、目の前のセドリックを見ると、少しだけ試してみたくなった。


 キツキの口元がわずかに緩む。

 (お前の教えを信じてみるぞ、友よ)


 そうして、次に飛ばしたのは水だった。


「……何?」


 まとまった水が正面から飛び、セドリックは反射的に炎をぶつけた。水が一気に蒸発し、白い蒸気が広がる。


 その向こうから、ブロムが出てきた。


「っ!」


 迫った剣を防御膜で受ける。

 対応が遅れた分だけ、セドリックの身体が大きく押された。


 蒸気が晴れると、セドリックは真っ先にキツキを見た。


 キツキは何でもない顔でもう一度水を飛ばした。今度はセドリックも炎を使わず、防御膜で受け止めた。


 学習されたか。


 それでも、その一手で十分だった。

 キツキが魔法を差し込むたび、セドリックの意識はこちらへ寄る。その隙を、ブロムが逃さず使って前へ出た。


 何度か繰り返すうちに、その傾向は明らかになった。


 これなら使える。


「ライト、ロアン! クリスタル探してくれ」


「……お、おう!」


 ロアンは返事より先に周囲の石壁へ目を走らせた。


「分かった」


 2人はそのまま戦線から離れた。

 このまま4人で相手をしていても、セドリックの牽制を捌くだけで手が塞がる。キツキはそう判断した。


「ブロム、悪いけど――」


「問題ないよ」


 最後まで聞く前に、ブロムが笑った。


「僕も先輩とは、一度やってみたかったからね」


 そう言って、再びセドリックへ踏み込んでいった。


 セドリックの眉がわずかに寄った。

 ライトとロアンが離れ、クリスタルを探しに向かったことは分かっている。


 そちらを止めるべきだ。


 だが、横から飛んできた氷に反応した瞬間、セドリックの視線はまたキツキへ戻った。


 まただ。

 この男はいつも、いちいち癇に障る。


 ならば、格の違いを思い知らせればいい。

 レニア殿下の隣に立つべきは誰なのか――。


 セドリックが一歩強く踏み込んだ。


 炎を一気に膨らませ、ブロムを正面から押し返す。

 そのままキツキへ向かおうとしたが、ブロムがすぐに前へ回り込み、光をまとった剣で行く手を塞いだ。


 セドリックは真正面から炎を叩きつけた。

 ブロムも光の幕を広げて受け止めたが、勢いを殺しきれずに押し戻される。


 その好機にセドリックが踏み込もうとした瞬間、横から水が飛んできた。

 セドリックは咄嗟に防御膜を張り、水を弾いた。


「……貴様ァ!」


 苛立った声を漏らした直後、今度は氷が足元へ伸びてきた。


 セドリックは横へ退いて避けたが、その動きを待っていたようにブロムが踏み込んだ。光をまとった剣が迫り、セドリックは再び防御膜を張る。


 キツキを振り払えばブロムが来る。ブロムへ対応すれば、また横から魔法が飛んでくる。


 セドリックの表情が、目に見えて険しくなっていった。


 少し離れたところでは、ライトとロアンが崩れた石壁に沿って周囲を探していた。

 ライトは時折戦闘へ目を向け、そのたびに眉を上げる。その横では、ロアンが石壁の隙間を順番に確認していた。


「キツキって、3属性も使えんのかよ……」


 そう呟きながら探索を続けていたライトが、ふと足を止めた。


「あった!」


 数歩先、崩れた石壁の隙間から赤い光が覗いていた。


 その声にセドリックが振り向く。

 ライトとロアンが赤い光へ向かって走り出すのを見て、セドリックもすぐに方向を変えた。


 だが、1歩目を踏み出したところで、ブロムが立ちはだかる。


 セドリックの炎と、光をまとったブロムの剣が正面からぶつかった。

 激しい衝撃にブロムの身体が押し戻される。それでも踏みとどまり、セドリックの前を塞ぎ続けた。


「……行かせませんよ」


 ブロムが爽やかに笑った。


「退けッ! 勇者候補ォ!」


 セドリックが声を荒らげた。

 炎の勢いがさらに増し、ブロムも光を強めて真正面から受け止めた。


 その横から、キツキがまた水を飛ばした。


「――ッ!」


 セドリックが防御膜を張った、その一瞬だった。


「取ったぞ!」


 ライトの声が響いた。

 キツキはそれを聞くなり、すぐに身体の向きを変えた。


「なら逃げるぞ!」


「おう!」


 ライトとロアンが先に走り出した。

 ブロムもセドリックの炎を弾いて一気に距離を取り、キツキもその後を追った。


「待てッ!」


 背後から声が飛んでくる。

 振り返らなくても、セドリックが追ってきているのは分かった。


 4人は担当区域の外へ走り抜けた。

 セドリックも勢いのまま境界へ踏み込んだ。


 直後、警告の声が区域内へ響いた。


『守備役は担当区域外への追跡を中止してください』


 セドリックの足が止まった。


 あと少し進めば追いつける距離だった。

 だが、警告を受けた以上、そこから先へ出るわけにはいかない。


 セドリックはその場に立ち止まったまま、遠ざかっていく4人の背中を黙って睨みつけた。


 やがて近くの石壁へ腕を向ける。


「――ぐ、ぅおおおおッ!」


 喉の奥から絞り出したような声とともに、炎を石壁へ叩きつけた。

 大きな音が響き、石壁の表面が砕け散る。


 その場に、焼けた石の匂いが残った。


「まあ、セドリック先輩」


 その静けさの中に、ひどく穏やかな女の声が響いた。

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