第118話 クリスタルラッシュ・4
戦闘が始まると、両チームの3人ずつが前へ散り、そのまま前線でぶつかった。
後方に残ったのは、ラクスとレニアだ。2人は前線を挟んで向かい合った。
ラクスは向かい合うなり魔力を練り、十分な威力の雷をレニアへ放つ。
青白い雷が一直線に走った。レニアはその進路に氷壁を立ち上げ、正面から受け止めた。
弾けた光が消えるより先に、今度は氷壁の横からレニアの魔法が飛んできた。
「っ!」
ラクスは横へ跳び、飛んできた氷を避けた。
やはり、レニアは強い。
それも、以前より明らかに。
ラクスは着地と同時に次の雷を準備した。
そこで視界の端に動きが入った。少し離れたところで、こちらの2人がレニア側の前衛を挟み込もうとしている。片方が正面から押さえ、もう片方が横へ回り込んでいた。
(このまま崩せる!)
そう思った直後、レニアの声が飛んだ。
「右よ!」
その声に、レニア側の前衛が迷わず右へ身を引いた。
追おうとしたこちらの1人の前で地面がせり上がり、進路を塞ぐ。その隙に、レニア側の前衛は包囲を抜けるように距離を取った。
ラクスの手がわずかに止まった。
レニアは自分とやり合いながら、あそこまで見ていた。
(……あの人、こんな戦い方だったか?)
その答えを考える間もなく、レニアがこちらに手を向けるのが見え、ラクスは咄嗟にその場から離れた。
そこからも同じだった。
ラクスが雷を放てばレニアが防ぎ、その隙に別方向から押そうとしても、短い指示が飛んで形が戻る。崩れかけた場所があれば誰かが動き、それでも足りなければレニア自身の魔法が飛んできた。
少しずつ押しているはずなのに、決定的には崩れない。
そんな攻防を何度か繰り返したあと、レニアが戦場全体へ視線を走らせた。
「壁を」
その合図に、土魔法を使っていたレニア側の生徒が反応した。瞬く間に地面が大きく盛り上がり、両チームの間に高い土壁が立ち上がる。
視界を完全に塞がれ、ラクスは眉を寄せた。
逃げるつもりか。それとも、壁の向こうで何かを準備しているのか。どちらにしても、このまま待つ理由はない。
「……壊します」
ラクスが魔力を集めた直後、目の前の土壁が一気に崩れ落ちた。
「なっ――」
落ちていく土の向こうからレニアの姿が現れた。
中央にいたのは、レニア1人だけだった。視界を遮られている間に、残る3人はすでに左右へ散っていた。
そのレニアの手元では、青白い雷が激しく弾けていた。ラクスがそれを認識した直後、雷光が一気に広がった。
「っ!!」
ラクスは咄嗟に防御膜を張る。
直後、激しい雷鳴が辺りに響き渡り、押し寄せた衝撃に身体を押されて腕で顔を庇った。
やがて光が収まる。
ラクスはすぐに周囲へ目を向け――息を呑んだ。
2人いない。
さっきまで前線にいた仲間2人の姿が消え、その場所には転送の光だけがわずかに残っていた。
4対2。
見誤った。
チーム戦なら勝機がある。そう判断したのは自分だ。
けれど、目の前のあの人は、1人で戦っていた頃とは違う。そのことだけは、もう疑いようがなかった。
その考えを整理する間もなく、レニア側の3人が残った仲間へ一斉に距離を詰めた。
仲間もそれに気づき、慌てて後ろへ下がる。
「待って――」
ラクスは仲間を援護しようと、迫る3人へ雷を向けた。
だが、放つより早く氷が飛んでくる。
「くっ……!」
咄嗟に身を引いて避ける。すぐに横へ回り込み、どうにか射線を通そうとするが、そこへさらに次の氷が飛んできた。
どうやら、こちらを自由にさせるつもりはないらしい。
そうしている間にも、残った仲間は3方向から追い込まれていった。やがて逃げ場を失い、その身体が光に包まれる。
これで4対1。
ラクスは唇を噛んだ。
自分が戦うと決めた結果がこれだ。けれど、今さら立ち止まっている余裕もない。
すぐに魔力を集める。十分に練り上げるより先に雷をまとめ、そのままレニアへ放った。
青白い雷が地面すれすれを走る。
それをレニアは表情ひとつ変えず、目の前に氷壁を立ち上げて難なく防いだ。
ラクスの表情が歪む。
だが、それを引きずる暇もなく、視界の下で何かが動いた。
氷壁の下から、細い氷が地面を這うように伸びている。
「――っ!」
気づいた時には、もう足元まで来ていた。
ラクスが後ろへ跳ぶより早く、地面から氷が一気に噴き上がった。
幾重にも広がった氷が、大きな花が咲くようにラクスの身体を直撃した。
その瞬間、身体が光に包まれ、ラクスの姿はその場から消えた。
一拍遅れて、レニアの仲間たちから安堵の息が漏れた。前衛の生徒が大きく息を吐き、残る2人もようやく肩の力を抜く。
それでも競技はまだ続いている。
3人はすぐに、あちこちに残されたクリスタルの回収に動き出した。
その途中、土魔法を使っていた生徒がレニアへ声をかけた。
「さっきの作戦、よくあんなの思いつきましたね」
「あなたたちもよく動いたわ」
短く返したレニアは、クリスタルを拾う3人へ順番に目を向けた。
「それより、3人とも大丈夫かしら」
「はい! 大丈夫です!」
前衛の生徒が息を整えながら答えた。残る2人も頷き、土魔法を使っていた生徒は1度大きく息を吐く。
「まだいけます」
レニアは3人の様子を確認してから、周囲へ視線を移した。
「なら、次よ」
回収を終えた3人も頷き、レニアたちはその場を離れていった。
◇
その頃、キツキたち4人もクリスタルを探しながら移動を続けていた。
白や青をいくつか拾い、途中では緑も見つけた。ある程度集まったところで、次は赤を狙おうという話になった。
そうして向かった先は、守備役が配置されている区域だ。
赤のクリスタルがあることは分かっていたが、どこに隠されているかまでは分からない。
4人は周囲を見回しながら、崩れた石壁の間を進んでいく。
やがて少し開けた場所へ出ると、その中央付近に、1人の生徒が立っていた。
キツキはその顔を見て足を止めた。
「……うわ」
思わず漏れた声に、ライトがキツキを見る。
「知り合いか?」
キツキはすぐには答えなかった。
嫌な予感しかしない。
ちょうどその時、守備役――もとい、セドリック・ヴァルグランがこちらを見た。
4人へ順に目を走らせ、その視線が最後にキツキで止まった。目つきがわずかに変わる。
「……来たか」
向けられた視線に、キツキは小さく息を吐いた。重心を落とし、セドリックを正面に捉える。
横ではブロムが剣に手を掛け、ライトとロアンもそれぞれ身構えている。
「ちょうどいい」
その言葉とともに、セドリックの周囲へ炎が浮かび上がった。熱気が周囲へ広がる。
そして、セドリックが1歩踏み出した。




