第116話 クリスタルラッシュ・2
少し前――
キュルたちも森の中でクリスタルを探していた。
「あ、あそこ。クリスタルじゃない?」
女子生徒が指さした先では、倒れた巨木の根と岩の隙間に緑色の光が覗いていた。腕を伸ばしただけでは届きそうにない。
少し覗き込んだ彼女は、隣のキュルへ顔を向ける。
「キュルちゃん、あそこお願いできる?」
「ん」
キュルは狭い隙間に身体を滑り込ませ、奥のクリスタルを掴んだ。淡い光とともにそれが消えると、すぐに戻ってきた。
「ありがと、キュルちゃん」
「ん」
嬉しそうに笑う彼女と合流し、キュルはまた仲間たちと森を進み始めた。
少し進んだところで、キュルの足が止まる。
「キュルちゃん?」
声をかけられても、キュルは木々の向こうを見たままだ。その先には、森を進む4人組の姿があった。キュルの視線は、その中の1人に向いている。
「……キュル?」
聞き覚えのある声が届き、キュルは小さく手を上げた。
それを見たキツキも少しだけ肩の力を抜いた。一方で、ブロムとロアンはキュルの後ろにいる3人から目を離さない。それは向こうの3人も同じだった。
「キツキ、お前キュルと仲いいのか?」
ライトがキツキへ顔を寄せる。
「ああ。まあ――」
答えかけたところで、キュルの重心が沈んだ。
「……マジかよ」
キツキはすぐに腰を落とし、魔力の循環を引き上げた。
キュルが地面を蹴るのを見て、ブロムもすぐに動いた。だが、向こうの3人も同時に身構えた。そのわずかな間に、キュルはもうキツキとの距離を詰めていた。
まっすぐ迫ってくる動きを見ながら、キツキは氷を選んだ。2人の間に氷壁が立ち上がる。キュルはぶつかる直前で右へ切り返してかわし、そのままキツキへ迫ってくる。
あの時から、何度も考えた。どうすれば、あの次の風を間に合わせられたのか。寝る前まで頭の中で繰り返したくらいだ。
だから、今度は迷わない。
迫ってくるキュルの動きを見て、キツキはすぐに右手を向けた。風を槍のように束ね、その進路へ放った。
風の槍が迫ると、キュルは大きく後ろへ跳んでかわす。
(よし、間に合った! ちゃんと動きを見てからでも対応できた!)
そう思った瞬間、何かに強く引っ張られ、身体が前へ傾いた。
「え?」
咄嗟に右腕へ目を向ける。いつの間にか黒い影が腕に絡みつき、そこからキュルまで伸びていた。
後退したキュルに合わせるように影が張り、キツキの身体がさらに前へ引かれる。
「ちょ――」
反射的に踏ん張ろうとしたが、足が追いつかない。引かれるまま一歩、二歩と前へよろめき、最後にはほとんど飛び込むようにキュルとの距離が縮まった。
キュルはその胸を、ぽんと軽く叩いた。
だが、前へ引かれた勢いまでは止まらない。そのまま倒れ込みかけたキツキを、キュルは身体をずらしながら受け止め、勢いを利用してくるりと身体を返した。
次に気づいた時には、背中と膝裏にキュルの腕が回っていた。
いわゆる、お姫様抱っこの形だ。
「まだまだ」
「……」
キツキは一瞬ぽかんとキュルを見た。少し遅れて自分がどういう姿勢になっているのか理解すると、無言で両手で顔を覆った。
少し離れたところでは、ブロムが堪えきれず小さく吹き出していた。
キュルは特に気にした様子もなく、キツキを地面へ降ろすと、そのままてくてくと仲間の方へ戻っていった。
キュルのチームメイトもしばらく呆気に取られていたが、そのうちの1人が我に返った。
「……お、おかえり、キュルちゃん」
「ん」
キュルが元の位置へ戻ると、4人は森の向こうへ去っていった。
それを見送ったキツキは、右腕を見る。
氷壁をかわされた後、風を間に合わせることばかり考えていて、その次をまるで考えていなかった。
というか、キュルが魔法を使ってくること自体、頭から抜けていた。前は使わなかった。それだけだ。普通に使うところも見たことあるだろ。
……完全に前の動きに引っ張られてたな。
「……なんだったんだ、今の」
ライトの声で思考が途切れた。
「……知らん」
「いや、ていうかお前らどういう関係なんだよ」
そう聞かれた瞬間、さっきの姿勢を思い出し、キツキは一瞬言葉に詰まった。そのまま視線を逸らすと、これ以上聞かれる前に歩き出す。
「ほら、行くぞ」
ライトはまだ何か言いたそうにしていた。だが、ロアンはもうキツキの後を追っていて、ブロムも口元にまだ少し笑みを残したまま歩き出していた。
2人が行ってしまうのを見て、ライトも諦めたように後を追った。
そうして4人は再びクリスタルを探しながら森の奥へ進んでいった。
◇
「おっと、こちらでは1年生が単独で守備役の区域へ入っています!」
実況の声とともに、大型映像が切り替わった。
映し出されたのは、一面に雪が積もった区域だった。少し離れた場所には赤いクリスタル。その手前では、3年生の守備役とエリルがすでに交戦していた。
守備役が再び魔法を放つ。エリルは横へ避けながら、片手を上げた。
直後、雪原を風が走る。
大量の雪が一気に巻き上がり、白い雪煙が2人の姿を覆い隠す。




