第115話 クリスタルラッシュ・1
転送の光が視界を覆った。次にキツキが目を開けた時には、周囲の景色が一変していた。
目の前には太い幹の木々が立ち並び、その奥まで森が続いている。外から見たドームの広さとはまるで合わない。
「森か!」
少し離れたところでライトが声を上げた。ブロムとロアンも近く、4人まとめて同じ場所に転送されたらしい。
全員いると分かるなり、ライトは周囲を見回した。
「よし、とにかく見つけたやつ全部取ってこうぜ!」
「そうだな」
「……まあ、最初はそれでいいか」
「決まりだね」
ブロムも笑って歩き出し、4人はそのまま森の中へ入っていった。
最初にクリスタルを見つけたのは、言い出した本人だった。
「あった!」
ライトが木の根元へ駆け寄った。草の間には白いクリスタルが隠れていた。
「白だから10点か」
キツキが確認すると、ブロムも白いクリスタルを見て笑った。
「早速見つかるなんて幸先いいね」
ライトが手を伸ばすと、クリスタルは淡く光り、その手の中から消えていった。
「よし、次!」
初得点で勢いづいたライトにつられ、キツキたちもさっきより注意して周囲を見るようになった。木の根元や岩陰、倒木の下まで探し始めたところで、ロアンが足を止めた。
「……ここ、何かありそうだな」
「分かるのか?」
「いや、なんとなくだが」
「なんだよ」
もっと理屈のある答えが返ってくると思っていたキツキをよそに、ロアンはしゃがみ込み、手を地面へ向けた。土魔法で根元の土を持ち上げると、その下から青い光が覗いた。
「……本当にあんのかよ」
「……ああ」
ロアン本人まで少し驚いている。
クリスタルが土の中に隠されていたことから、4人の意識は自然と見えない場所にも向くようになった。キツキも木の根の奥や空洞を覗き込みながら進んでいく。
「なあ、あそこ光ってないか?」
しばらくしてライトが指さした先では、大きな木の根が複雑に絡み合っていた。奥に何かあるが、ここからではよく見えない。
「こっちからなら……少し見えるかな」
ブロムが回り込み、ロアンも根元の土を動かした。隙間が広がったことで、キツキにも奥の色が見えた。
「……緑だ」
「よっしゃ!」
ライトが真っ先に手を突っ込み、緑のクリスタルを取り出した。光になって消えると、満足そうに拳を握った。
「結構いけるじゃん、俺たち」
「まだ始まったばっかだぞ」
「でも順調なのはいいことだろ?」
それはそうなのだが、こうもあっさり前向きに返されると、少し調子が狂う。警戒していた自分が馬鹿らしくなって、キツキも立ち上がった。
その時、不意に少し離れたところから声が飛んできた。
「お、緑まで取ってるじゃないか」
4人が振り向いた。木々の間から出てきたのは3人組の生徒だった。人数からして2年生だろう。そのうち1人がブロムを見て目を止める。
「あれ……お前、ブロム・アステリオンか?」
「……はい」
「やっぱり。勇者候補サマじゃねえか」
2年生たちは顔を見合わせると、ニヤッと笑った。次の瞬間、そのうち1人が魔法を放った。
ブロムが即座に1歩前へ出て、正面から受け止めた。その動きを見て、別の2年生が後ろにいるライトたちへ狙いを変えた。
キツキは魔力の循環を高めたまま、2年生の動きを追う。飛んでくる魔法の先にはライトとロアン。
今なら――氷だ。
間に氷壁が立ち上がり、魔法を受け止めた。防がれた相手が横を抜けようとしたところで、足元の土が盛り上がる。ロアンだ。相手が進路をずらされた隙に、ライトも距離を取った。
一方、ブロムは最初に仕掛けてきた生徒を押し返していた。予想以上の手応えだったのか、相手の表情がわずかに変わる。
「……思ったより面倒だな。おい、引くぞ」
その一言で、3人はすぐに距離を取った。最初に声をかけてきた生徒が、去り際にブロムを見る。
「やっぱ勇者候補ってだけあるな」
そう言い残し、3人はそのまま森の奥へ去っていった。
ブロムは何も返さず、その背中を見送った。その様子を見ていたライトが、ブロムに顔を向ける。
「マジで有名人なんだな」
「はは、こういう歓迎は勘弁してほしいけどね」
ライトは妙に分かったような顔で頷いた。
「モテる男はつらいよな。俺もわかるぜ……」
(いや、何を知ってるんだ、お前は)
そう内心で突っ込むのとほぼ同時に、ブロムも苦笑しながら小さく肩をすくめた。4人はそのまま森の奥へ歩き出した。
再び周囲を探しながら歩いていたキツキだったが、木々の間にちらりと見えた色に足が緩んだ。
淡い水色。見間違えるはずもない。
「……キュル?」
◇
――バキンッ!
氷が守備役の防御魔法へぶつかり、細かな欠片となって飛び散った。
レニアと守備役の左右には、人の背丈を越える氷壁が一直線に伸び、2人だけを細長い空間へ切り離していた。壁の外では、チームメイトの2人が赤のクリスタルへ回り、残る1人も事前に決めた役割へ動いていた。
守備役が横の氷壁へ目を向けた。自分を孤立させ、その間に仲間を動かす狙いに気づいたのだろう。だが魔法を放つより先に壁の表面が盛り上がり、左右から鋭い氷が突き出した。
「くっ!」
鋭く伸びた氷を前に、相手は防御魔法を張った。その隙にレニアは足元にも氷を走らせ、壁に意識を向ける余裕を削っていく。
競技開始からしばらくが経ち、レニアたちはすでにいくつかのクリスタルを確保していた。今狙っているのは、守備役の向こうにある赤のクリスタルだ。
そのクリスタルを守る守備役も、このまま壁に構っていては守り切れないと判断したのか、今度は正面からレニアとの距離を詰め、魔法を叩きつけてきた。
レニアは氷を重ねて受けた。衝撃に押され、靴底が地面を滑る。それでも無理に押し返そうとはせず、相手が壁に意識を向ければ左右の氷壁から氷を伸ばし、前に出ようとすれば足元を塞ぐ。
倒す必要はない。今は、自分に釘付けにしておけばいい。
だが、次の瞬間、相手の周囲に集まる魔力が一段膨らんだ。そのままさらに踏み込み、先ほどより強い魔法をレニアへ叩きつける。
――ガシャァン!
正面に重ねた氷が、ぶつかった魔法とともに砕け散った。
レニアはわずかに眉を寄せる。
このまま受け続けるのは得策じゃない。次は――
「取れました!」
壁の向こうから声が届く。それを合図に、レニアはすぐに左右の氷壁を解いた。
視界が開ける。守備役は赤のクリスタルが消えていることに気づくなり、レニアたちを追おうとする。だが、その進路で地面が隆起する。土の壁が続けて立ち上がり、守備役の足を止める。
その隙に、レニアは仲間たちと合流した。そのまま4人で走り、守備役の担当区域を抜けたところでようやく足を緩めた。
土壁を作った生徒が遅れて息を整えるのを見て、レニアは3人を見回した。
「怪我は?」
3人が揃って頷いた。
「ありません! 大丈夫です!」
「そう」
短く返し、再び進行方向へ目を向けた。
「なら、次も守備役のいるところを狙うわ」




