第114話 よっしゃ、行こうぜ!
掲示板の前は、相変わらず人でごった返していた。張り出された組分けを見ようと、生徒たちが何重にも重なっている。
キツキもその最後尾から隙間を探していると、横から声がかかった。
「やあ、キツキ。君も見に来たのかい?」
振り向けば、そこにいたのはブロムだった。
「おお。ブロムもか」
「うん。せっかくだし、一緒に見ようか」
ちょうど前の生徒が抜けたところに2人で入りこみ、張り紙へ目を走らせた。
1年生は4人1組。その中から自分の名前を探していくと、思ったよりすぐに見つかった。
キツキ。
ブロム・アステリオン。
ライト・ベルク。
ロアン・ケイル。
「……僕たち、同じチームだね」
「……ほんとだな」
思わず、もう1度そこに並んだ名前を見た。
(マジか。ブロムと一緒なのか)
知らない3人と組むことも考えていたのだから、ブロムがいるならひとまず何とかなりそうだ。
そう思いながら、キツキはそのまま別の名前へ目を走らせた。
レニア・フォルテア。
少し離れたところに、その名前を見つけた。
続けて確認してみれば、レニアもエリルもキュルも、それぞれ別のチームだった。
(見事に分かれたな)
そんなことを考えていると、人混みの向こうからやたら通る声が響いた。
「勇者候補じゃん! これ勝っただろ!」
キツキとブロムがそちらを見ると、赤い短髪の少年が、張り紙とブロムを交互に見ながら笑っていた。
さっき確認した名前の1つが頭に浮かんだ。どうやら、彼がライト・ベルクらしい。
「いやあ、強そうなの揃ったな!」
ライトは人混みをかき分けてくると、最初から知り合いだったような調子で話しかけてきた。その後ろから、メガネをかけた少年もついてくる。
掲示板の前では落ち着いて話せそうになかったので、4人は人混みを抜け、少し離れた場所へ移動した。
「ライトだ。よろしくな」
「ロアン。よろしく」
ロアンは、ライトよりずっと落ち着いて見える男子だった。メガネもあってか、第一印象だけなら頭脳派に見える。
「ブロムがいて、キツキもSクラスだろ? 普通に当たりじゃん」
「ああ。俺もそう思う」
ロアンが真顔で頷いた。
「ま、悪くはなさそうだな」
キツキがそう返すと、ブロムも笑った。
「僕も、かなりいいチームだと思うよ」
「だろ?」
ライトは満足そうに頷いた。
「で、もちろん1位狙うよな?」
早速そんなことを言い出したライトに、キツキは眉を上げる。
「狙うのはいいけど、まだ細かいルールも聞いてないだろ」
「あ、そっか。じゃあ聞いてからだな」
ライトはあっさり頷いた。
少々無鉄砲なところはありそうだが、チームとしてはうまくやっていけそうだった。
◇
詳しい規則は、その日のうちに各クラスで説明された。
「前に大枠は話したが、今日は細かいところを説明する」
教壇に立ったガルドが、黒板へ5つの簡単な印を書いた。
クリスタルラッシュは例年どおり、1・2年生が同じドームで競技する。ただし、順位は学年ごとに分けて集計される。
「まずは得点になるクリスタルだ。今回は5種類ある」
白が10点。青が20点、緑が40点、赤が80点。そして最高価値の金が150点。
色によって得点は一目で分かるが、価値が高いクリスタルほど入手は難しい。守備役によって守られているものもあれば、そもそも簡単には見つけられない場所に配置されているものもある。
キツキは黒板に書かれた金の印へ目を向けた。
金さえ見つければ終わり、というほど単純ではなさそうだ。
「それと、取っただけでは得点にはならない。納品地点まで持っていけ」
クリスタルは納品して初めて、チームの得点として確定する。ただし、納品した参加者はその時点で競技終了となり、安全区画へ転送される。そこから競技に戻ることはできない。
納品地点はドーム内に複数あり、常にすべてが使えるわけではない。現在使用できる場所は確認できるが、次にどこが使えるようになるかまでは分からない。
さらに、納品地点の周囲は戦闘禁止区域になっている。そこへ入った時点で自動的に納品手続きへ移るため、持ち込めさえすれば、その場で奪われる心配はない。
つまり、早めに納品すれば得点は確実になるが、その分だけチームの人数は減る。かといって、最後まで持ち続ければ戦力は維持できるものの、失う危険も残る。
「それと、途中で脱落した奴が持っていた未納品のクリスタルは、そいつが脱落した地点に再出現する」
その言葉で、キツキの考えが1つ先へ進んだ。
他チームを倒すこと自体に点はなくても、相手がクリスタルを持っていれば話は変わる。脱落した場所に未納品のクリスタルが残るなら、それを奪う意味が出てくる。
教室のあちこちでも、似たところに気づいたらしい声が上がっていた。
その後、ガルドは守備役の具体的な配置や担当者が、参加者には事前に知らされないことも説明した。
キツキは顎に手を当てる。聞けば聞くほど、ただの宝探しではなかった。
「当日は観客も入る。学院外からの招待客も来るから、そのつもりでな」
その言葉には、今までより大きなざわめきが返った。
クリスタルラッシュには、魔法関係者や研究者、各種組織の関係者も足を運ぶ。中には将来有望な学生を見ることを目的に来る者もいて、活躍すればそこで名前を覚えられたり、早い段階から組織に声をかけられたりすることもある。
正式なスカウトの場というわけではないが、学生たちにとっては自分を外部へ売り込む機会にもなっていた。
キツキは少しだけ姿勢を正した。
学院全体の盛り上がりから、もっと祭りに近い行事なのかと思っていたが、外部の人間から評価される機会にもなるとなれば、思っていた以上に意味のあるイベントらしい。
「見られてるからって、余計な無茶はするなよ」
ガルドがそう付け加えると、教室の声が少しだけ落ち着いた。そのまま順位の話へ移る。
「それと、上位チームには今年も豪華賞品が用意されている」
今度は教室のあちこちから期待するような声が上がる。だが、そこへ少し冷めた声が混じった。
「去年もそう言ってなかったか?」
教室に微妙な笑いが広がった。
過去の例を知っている生徒たちからすれば、必ずしも期待どおりのものが出てくるとは限らないらしい。
そんな反応には構わず、ガルドは続けた。
「それから、各学年の下位10チームには後日、学院奉仕活動をしてもらう」
今度は別の意味で教室がざわついた。
どこからか、「例の強制ボランティアだ」という声が聞こえた。
豪華賞品より、こちらの方がよほど現実味があった。
◇
そして、クリスタルラッシュ当日。
会場に入ったキツキは、まず観客の多さに目を向けた。円形に広がる観客席には大勢の人が集まり、その視線は中央の実技ドームへ向けられている。上を見れば、大型の魔法映像まで浮かんでいた。
ほどなく、会場全体へ競技開始前の案内が響いた。どうやら実況までいるらしい。普段の実技とは、空気からして違う。
待機場所には1・2年生の参加者が集まり、そこかしこから話し声が聞こえている。
「いやー、楽しみだな!」
隣ではライトが朝から変わらない調子で笑っていた。その横で、ロアンも競技場へ目を向ける。
「金のクリスタル、何個取れるかな」
「いきなり金狙いかよ」
キツキがそう返すと、ロアンは「当然だが?」とでも言いたげな顔をしていた。その様子を見て、ブロムも笑った。
「まあ、狙えそうなら狙ってみようよ」
「ブロムまで……。ま、そうだな」
そう返しながら、キツキはふと気づいた。なんだかんだ、自分もこの競技を楽しみにしているらしい。
まもなく転送を開始するというアナウンスが、待機場所に響いた。
ライトがキツキたちへ顔を向ける。
「よっしゃ、行こうぜ!」
「おう」
キツキが応じると、ブロムとロアンも続く。
そうして4人は、転送地点へ向けて1歩を踏み出した。




