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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第112話 あいつが出れば十分ですよ

 昼の授業が終わり、教室のあちこちで椅子を引く音が鳴り始めた。


 キツキも机の上を片づけながら立ち上がる。いつもならそのまま適当に昼を済ませるところだったが、少しだけ迷ってから、離れた席にいるブロムへ声をかけた。


「ブロム、今日一緒に飯食わないか?」


 ブロムが振り返る。


「……珍しいね。キツキから誘ってくれるなんて」


「まあ、忙しかったらいいけど」


「いや、ぜひ一緒に行こう」


 あっさり返されて、キツキは少しだけ肩の力が抜けた。

 こういうブロムの爽やかなところは、見習いたいものだ。


 そのまま2人で教室を出て、学院の食堂へ向かった。


 昼時の食堂は普段から騒がしいが、今日はいつも以上だった。席につく前から、あちこちでクリスタルラッシュの名前が聞こえてくる。


「守備役ってもう決まってるのかな」


「知らない。でも、強い人がいたら避けた方がいいよな」


「その前に誰と組むかでしょ」


 近くでは1年生らしい生徒たちが、食事を受け取る列に並びながら話していた。


 少し離れた席からは、2年生の声も聞こえてくる。


「今年は3人だからな。去年と同じつもりで動いたら絶対きついって」


「そこは始まってから考えるしかないわ」


 参加する側が落ち着かないのは分かるが、騒いでいるのはそこだけではない。


「去年は散々ひどい目にあったからな。今年は1年に返してやる」


「相手違うだろ」


「細かいこと言うなよ」


 後ろの席から聞こえてきた会話に、キツキは思わずそちらを見る。


「……楽しんでるな」


「3年生から上は、守備役に選ばれる人もいるからね」


 向かいに座ったブロムが笑った。


「去年参加した人なら、色々思うところもあるんじゃないかな」


「だからって1年生に返すのは違うだろ」


「それは僕もそう思うよ」


 ……こうやって負のループが続くんだろうな。


 どこへ耳を向けても、話題は似たようなものだった。普段の昼食より、食堂全体が少し浮ついている。


「そういえば、今年は5年生のかなり強い人にも声がかかってるらしいよ」


 ブロムがパンをちぎりながら言った。


「5年生か」


「誰が出るかまでは知らないけどね」


◇


「ディオン、起きろ」


「……起きてます」


 5年生の教室がある棟から少し離れた中庭。


 芝生の上に寝転がった青年は、顔に本を載せたまま答えた。暗い緑色の髪が芝の上に広がっている。


「起きてるならせめて顔を出せ」


「眩しいんで」


「お前なぁ……。とにかく、クリスタルラッシュの守備役に出ろ」


「嫌っす」


「去年もそう言って逃げただろ」


「昨年は忙しかったんで。ちなみに、今年はもっと忙しいです」


「ふざけるな。クラス6のお前が出なくてどうする」


「ジルも出るんですよね?」


「ああ」


 ジルも、ディオンと同じ5年生のクラス6だった。


「あいつが出れば十分ですよ」


「はぁ……。いいからお前も出ろ」


 教師が取り合わなかったところで、別の声が割って入った。


「あんた、まだ断ってるの?」


 近づいてきたのは、肩より少し下まで金髪を伸ばした少女だった。


 ディオンが本を少しずらす。


「よお、ジル」


「よお、じゃないわよ」


 ジルはそのまま顔の上の本を取り上げた。


「ちゃんと先生の話聞きなさいよ」


「返せって」


「話が終わったらね」


 ディオンは仕方なく上半身を起こす。


「お前、出るんだろ?」


「ええ。出るわよ」


「じゃあ俺まで出る必要ないだろ」


「なんでそうなるのよ。私が出るのと、あんたが出ないのは別の話でしょ」


「……」


「あんたも頼まれてるんだから、5年生として少しは協力しなさいよ」


 ディオンはしばらく黙ったあと、教師を見る。


「……やっぱりジルだけでよくないですか」


 ジルがため息をついた。


「そういえば、この前の食事代」


 ディオンの動きが止まる。


「まだ返してもらってないんだけど」


「……それ今関係ある?」


「その前の立て替えもまだよね」


「……」


「それから、あれも。あと、この前の――」


「わかった、わかった。出るよ」


「最初からそう言いなさいよね」


「……ったく」


「なによ。返してないのは事実でしょ」


 ディオンは何も言い返せず、ジルの手から本を取り返すと、そのまま芝生へ寝転がった。


「よし、今ので決まりだな。もう逃げるなよ、ディオン。ジル、助かった」


「いえ。5年生なんですから、出るのが当然ですよ」


 教師はようやく満足したようにその場を離れていった。


 ディオンは小さくため息を吐くと、再び本を顔に載せた。


「ジル」


「何?」


「今日の昼、奢って」


「自分で払え」


◇


 冒険者ギルドを出たところで、フィリンは足を止めた。見覚えのある男が、少し離れたところに立っている。


「……ムルガド、さん?」


「ああ」


 直接話したことはなかったが、顔も名前も昔から知っている。それほど有名な人だ。


「私に何か?」


「少し話がある」


「……私にですか?」


「そうだ」


 ムルガドはその場から動かず、まっすぐフィリンを見ている。


 偶然ここにいた、という様子ではない。どうやら、わざわざフィリンが出てくるのを待っていたらしい。それだけでも妙だった。


「なんでしょうか」


「お前、精霊使いだろ」


 フィリンは眉を上げた。ムルガドほどの人物が、自分に目を留めているとは思わなかった。


「それが一体なんだというんですか?」


「精霊使いで、クラス3。放っておくには惜しい」


 精霊使いだと知っているだけなら、まだ分かる。だが、今の自分がクラス3だというところまで知っているなら、話は別だ。

 どうやらムルガドは、自分のことをある程度調べてきたらしい。


「……それを言うために、わざわざ待ってたんですか?」


「それだけじゃない」


 ムルガドは少し間を置いた。


「俺なら、お前を助けてやれるぞ」


 フィリンがわずかに目を見開く。


「……どこまで知ってるんですか」


「それなりには知ってるつもりだ」


「答えになってません」


「はは」


 ムルガドは小さく笑った。

 少し間を置いてから、改めてフィリンを見る。


「俺のところに来ないか」


「…………はい?」

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