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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第111話 だったら今は、こっちだ

「キュル。もう1回相手してもらっていいか?」


「いいよ」


 キュルは抱えていたホンペクを地面に下ろし、頭を軽くひと撫でする。それからキツキと距離を取って向かい合った。


「じゃあ行くぞ」


「うん」


 魔力を巡らせて、雷の術式を組む。


 これまでキュルは、雷を横へかわすと、そのまま真っ直ぐ距離を詰めてきた。なら、次も雷でいい。避けた直後を狙えば、今度は間に合うはずだ。

 キツキは雷を放つと同時に、次の雷の術式も組み始めた。


 青白い雷を、キュルは予想どおり横へかわす。


 そのまま来る。あとは間合いに入った瞬間に撃てば――。


「なっ!」


 キュルが途中でふっと進路を変えた。


 この動きなら――雷じゃない。

 氷で足を止めるか。いや、風で押し戻した方がいい。


 だが、次の雷はすでに途中まで組んでいる。

 このまま撃つか。それとも一度捨てて、別の術式を組むか。


 迷っているうちに、キュルはもう目の前まで来ていた。


「おしまい」


 胸元を軽く叩かれ、キツキは手を下ろした。

 キュルが離れていくのを見ながら、さっきの一瞬を思い返す。


 あのまま真っ直ぐ来ていれば、雷のままでよかった。


「……先に決めすぎたな」


 先に術式を組むのが悪いわけじゃない。キュルがどう動くかも分からないうちに、次を雷に決めたのが間違いだった。

 次は、もう少しキュルの動きを見てから決めよう。


 小さく息を吐いたところで、ふと、まだ体の中を巡っている魔力に意識が向いた。


 さっき標的で試した時も、魔力を巡らせたままにするだけで、次の魔法へ移るまでが明らかに早くなった。


 だったら――。


 今みたいに抑えて巡らせるんじゃなく、自分で扱える範囲でもっと強く巡らせたままにしたらどうなる?


「……試してみるか」


 キツキは顔を上げた。


「キュル。もう1回頼む」


「ん」


 2人は再び距離を取った。


 今度は、さっきより強く魔力を巡らせ、その状態を保った。少し扱いづらいが、それでも維持はできる。


「行くぞ」


「ん」


 雷の術式を組み、放った。

 キュルはそれを横へかわすと、そのまま距離を詰めてくる。


 キツキは次の術式には入らず、その動きを追った。

 (よく見ろ。キュルはこのあと、どう動く?)

 キュルは先ほどと同じように、途中で斜めに進路を変えた。


 正面からもう1発雷を撃っても避けられるだけだ。

 なら――。


 即座に術式を組み、魔力を流す。

 キュルの進路を塞ぐように、氷の壁が立ち上がった。


「……!」


 キュルの足が止まる。


 ほんの一瞬だった。

 すぐに横へ切り返し、氷壁を回り込んでくる。


 その動きに合わせ、キツキも風の術式を組み始める。

 だが、そこまでは間に合わなかった。


「おしまい」


 術式へ魔力を流すより先に、回り込んだキュルの手が胸元を軽く叩いた。


「……っ」


 組みかけていた風の術式を解き、キツキは小さく息を吐く。


 今回も、勝てなかった。

 けれど、さっきとは明確に違う。


 キュルが進路を変えるのを見てから選んだ氷は、ちゃんと間に合った。


「さっきよりいい」


「……おう」


 まだ全然足りない。

 それでも、手応えはあった。


 こっちの動きを見て、相手だって動きを変えてくる。

 それに、フォールンや魔物が相手なら、次に何をしてくるかなんてもっと分からない。


 そんな状態で先に術式まで組めば、読みを外した時に組み直すことになる。

 次に使う魔法が決まっているなら一番早い。でも、今の俺がそれを当てにするのは危ない。戦闘なら、その一瞬が命取りになる。


 逆に、魔力を強く巡らせたまま待てば、相手の動きを見て、どう返すかを決めてから術式を組める。それに、今までみたいに最初から始めるよりは、ずっと早い。


 先に術式まで組んでおくよりは少し遅いし、その分だけ魔力も使う。

 でも、魔力を余計に使うことなら、俺はほとんど気にしなくていい。

 だったら今は、こっちだ。


 キツキは右手をぐっと握った。

 魔力を強く巡らせたまま相手を見て、何で返すかを決めてから術式を組む。

 まずはこの戦い方を、もっと使えるようにしよう。


 そんなキツキを、少し離れたところからエリルが黙って見ていた。


 使える属性の多さは、どう考えても普通ではない。

 けれど、今日こうして戦い方を見ても、そこまで強いようには見えなかった。


 ――本当に、見えている通りなのか。


 鍛錬を見てほしいと頼まれた時、断る理由はなかった。

 こうして近くで見られるのなら、なおさらだ。


 そんな考えは表に出さず、エリルはいつもの笑みを浮かべていた。


 その視線の先で、キツキはキュルへ向き直る。


「もう1回」


「……また?」


「頼む」


「やだ」


 その後も、キュルとエリルに付き合ってもらいながら、キツキはしばらく鍛錬を続けた。


 地面に座ったホンペクは、その間も変わらずキツキを見ていた。


◇


 翌日。

 Sクラスの教室に入ってきたガルドは、いつものように教壇へ立つと、生徒たちを見回した。


「授業の前に、1つ知らせておくことがある」


 何人かが顔を上げる。


「近いうちに、学院の実技イベントとしてクリスタルラッシュを行う」


(クリスタルラッシュ?)

 聞き覚えのない名前に、キツキは首を傾げる。


「専用の実技ドームに入って、中に配置された結晶を集めてもらう。1年生は4人、2年生は3人のチームだ」


 ガルドは続けて、大まかなルールを説明していく。


 ドーム内には価値の異なる結晶がいくつも配置されており、それを納品地点まで持ち帰って初めて得点になる。

 複数のチームが同じドーム内に入り、制限時間内にどれだけ得点を稼げるかを競う。


「3年生以上から選ばれた学生が、守備役として参加する」


 教室が少しざわついた。


「上級生が相手なんですか?」


「ああ。ただし、倒す必要はない。結晶を持ち帰れればそれでいい。正面から戦うか、避けるか、誰かが引きつけるか。その辺りも含めて自分たちで考えろ」


 なるほど。

 結晶を集めるだけなら単純そうだったが、上級生まで邪魔をしてくるとなると話は変わってくる。


「他のチームと戦うのもありですか?」


 今度は別の生徒が手を挙げて尋ねた。


「ありだ。ただし、相手を倒してもそれ自体に得点は入らん。目的を忘れて殴り合うな」


 ガルドの言葉に、教室のあちこちから小さな笑いが漏れる。


「それと、安全面は心配するな。ドーム内では保護術式が参加者への損傷を肩代わりする。その負荷が一定を超えた時点で、安全区画へ強制転送される」


「じゃあ、怪我はしないんですか?」


「ああ。競技中に傷を負うことはない。ただし、転送された時点でその参加者は脱落だ。自分からリタイアすることもできるが、扱いは同じだ」


 ガルドは一度教室を見回した。ほかに手が上がる様子はない。


「詳しい規則と組分けは後日知らせる。今日は、そういう実技があるとだけ覚えておけ」


 それだけ言うと、ガルドはそのまま授業の準備を始めた。


 けれど、教室はすぐにはいつもの空気に戻らなかった。

 何人かは周囲を見回し、近くの生徒と小声で話している。


 キツキも、少し気持ちが浮き立っていた。


 昨日掴んだばかりの戦い方が、どこまで通用するのか。しかも相手には3年生以上の守備役もいる。

 少し怖い。だが、それ以上に試してみたい気持ちの方が大きい。


 そんなことを考えているうちに、ふと別の言葉が引っかかった。


 組分け。

 学院が決めるのか、それとも自分たちで組むのかはまだ分からない。


 ……ちゃんと馴染めるだろうか。

 急に、そっちの方が心配になってきた。

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