↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/148

第106話 それなら、あいつに話しに行こう

「言われた通り、見てきました」


 そう言ったのは、セドリックより2つ下の男子生徒だった。


「2人とも小演習室から出てきましたよ。箱とか道具とか、荷物も全部持ってました」


「そうか。ご苦労だった」


 セドリックは短く答え、用意していた硬貨を何枚か渡した。男子生徒はそれを受け取ると、軽く頭を下げて離れていく。


 その背中を見送り、セドリックは小さく息を吐いた。


 やはり、確認を頼んでおいて正解だった。何の問題もなければ、そのまま使えていたはずだ。研究道具まで持って出てきたのなら、学院側も何かしら問題があると判断したのだろう。


 レニア殿下に何かあってからでは遅い。まして、相手は何を考えているのか分からないキツキだ。


 七環術式の問題なら、あの男の底を少しは見られると思っていた。エリルが満点を取ったことは知られている。それなのに、キツキが解いたという話はどこからも出てこなかった。


 普通に考えれば、解けなかった。それだけの話だ。

 だが、セドリックにはそう思えない。


 あの男なら、自分の異常さを悟られないために、わざと答えなかったとしてもおかしくない。そう考えてしまえば、結果が出てこないことすら安心材料にはならない。


 レニア殿下へ近づいている理由だって、本当にただの好意や共同研究だけなのか。万が一、何か危害を加えるつもりなら、なおさらだ。


 今回の確認で、危険は未然に防げた。やはり動いて正解だった。


 あとは、レニア殿下が研究を続けられるようにすればいい。殿下にとって、これからの成果につながる大切な研究なのだから。


 そのための場所も、すでに1つ当たりをつけてある。設備も十分に整っていて、話を通すのも難しくない。殿下が望めば、すぐにでも手配できるはずだ。


 このことを話せば、殿下も誰を頼るべきか分かってくれるだろう。次からは、まず自分に相談してくれるに違いない。


 明日にでも、直接話をしよう。


◇


 利用予定表を見たまま、レニアが口を開いた。


「……問題は、空きだけじゃないわね」


「え?」


「場所も、なるべく同じところじゃないと駄目だわ。今は試作品を少しずつ変えてるでしょう。使う場所まで変わったら、結果に違いが出ても、何が原因なのか分かりにくくなるもの」


「ああ……そっか」


 言われて、キツキもこれまでの実験を思い返した。杖の形を変え、術式を変え、また試す。それなら、比べるための環境まで毎回変わるのはまずい。


「それに、この先のことも考えるなら、もう少しちゃんと結果を見られる環境じゃないと厳しいわね」


 キツキは腕の中の試作品の箱に視線を落とした。


「なあ……これ、今日止められてなくても、そのうち場所を変える必要があったんじゃないか?」


「……ええ。そうなったでしょうね」


「やっぱそうだよな。なら、しょうがないか」


 キツキは一度うなずいた。


「じゃあ、次探すか」


「……ええ」


 返事が少し遅れたのが気になって、キツキは箱を抱えたまま、視線だけをレニアの方へ向けた。


 レニアは利用予定表に目を向けたまま、しばらく黙っていた。

 必要なものは明確になったが、それを満たす場所をどう用意するかとなると何も浮かばなかった。


 王女なのに、研究する場所1つ自分ではどうにもできない。


 もっと自分に使えるものがあれば。自分の意思で動かせるものが、もう少しあれば。


 そんなことを考えているうちに、後ろから何人かの足音が近づいてきた。

 レニアが振り返ると、上級生らしい生徒が3、4人、少し離れたところに立っていた。利用予定表を見に来たらしい。


「あ」


 キツキも気づき、2人はその場を離れた。


 すれ違う時、何人かの上級生がレニアへ目を向けた。王女だからというだけではなく、その容姿に思わず目を留めた者もいたが、やがてそれぞれ空いた利用予定表の前へ集まっていく。


 それを横目に、2人がそのまま廊下を少し歩いたところで、レニアが口を開いた。


「今日はもう戻りましょう」


 もう少し探すものだと思っていたキツキは、一瞬だけレニアを見る。だが、そのままうなずいた。


「ああ、そうだな」


「私の方でも、何か方法がないか考えてみるわ」


「分かった。俺も考えてみる」


 話はそこでいったん終わり、2人は途中で別れた。


 キツキはそのまま廊下を歩きながら、どうするか考える。

 こういう時、なんだかんだ最初に浮かぶのはエリルだった。彼女なら学院のことはもちろん、それ以外でも何でも知っていそうな気がする。研究に使えそうな場所にも、心当たりがあるかもしれない。


 そう考えていた時だった。


「キツキさん」


 後ろから声をかけられて振り返ると、学院の職員が立っていた。


「お客様がお見えです」


「……俺にですか?」


「はい。こちらへお願いします」


 客と聞いて、真っ先にムルガドの顔が浮かんだ。


 いや、さすがにないだろう。

 少し前に嵐のようにやって来て、嵐のように去っていったばかりだ。夜にいきなり部屋に来て驚かされたことも、まだ少し根に持っている。


 そんなことを思い出しているうちに、先を歩いていた職員が応接室の前で足を止めた。


 キツキも立ち止まり、抱えていた箱を見る。レニアとの研究の試作品が入っている以上、ここに置いていく気にはなれない。少し失礼かと思いながらも、箱を抱えたまま扉を開けた。


「やあ」


 中にいた老人が、キツキを見るなり明るく片手を上げた。


「……エストさん?」


 予想していなかった顔だった。


「急に呼んですまない。いくつか確認しておきたいことがあってな」


 キツキは箱を足元に置き、エストの向かいに座った。


 エストの用件は、七環術式の解法の今後の扱いや記録の残し方、それからプライムフォーラムへの推薦についてだった。

 どれもすでに話が進んでいるものではあったが、思っていたより細かな確認が多かった。


 ひと通り話を終えると、エストは満足そうにうなずいた。


「よし。これで大丈夫だ」


 そこでエストの視線が、キツキの足元に置かれた箱へ向いた。


「ところで、それはなんだ?」


「ああ、これは……プライムフォーラムに出す研究の試作品です」


 エストの顔がぱっと明るくなった。


「少し見てもいいか!?」


「え、あ、はい。どうぞ」


 思ったより食いつかれたことに少し面食らいながら、キツキは箱を開け、その中から1本を渡した。


 エストは受け取ると、しばらく黙って眺めた。向きを変えたり、持つ位置をずらしたりしながら確かめ、途中で少しだけ目を細める。

 その表情からは何も読み取れず、キツキは黙って反応を待った。


 やがて、エストは小さく息を吐いた。


「……いや、やめておこう。楽しみに取っておくと決めたんだったな」


 そう言って杖を返す。


 何か言われると思っていたキツキは、少し拍子抜けした。


「それで、研究の方はどうだ?」


「あー、それが……今日ちょっと問題が出まして」


「問題?」


「研究に使ってた部屋が、今日から使えなくなったんです」


 エストが不思議そうに首を傾げると、キツキは小演習室が使えなくなった経緯と、他の施設も何度も使うには空きが足りなかったことを話した。


「それでレニア殿下と話してたんですけど、場所は空いてればいいってだけでもなくて。同じような環境で試して、結果を比べられないと厳しいって話になったんです」


「なるほど。つまり、研究を続けるための場所がないわけか」


「今のところはそうですね」


「ふむ。それは惜しいな」


 エストはすぐには続けず、キツキを見たあと、足元の試作品へ視線を落とした。何かを考えるように目を細め、やがて顔を上げる。


「それなら、あいつに話しに行こう」


「……あいつ?」


「ここの学院長だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。