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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第105話 ……これじゃ間に合わない

 フィリンは討伐依頼を終え、ミザルへ戻る道を歩いていた。


 使い込んだ外套には土がついていて、靴も随分汚れていた。大きな怪我こそなかったが、さすがに少し疲れた。


 しばらく歩いていると、そばにいる精霊が斜面の方へ反応を示した。


「あら?」


 フィリンも足を止め、そちらへ目を向ける。

 道から少し離れた斜面に、4人ほどの少年少女がいた。揃いの制服には見覚えがある。


「……ギレルの」


 その名前を口にした途端、キツキとホンペクの姿が一瞬だけ頭をよぎった。そのまま、フィリンは生徒たちを眺める。


 生徒たちはフィリンには気づく様子もなく、草むらを覗き込みながら、何かを探していた。


「あった!」


「それは違うって」


「違うのか? 見た目似すぎだろー」


 離れているので全部は聞こえなかった。それでも、笑い声だけはよく聞こえた。

 1人が何かを見つけるたびに残りが集まり、違ったらまた散っていった。


 フィリンはしばらく黙ってその様子を見ていた。


「…………」


 少しして、ようやく視線を戻し、また歩き出した。


◇


 レニアがノートを開き、前回の記録に目を通した。


「昨日試した条件を、今日は少し変えてみましょう」


「了解」


 キツキも返事をしながら、持ってきた試作品を机の上へ置いた。

 小演習室での研究にも、もうかなり慣れた。最初の頃はいちいち確認していた準備も、今ではほとんど迷わない。


 レニアが必要なものを並べ、キツキも椅子を引く。いつものように準備を進めていると、扉が叩かれた。

 ここを使っている時に、誰かが訪ねてくることはほとんどない。キツキがレニアを見ると、ちょうど向こうもこちらを見ていた。


 ほどなく扉が開き、学院の職員らしい女性が入ってきた。


「失礼いたします。レニア殿下、キツキさん。少々よろしいでしょうか」


「はい」


 女性は2人に一礼してから、机の上に置かれた試作品へ目を向けた。


「こちらの研究について、安全面を確認してほしいという申し出がありまして。現在の研究内容を、改めて確認させていただきたいのです」


「申し出?」


 キツキが聞き返す。


「はい。提出されている申請内容と、現在行われている研究が少し違っている可能性があるとのことでした」


 レニアはノートを閉じた。


「では、何をお答えすればよろしいですか?」


 それからしばらく、女性の質問に2人で答えた。


 今は試作した杖を実際に使っていて、結果を見ながら条件を変え、何度か検証を重ねる予定だと説明した。女性は話を聞きながら、何度か手元の書類に目を落としていた。


「ありがとうございます」


 一通り聞き終えると、女性は頭を下げた。


「突然で大変申し訳ありませんが、今伺った内容ですと、今後はこちらの小演習室で研究を続けていただくことはできません」


「え?」


 キツキは思わず声を出した。


「で、でも、今日の予約も通ってますよね?」


「はい。予約自体は正式に受理されています。ただ、今回改めて確認した結果、現在の研究内容では、こちらの設備で十分な安全を確保できないと判断されました。そのため、本日の利用についても中止をお願いすることになります」


「え、今からですか?」


「申し訳ありません」


 急すぎるだろ。

 もう準備まで始めていたのに、今から使えないと言われても困る。


「あの、その申し出って誰からですか?」


「申し訳ありませんが、私からお伝えすることはできません」


「……そうですか」


 余計に気になる。


 レニアは一度視線を落とし、少し考えてから女性へ尋ねた。


「問題なのは研究そのものではなく、この小演習室の設備と使用条件、という理解でよろしいですか?」


「はい。研究自体を中止していただく必要はありません。より研究向けの設備が整った施設であれば、申請して利用することは可能です」


「分かりました」


 レニアがそう答えると、女性はもう1度頭を下げて部屋を出ていった。扉も静かに閉められた。


「……急すぎないか?」


「それはそうね」


 レニアは少しだけ間を置いた。


「でも、学院側が言っていることは間違ってないわ。研究を始めた頃と比べれば、やっていることも変わっているもの」


「それは……そうかもだけど」


 レニアは机に並べていた道具の1つを手に取った。


「私だって、飲み込めてはいないわよ」


 そのまま片付け始めるレニアを見て、キツキも少し黙った。


「……だよな」


 キツキもまだ使っていない試作品を箱へ戻した。


「じゃあ、別の場所探すか?」


「そうしましょう」


 荷物をまとめると、試作品の箱や道具を持ったキツキと、ノートを手にしたレニアは小演習室を出た。


 まず考えたのは、他の小演習室だった。だが、設備や使用条件を確認してみると、今までの部屋とほとんど変わらない。場所だけ変えても意味がなかった。


 そこで2人は、もっと設備の整った研究施設を当たることにした。利用状況を確認しに行くと、今度は別の問題が出てきた。


「結構埋まってるな」


 キツキは利用予定の一覧を見ながら言った。

 利用そのものはできる。ただ、研究用の設備が揃っているだけあって、使いたい生徒も多いらしい。


「お、ここ空いてるぞ!」


 少し先の日付に空きを見つけ、その箇所を指さす。


 レニアはそこを見てから、首を横に振った。


「そこだけ空いてても駄目よ。何度か使えないと、まともに検証できないもの」


「あ、そっか」


 言われて一覧を見直すと、その次に使える日はかなり先だった。これでは、何度も使うのは難しい。なら他の施設はどうかと調べてみたが、そちらも似たようなものだった。


 レニアは顎に手を当て、黙り込んだ。


「……これじゃ、プライムフォーラムまでに間に合わないわね」


 キツキももう1度、一覧へ視線を戻した。どこかに使えそうな空きがないか探してみるが、やはり見つからない。


 しばらく、2人ともその場から動けなかった。


 どうすればいいんだ。

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