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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第102話 入る人、入らない人、勝手に入る人

 放課後。


 エレオノーラはギレル学院の2年生Sクラス。フォルテアの侯爵家に生まれた一人娘で、顎のあたりで切り揃えた黒髪に、同じく黒い瞳を持つ。顔立ちもかなり整っている。


 所属するのはフォルローズ。今日は4年生の先輩と一緒に、レニアを勧誘しに来ていた。


 その本人がちょうど教室から出てきて、エレオノーラはわずかに背筋を伸ばした。


(はぁ……今日もお美しい)


「エレオノーラ、行きますよ」


「はい」


 返事をして、その後ろについていった。

 そのままレニアに追いつくと、4年生の女性が声をかけた。


「レニア殿下。少々よろしいでしょうか」


 レニアが足を止めて振り返る。赤い瞳がこちらを向いた。


「はい。どうされましたか?」


 声まで可愛い。

 これだけ近くで聞けただけでも、ついてきた甲斐があった。もちろん顔には出さない。


「以前もお声がけしましたが、所属するサークルがお決まりでないのでしたら、改めてフォルローズへの加入を検討していただけないかと思いまして」


 フォルローズは、フォルテア王国出身者を中心にしたギレルでも有数の大きなサークルだ。同郷の上級生とのつながりもでき、学院内外の情報も入ってくる。フォルテア出身なら、所属先に迷った時にまず候補に挙がるような場所だった。


「もちろん、お忙しいようでしたら、活動への参加もできる範囲で構いません」


 レニアは返事までにほんの一拍置いた。


「ありがとうございます。でも、やはり遠慮しておきます」


 断る時ですら美しい。いや、そこは今はいい。

 4年生の女性も予想はしていたらしく、表情を大きく変えることはなかった。


「何か、私たちに至らないところがありますでしょうか」


「いえ。そういうことではありません。何度も声をかけていただいて、本当にありがたいと思っています」


「でしたら――」


 4年生の女性はそこで言葉を切り、エレオノーラに視線を寄越した。


 どうやら、自分からも一言勧めてほしいらしい。だが、ここで自分まで口を挟めば、レニア様に余計な気を遣わせるだけだ。そう思って、エレオノーラは小さく首を振った。


 一瞬の沈黙のあと、レニアが少し困ったように眉を下げる。


「すみません。それでも、今は入るつもりはありません」


「……分かりました」


 それ以上、4年生の女性は食い下がらなかった。


「気が変わりましたら、いつでも声をかけてください」


「はい。ありがとうございます」


 レニアは丁寧に頭を下げた。


 王女でありながら、学院では年上の相手へきちんと礼を払う。そういうところも、やはり素晴らしい。


 エレオノーラもすかさず頭を下げる。

 そのまま下げていって、視界の端に自分の膝が入ったところで、ようやく気づく。

(……下げすぎた)


 レニアが一瞬だけ目を見開いた。エレオノーラの下がりすぎた頭を見つめ、それから何も言わずに小さく会釈を返す。


 そのままレニアは廊下を歩いていった。

 隣で4年生の女性が小さく息を吐く。


「今回も駄目でしたね」


「はい」


 残念ではある。何をお考えなのかは分からないが、レニア様がそう決めたのであれば、きっと何かあるのだろう。

 そもそも、自分ごときにレニア様の高尚なお考えが分かるはずもない。


 遠ざかっていく銀髪の後ろ姿を見送りながら、エレオノーラは心の中でそっと拝んだ。


◇


 小演習室へ向かう廊下を、キツキは早足で歩いていた。


 思ったより時間を食った。エリルが申請書を書き直し、マリベルに指摘された部分を詰めているうちに、レニアを随分待たせてしまっている。


 急いで廊下の角を曲がったところで、ふと誰かに見られていたような気がして足を緩めた。振り返ってみても、廊下には何人か生徒がいるだけで、こちらを見ている者はいなかった。


(……気のせいか)

 今はそれより急がないとまずい。


 キツキは再び足を速めた。ほどなくして小演習室に着き、そのまま扉を開ける。


「悪い、レニア。遅れた」


 机にノートや資料を広げていたレニアが顔を上げた。


「遅いわ」


「悪かったって」


 キツキは鞄を置きながら椅子を引いた。


「サークルの書類でちょっと時間かかってさ」


「エリルのサークル?」


「見てたのか」


「3人で教室を出ていったら、嫌でも目に入るわよ」


 それもそうか。

 キツキが腰を下ろすと、レニアは手元のノートに視線を戻した。


「それで、入ったの?」


「ああ。まあ、成り行きでな」


「そう」


 レニアはそれだけ言って、ページを1枚めくった。


「じゃあ、始めましょう。待っている間に少し整理しておいたから」


「助かる。遅れた分はちゃんと働きますよ」


 そこからは、いつも通り研究に戻った。


 条件を何度か書き直し、資料も見返しながら作業を続けているうちに、窓の外はすっかり暗くなっていた。


 さすがに今日はここまでにしようということになり、2人は片付けを済ませて小演習室を出た。


◇


 寮へ戻って汗を流し、寝支度を終えた頃には、もう何もする気が起きないくらい疲れていた。


(今日は色々ありすぎたな……)

 そのままベッドに倒れ込むと、もうまぶたが勝手に落ちてくる。これなら泥のように眠れそうだ。


 その時、ふっと部屋の気配が増えた。

 嫌な予感がして重いまぶたを持ち上げると、案の定そこにはホンペクがいた。


「……おい、今何時だと思ってんだ」


 ホンペクは返事もせず、当然のようにベッドに上がった。布団の上からキツキのふくらはぎのあたりに身体を乗せると、そのまま丸くなる。


「何しに来たんだよ、お前」


 やはり返事はない。

 ホンペクはそこそこ重かったが、布団越しだからか、不思議と嫌ではなかった。むしろ脚をほどよく押さえられている感じがして、妙に落ち着く。


 どかすのも面倒に感じ、キツキはそのまま目を閉じると、ほとんど時間もかからず眠りに落ちた。


 ――――どれくらい経ったのか。


 閉じたまぶたの向こうが、突然白く染まった。

 何事かと思う間もなく、耳をつんざく警報音が部屋中に鳴り響く。


「っ!?」


 キツキは跳ね起きた。


 目がまだ光についていかない。白くちらつく視界の奥に、ぼんやりと人の形だけが浮かんでいる。


 でかい。

 暗がりの中でも分かるくらい、明らかにでかい。


 誰だ。

 というか、なんでいる。


 身体が勝手に動き、キツキはベッドの上で拳を構えた。寝起きとは思えないファイティングポーズである。


 しかし、人影はそんなキツキなど気にも留めず、辺りを見回している。


「おい、なんだこの音は」

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