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説明不足な6つのチート ~使いこなして、破滅するヒロインたちを救うまで~  作者: タカツキビヨン
第四章

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第101話 ……エリルさん、あの、やめてください

「キツキがいい」


「え?」


 思わずキュルを見る。

 本人はいつもと変わらない顔をしていた。冗談を言っている様子もない。


 まさかキュルから自分の名前が出るとは思っていなかった。なんだかんだ、普通に嬉しかった。


 キュルとキツキを交互に見ていたエリルが、少し楽しそうに笑った。


「いいじゃん。キツキ、うちに来なよ」


「いや、でもな……」


 ふと視線を感じて横を見ると、キュルがじっとこちらを見ていた。

 そんな目で見られたら、断りづらいだろ。


「……活動って、どれくらいやるんだ?」


「んー、決めてない」


「決めてない?」


「やりたいことがある時だけ。基本は休みの日かな」


 ただでさえ最近は研究まで増えている。これ以上、自由に使える時間が削られるのは正直きつい。

 でも、やりたい時だけでいいなら話は別だ。


 本当にそんな都合よくいくなら、だけど。


「それ、本当に作れるのか?」


「大丈夫だって。顧問ももう捕まえてあるし」


「随分早いな」


「会いに行く?」


「今からか?」


「そ」


 エリルはもう立ち上がっていた。キュルも当然のようにそのあとに続いた。


 まあ、顧問がどんな先生なのかは気になる。そう思ってキツキも立ち上がった。

 その瞬間、なんだかうまく丸め込まれている気がした。

 ……まあ、気のせいだろう。


 深く考えないことにして、2人のあとを追った。


◇


 連れてこられたのは、実践魔法の演習場に併設された教師用の準備室だった。


 エリルは扉を軽く叩くと、返事を待たずに開けた。


「マリベル先生、いるー?」


「います。ですから、もう少し静かに入ってきてください」


 机の向こうから顔を上げたのは、まだかなり若く見える女性だった。


 金色の髪は後頭部のやや高い位置でひとつにまとめられている。黒い瞳に、きっちりとした服装。動きやすそうではあるが、見るからに真面目そうな教師だった。


「キュルも一緒だったんですね」


「ん」


「飴、いりますか?」


「いる」


 マリベルは机の引き出しから飴を1つ取り出し、キュルへ差し出した。キュルが慣れた様子で包みを開けるのを横目に、マリベルは今度はキツキへ目を向けた。


「あなたがキツキですね。話は聞いています」


「……いい話ですか?」


「いろいろです」


 なんとも判断に困る返事だった。

 キツキがそれ以上聞き返さずにいると、マリベルは3人を順に見た。


「3人で来たということは、サークルの話ですか?」


「そうそう。3人目連れてきた」


 それを聞いて、マリベルはキツキを見た。


「念のため確認しますが、あなた自身の意思で来たんですよね?」


 キツキは一瞬、エリルを見た。

 エリルはその視線に気づくと、にこっと人当たりのいい笑顔を返してきた。


「……まあ、はい」


「ほら。キツキも入りたくて仕方ないって」


「そこまでは言ってない」


「……まあ、嫌々というわけではなさそうですね」


 エリルは満足そうにうなずくと、鞄から数枚の書類を取り出してマリベルの机に置いた。ぱっと見ただけでも、ほとんどの欄が埋まっている。


「もうここまで書いてんのかよ」


「当然でしょ?」


「こういう時だけ妙にちゃんとしてるな」


「こういう時だけってなに」


 2人が言い合っている間にも、マリベルは書類に目を通していた。


「必要な欄は埋まっています。ただ、活動目的が少し曖昧ですね」


「あー……やっぱそこ?」


「『学院内外で興味を持った事物について調査・体験する』では、何を活動の中心にするのか分かりません」


「でも、それが目的なんだけど」


「でしたら、その意図が伝わるよう、もう少し具体性を持たせてください」


 マリベルはきっぱりと言い切った。

 キツキも、指摘された箇所を改めてのぞき込んだ。


「確かに、これだけだと何でもありに見えるな」


「キツキまでそっち側ー?」


「いや、贔屓目で見てもそう思うぞ」


 エリルは少しだけ頬を膨らませたあと、すぐに書類に視線を戻した。


「じゃあ、どう直せば通る?」


「まず、調査や体験を通して何を得るのかを明確にしてください。活動方法ももう少し具体的に。それと、学院外で活動する可能性があるなら、安全面についても必要です」


「結構あるなー」


「新しく団体を作るんですから、当然です」


 マリベルは書類を揃えながら、エリルをちらりと見た。


「まったく。普段からこのくらい素直に話を聞いてくれれば助かるんですが」


 エリルは一瞬だけ目を細めると、少し楽しそうに顔を上げた。


「先生も人のこと言えないじゃん。この前だって――」


「……エリル」


「なーに?」


 マリベルのきっちりしていた表情が、わずかに崩れた。


「……エリルさん、あの、やめてください」


「えー、まだ何も言ってないじゃん」


「言わなくていいです」


 エリルは楽しそうに笑っている。


(ああ、なんか握られてるな)

 何なのかは分からない。まあ、聞かない方がよさそうだ。


 それはともかく、申請の話を聞く限り、マリベルはちゃんとした教師に見える。サークルの方も、思っていたほど適当ではなさそうだった。


 隣では、キュルが飴を転がしながら静かにこちらを見ている。

 その視線を受け、キツキは小さく息を吐いた。


「……分かった。俺も入るよ」


 キュルの目がほんの少し細くなった。

 そのままキツキの背中をぽんと1度だけ叩く。


 それを見て、エリルも少し口元を緩めた。


「よし、これで3人だね」


「確かに人数は揃いましたが、まだ申請は通っていませんからね」


「分かってるって」


「あなたの『分かってる』は信用できません」


「ひどいなー」


 そのあと、マリベルに促され、キツキは申請書の加入者欄に名前を書いた。


「では、あとは活動目的ですね。そこを直せば、申請には出せます」


「今からやるの?」


「やります」


「即答だ」


 エリルが嫌そうな顔で書類を引き寄せる。


 キツキはその横で、書いたばかりの自分の名前をちらりと見た。


(……やっぱり、うまく丸め込まれてるよな)

 それでも、なんだかんだここならやっていけそうな気がした。

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