1話6
そしてその時は訓練生とやらも居る状態だ。ガキを相手にするのは寝覚めが悪いから。
そういえばとふと疑問に思う。
「そういや訓練生ってのはいないのか?見ていないが」
「今日は太陽の曜日です。毎週土と太陽の曜日は訓練学校は休みになり、訓練生は基本は寮で過ごします」
なるほどね。だから外も中も静かなのか。
ザルに振るい落されちまった後かと思ったよ。
「ああ休みね。ついでに聞くが、俺が療養中の間はどうしてたんだ?俺は実技担当なんだろう?まだ訓練みたいなものは始まっていないのか?」
「いえ、今期は今週から始まっています。ハンドラーが回復するまでは、Cクラスのハンドラーが合同で実技を見ていてくれました」
「なら例を言わなきゃな。じゃあもう明日から俺一人で見るようになるってことか?」
「一応明日も合同の予定にはなっております。ハンドラーもまだ慣れていないでしょうから」
「そりゃあありがたいね。先任教官殿に訓練の仕方ってのを教えてもらおう」
実に助かる。ガキ共を並ばせられて、はいどうぞと言われても何をしていいかわからない。
ひとまずそのCクラスのハンドラーとやらの手腕をお手本にさせてもらおう。
「これで訓練学校の案内は終わりです。何か質問はございますか?」
マミアがかしこまる。もちろん聞きたいことは山ほどあるさ。主に君についてだが。
それ以外は特に・・・。ああ、重要なことが一つある。俺が見るっていう訓練生の人数だ。
別に今すぐ聞きたいってわけじゃあないが気にはなる。
数人ならまだしも、マミアの話だと国や貴族たちは数百人規模のガキを集めようとしてたんだろ。
この教室だってバカみたいに広い。いきなり百人ガキを任せられても手に余る。
そして俺は何人もの人間に顔を覚えられちまうってのがどうも苦手だ。
あとはこれもマミアの話を聞いて思ったことだが、この訓練学校ってのは入りたい者を拒まないんだろう?
どんな奴でも入れて、宝石と石くれを選別していくって場所だ。
そして寝泊りするところがあって、飯も出る。嫌な予感がするんだよな。
デカい国の王都だからって全員が裕福とは限らない。必ず貧富の差は生まれる。
このグリムヴァルドも例外じゃあないはずだ。スラム街みたいな場所はあるだろうし、治安だって場所によっちゃあだいぶ変わるはずだ。俺みてえなゴロツキばっかりの場所だってあるだろうよ。
さっきは昔話に気を取られていたが、思い起こせばそうだ。
「俺が見る1Dクラスってのは何人いるんだ?あとは、さっき聞いて思ったんだが、寝るところと飯をタダで提供するんだ。素性もわからん痩せたガキが集まってくるんじゃねえのか」
その問いにマミアは目を丸くさせた。
そして簡単にだが説明してくれたんだ。今の訓練学校の抱える問題点というものを。
まずやはり、冒険者になりたいという強い意志を持つ者は多くはない。そりゃそうだ。大金が手に入る代わりにかけるのは命ですってなれば、誰でも思いとどまる。
俺も最初から思ってたんだよ。いや知っていた、冒険者ってのはバカだなって。
だから本来は、素質のある奴だけが冒険者を目指していた。それでもある日突然死ぬんだが。
だが家も飯も世話してくれる場所ができた。冒険者ってのがどんな世界かってのを知っていても、いつか死ぬために訓練する場所だって理解していても、今日の寝床とパンのために逃げてくるやつが後を絶たなかったんだ。
生きるために仕方なく、素質もねえのに冒険者って道を選ぶしかない。
全く、誰かとダブって気分が悪い。
そこで俺のDクラスってのに繋がる、
どうやら入校時点で素質を審査され、有望なのはAかBクラス。有望じゃないのはCかDクラスって分けられるらしい。
ヴォルターの最大限の配慮だろう。
有望でやる気のある奴でもすぐくたばっちまうからここができた。有望でもなく仕方なくここに来るような奴らなんて、ここを出たらすぐ墓の中だ。いや、一年次の目標はゴブリンの巣の偵察だっけ?
じゃあもう墓石の予約を取っとかないといけねえな。多分それは俺の仕事だ。
一年くらい屋根のある場所で寝かせて飯も食わしてやろうってことだ。
最後にマミアは、俺の見る訓練生の数を言った。
12人だそうだ。丁度1ダース、墓も注文しやすそうだ。
話が終わり、マミアは俺を見る。真剣な表情だ。
やめてくれ、一晩幾らの恋しかしたことないんだ。天国は気になるが俺にゃやることがある。
「最初はただのスケベな人かと思いました」
おっとバレてる。
おかしいな。
「情報通り、軽薄で言葉に芯の無い適当な人かとも思っていました」
おいおい、俺は奴とは違う。金は払うし、天使だって天国に連れていけるさ。
「ですが、話をさせてもらってわかりました。あなたはこれまで来た冒険者たちとは違う。真実を疑い、訓練生に向かい合える人です。これからよろしくお願いします。ハンドラー」
そう言ってマミアは頭を下げた。
なんだ、今夜はベッドが狭くなると思ったのに。
どうやら勘違いをしているようだ。そりゃあ俺の性だよ。
ただ気になったから聞いた、それだけだろ。
ただ良い方向に勘違いしてくれるならそれに越したことはない。何を言うかではない、誰が言うかだ。アニキに教えてもらった。他人を騙くらかす方法だ。良い評価を得れば、言葉は勝手に格言になる。
偉業を残した昔の英雄の言葉を勝手に格言にするのと一緒だ。
あいつらだって寝小便を垂れて『やりたいと思った時にやる、後に回してはならない』って言ったかもしれないだろう。
「微力を尽くすよマミア、いや、マネージャー」
恰好つけて言葉を選ぶ。良い評価を得ているとするなら、こんな中身の無い言葉もマミアにゃ好印象だ。
果たして訓練学校の案内とやらは終わり、俺たちは分かれたのであった。
そして部屋につく。もちろん俺の部屋だ。腹の具合からして昼間。まだ時間はかなりある。時間はあるがそれでももったいない。
俺はすぐに部屋を出た。予定していたことを行うために。
だいたいの道ってのは一度で覚える。小さなことだが大切だ。鶏だって一度寝た場所を忘れない。
頭ん中で地図を開き、一直線に目的地へと向かう。
書庫だ。
あの時目をつけた本を借りていくためだ。
扉を開き、中に入った。
「あら、もう会いにきてくれたの」
俺を出迎えてくれたのは妖艶な大人の声。振り向けばその声とは裏腹に愛らしい顔の女性がにこやかな表情でこちらを見ていた。
フィンチだ。
机で頬杖をついて暇を持て余している顔をしている。
「ああ、どうしてもすぐにね」
「え!?」
すまない冗談だ。そんな身を乗り出さないでくれ。
本当は俺だって君の体のほくろの数を数えてみたいさ。
「本を借りたくて」
「なーんだ」
フィンチは残念そうに座り直す。どうやらよほど暇ならしい。
俺は本棚の谷間へと進んだ。
確かこの辺だ。
背表紙に文字なんてある本は稀だ。すぐ見つかる。
「これと、これ、あとはこれ。くそ」
ある程度単語を読み取りながら本を手に取る。そして悪態をつく。
そりゃそうだ。一冊がバカみたいに思い。
俺の非力な腕じゃ二冊がやっとだ。
「何借りるのー?」
持ち帰る本を吟味していると、書庫にフィンチの声が反響する。
「暇なのかー」
適当に返す。
「そりゃそーよー。字が読める子なんて数えるくらいだものー」
まあそうか。読み書きができるやつは少ない。貴族や一部の商人くらいだ。
読み書きができるならほかにも仕事はたくさんある。
こんなところに来なくても生きていける。
じゃあやはり宝の持ち腐れか、暇があったら今度何冊かくすねよう。




