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4話10


 なら、と考えながら俺は壁に羊皮紙を貼り直す。

 冒険者組合の線は薄くなったが、いずれにしてもあの襲撃を企てた奴らってのは、かなりの規模や力を持っているはずだと予想する。

 リッドが声をかけられているということから、他の冒険者も掃討に加わったのは事実だろう。なら報酬も結構な額になるはず。悪党共に返り打ちにされるような冒険者じゃ意味がねえから、ある程度人選を考えないといけねえ。下調べだけでも金も人間も使うだろう。

 なら、ファミリーを厄介に思っていた、デカい悪党共の組織か、貴族か。有り得るな。

 邪魔だってんで他の盗賊団や悪党共はよく潰した記憶もあるし、悪徳貴族だっていくらか消した記憶がある。

 

 「冒険者側は今と同じようにハンドラーとして活動し情報を集めて、悪党共の情報は・・・、やはり足で稼ぐしかないか。元々そのつもりだったしな。貧民街くらいに行けば何かしらあんだろう。貴族は・・・」


 俯いて俺がぶつぶつ呟いていた、その時であった。


 「なんだこのガキ!」


 男の野太い声が聞こえた。

 ガキ、という言葉に少々の頭痛を感じながら、俺は声の方に嫌々視線を向けた。

 悪い予想ってのは当たるもんだね。

 視線の先には、ヴォルターのおっさんくらいデカい男に絡まれる、三人の姿があった。

 俺はため息を吐きながら、面倒臭がりつつも小走りで駆け寄っていった。

 リーチとガバルが男の前に立ち、その後ろにかばわれるようにカーラが立っていた。


 「おっとすまねえ。うちの弟たちなんだ。悪さしちまったのなら謝るよ」


 俺は三人と男の間に立つ。三人の方を向くと、濡れた瞳で必死に抵抗をしていた。

 全く何してんだよ。この忙しい時に。


 「ちげえよ!このおっさんがカーラのケツ触ろうとしてたんだよ!」


 「だから、オレたち、おっさんの手、止めた」


 なるほどね。だからカーラの前にお前ら立ってんのか。

 ・・・やるじゃねえか。ビビりあがって震えちまってるが、色男の素質があるぜ。


 「なんだとこの」


 「まあまあ、許してくれよニイサン。すまねえな、疲れてるだろうに。あそうだ!これで酒でも飲んでくれよ。友達にも奢ってやってくれ。な?」


 そうして俺は男に歩み寄り体を寄せ、にこやかな笑顔で懐にあった銀貨を男の手に押し付けた。

 男は手に握らされた感触を確かめ、ちらりと視線を落とす。するとすぐに笑顔になっていく。


 「んお?そうかい、そうかい。こんなに悪いね、へへ。そんな怒ってねえよ。元気な弟たちじゃねえか。良いアニキを持って良かったな。へへへ」


 不細工な顔で笑いやがる。俺好みのぶっ殺したい冒険者像にぴったりと合う男だ。


 「なんで、ハンドあぶぶ」


 「黙ってろ」


 危うく俺の身分を公開しそうになるガバルの口を手で塞ぐ。今ここでハンドラーだなんだって言ったら騒がしくなるだろうが。


 「へへ、そうだ。お前も一緒に飲むか?オレの奢りだ」


 「いやありがとう、遠慮するよ。それなら、この辺りで良いドレスでも売ってる店は知らないかい?」


 「おお、貧相な体してると思ったらそっちの奴だったか、中央広場にでも行けばきっとあるだろうよ。良いのがあったら見せに帰ってこいよ。ちゃんと着てからな。ハハハ」


 「ぶぶグルッ!グルルルルッ!」

 

 瞬間、瞳いっぱいに涙を貯めたガバルが、口を塞ぐ俺の手を引きはがそうと暴れ出す。どうにか押さえつけるが、ガキの癖にとんでもない力だ。

 一体どうしちまったんだよ。


 「おおおっかねえな。さっきからその犬に噛みつかれそうで小便ちびりそうだったんだ。ちゃんと口おさえといてくれよ」


 「あ、ああ。じゃあ失礼するよ」


 そして俺たちは冒険者組合を逃げるように出て行った。もちろんガバルの口をおさえこんで。

 両開きのドアを体で開けて、やっと日の当たる場所に出る。全く、冒険者共の汚(きたね)え空気に息が詰まりそうだった。新鮮な空気を吸えて、緊張が緩んだのか、ガバルがその隙に俺の手をこじ開けた。


 「なんでハンドラーは言い返さんのじゃ!オレらが馬鹿にされるんは構わん!じゃけど、ドラゴンも追っ払ったオレらのハンドラーを馬鹿にされるんは、オレは・・・我慢できん」


 リーチもカーラも何か言いたかった様子はあった。多分、こいつと同じようなことを。しかし、突然の獣人訛りを強く出しながら流暢に叫んだガバルに呆気に取られていた。

 俺だって少々驚いた。てっきりただ口数が少ねえガキかと思っていた。だが、こいつは獣人訛りを隠していただけだったのだ。

 拳を握りしめ、俺の方をじっと見るガバルは、決して感情の薄い子犬ではなかった。

 獣人(こいつら)の、それも犬みてえな方の性質か。群れの上位者を馬鹿にされることにトサカに来ちまったってことか。


 「ガバル、おめえ・・・」


 「アンタ・・・」


 リーチとカーラが心配そうにガバルを見て、その後すぐに表情を変えて同じように俺の方を見る。

 

 「そうだよハンドラー。なんであんな下から。ハンドラーの方が絶対強(つえ)えだろ」


 「名前も出せば良かったのさ。鍛冶屋のおっちゃんみたいに、すぐに向こうから謝ってくるだろうに」


 リーチとカーラがそう言ってくる。

 そりゃできるならそうしたさ。ただ、騒ぎになるのはごめんだ。あんな大勢の中で英雄だなんだと騒がれてもみろ。俺の面(ツラ)を知ってる奴が居たらどうするんだ。

 金で解決できるなら安いもんだ。

 その上、あの男が殺気立ってる時、何人もこちらを注意深く観察してる奴らが居た。だからあの男に、友達にもって勧めたんだ。いくらリッドの名前でその場を鎮めても、俺に黙らされたって事実は残る。周囲の気配が男の仲間か知り合いかってんなら、後から復讐されかねないし、探られるのは真っ平だ。

 少しでも弱そうな奴を演じて、記憶から消えた方が得なんだよ。


 「周りに仲間がいた。英雄だなんだってその場は乗り切っても、俺が黙らせたって事実は消えねえだろ。後から何されるか分かったもんじゃねえ」


 俺はそうやって三人に弁明した。


 「後から、って。ハンドラーだったら何人来ても・・・」


 「そうだよ。ハンドラーだったら、ハンドラー・・・、だったら?ああ・・・、ああ、すみませんでした!」


 すると、カーラは突然何かに気付いたように慌て、謝りながら頭を深く下げた。わかってくれたか。これからのことに支障をきたすのは面倒だって。

 

 「何してんだよカーラ」


 「カーラ、悪くない。悪いのは、あのおっさん」


 リーチとガバルが不思議そうにカーラを見てそう言った。それでガバルは少々落ち着いたのか、いつもの調子に戻っている。獣人訛りはたまにわからん時があるから、そっちの方が良い。ジェットもうるさいからガバルみてえに喋るようにならねえかな。


 「アンタたちも謝るんだよ!」


 「えー。なんでだよ」


 「わからない。オレ、謝らない」


 「ハンドラーだったら何人来たって返りうちにするだろうさ!でも、あのおっさんが組合ん中で顔に泥塗られたって、アタシたちに来たらどうするのさ!」


 「え?」

 「へ?」

 「ぬ?」


 男三人わけがわからないため、馬鹿面でカーラを見ていた。


 「わからない子たちだね!守ってくれたんだよ!自分が馬鹿にされても金渡してでも、アタシたちにあのおっさんが仕返ししないように!」


 そうだったのか?いや、違う。俺が違うって言うんだから違う。

 まさかそう取られるとは思ってもいなかった。しかし、それを聞いてリーチとガバルの顔は青ざめていった。


 「そ、そうか・・・。あの、ごめん、いやすみませんでしたハンドラー。オレらのために」


 「ハンドラー。オレ、知らなかった。なのに、暴れて、オレ、すみませんでした」


 「いや違(ちげ)えよ。騒ぎは起こすなって言ってただろ?面倒だからって」


 そう勘違いを訂正しようとするが、もうリーチもガバルもしょぼくれちまった。さっきまで暴れてたのに、またガバルの尾は股ぐらに巻き付いてる。

 これじゃあ傍(はた)から見たら、俺がガキいじめたみてえじゃねえか。目立つのはごめんだってのに。

 ああ、もう。

 俺は仕方なく、リーチとガバルのご機嫌取りをすることにした。なんで俺がこんなことを。

 そうして俺は二人の頭に手を当てた。


 「どっちでもいいが、カーラの前に立ってたのは良かった。良い男ってのは女の盾になれる男だ。お前らはちっとばかし良い男だったぞ」


 「へ、へへ」


 リーチとガバルはお互いを見て機嫌を戻していた。ガバルの尾は大きく揺れている。単純だね、全く。

  

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