4話9
俺が待っていると、しばらくして彼女が戻ってくる。少々申し訳なさそうな顔をしているのは、やはりそういうことだったんだろう。
「お待たせしました。半年ほど遡って賞金首や犯罪者集団の討伐、捕縛履歴を調べてみましたが、ディエゴファミリーに関する依頼や情報があったという記録は見当たりませんでした」
「やっぱりか。すまねえ、手間かけた」
「い、いえお気になさらず。何かディエゴファミリーについて情報が入りましたらリッド様にお伝えするようにしましょうか?」
「いや忘れてくれていい。特別追いかけてたわけじゃねえんだ。ただあいつらを簡単にせん滅したって聞いて信じられなかったもんでね」
「そうですね。お力になれてよかったです」
「ああ、あと、このナンバー2の男はとんでもない色男だって噂も聞いてたんだ。それは多分本当だから、似顔絵の描き直しが必要かもしれん」
「そ、そうですか。ではそのように伝えておきます」
「よろしく。じゃあ、ありがとよ」
「あ、お待ちください」
ある程度情報と仮説が揃ったので、いったん整理するため彼女の元を離れようと背を向けると、彼女が慌てて俺を呼び止めた。
そうであった。俺としたことが大切な情報を聞くのを忘れていた。きっと彼女もそれを伝えようと俺を止めたのだろう。
彼女の名前を聞いていない。
俺はすぐにハンサム顔を作って振り向く。
「どうした?」
「いえ、このところ原因はわかりませんがドラゴンの活動が活発になっているようなんです。普段現れないはずの平原などにも現れるようになり、既に多数の冒険者様が犠牲になっていて・・・。目撃情報などから多分リッド様が遭遇した物と同一個体かと思われています」
ドラゴン・・・。思い出したくもねえ。そんなこと聞いて俺にどうしろって言うんだ。
まさか俺が殺せなかったのを責めてるのか?仕方ねえだろ。相手は台風や地震みてえなもんだ。俺になにができる。
山火事を小便で消せってか?そういうのはリッドに言ってくれ。
ああ、今は俺がリッドか。
「お、俺が殺せなかったからか」
「い、いえ!そんなこと微塵も!違います!ドラゴンの生態はまだ解明できていない部分が多いですが、今回のドラゴンの件が不可思議ではありますが一貫性があり、目的立った行動のように見えるため注意喚起を行っている最中で・・・」
ドラゴンが目的立って?台風に脳みそはないぞ。
ファミリーのことに全く関係ないだろうし、正直興味はないんだがな。
ドラゴン撃退した冒険者が、ドラゴンに対し全く興味が無かったら怪しまれるか。
「一貫性、目的?」
「はい。犠牲になった冒険者様は皆ゴールドランクの方々であり、被害報告はグリムヴァルド領に限られます。更にその冒険者様を狙って襲っているかのように、普通ドラゴンが出現すれば多大な被害を被るものなのですが、冒険者様以外の被害がとても少ないのです。リッド様も馬車でこちらに来られる際に襲われたとのことですし、一致するかと」
確かに、と俺は納得する。そしてあの馬鹿にまた怒りが湧きあがる。リッドの野郎め、ドラゴンが用事があったのは手前かよ。知り合いが来るなら自分だけで対処しろよ。
じゃああいつのせいで俺は脚は折ったし冒険者のフリもしなきゃならなくなったってわけじゃねえか。
そしてあの時、ドラゴンが興味なくしたようにどこかに飛んで行っちまったのは、俺を面倒臭いと思ったわけじゃあなかったんだ。それは、目的のリッドを潰すことができたから。
ということはリッドがくたばるのが遅かったら、俺も・・・。ゾッとするね。
ただ、安心したよ。リッドを潰してどっか行っちまったことから、ドラゴンが本当に用事があったのはリッドに対してだ。
リッドのフリをしていても、ドラゴンはもう俺の前に現れることはない。
「ですので、またリッド様の元へドラゴンが出現する可能性があるかもしれません」
「いや、もうあのトカゲは現れない」
「え?」
考えてる最中に口を挟まれたんで、勝手に口が開いちまった。
「あ、いや。もう一度撃退したんだ。ドラゴンだって俺に会いたくないと思っているはずさ。まあまた来ても俺が撃退してやるけどね」
いじめっ子が来ないことを知ってるなら、デカい口も叩けるってね。
「本当に心強いです。リッド様が居てくれて良かった」
「ただこの前と同じく脚は一本折れるかもしれないんだ。その時は君が看病してくれるかい?」
「まあ、それは大変ですね。その時はトイレのお世話までしましょうか?」
「なに?じゃあ今すぐ折ってくるよ」
「ふふふ、面白いんですねリッド様は」
そうしてしばらく彼女と談笑し、その場を後にする。結局彼女の名前を聞きそびれた。残念だ。
しかも破った羊皮紙をせっかくだから戻してきてと言われてしまった。美人に頼まれたら断れないじゃないか。
俺は羊皮紙を片手にあの壁と向かう。頭の中で、手に入れた情報をすり合わせながら。
まず、ファミリー壊滅を企てた相手が冒険者組合であるという線が薄くなった。しかし、薄くなっただけで、可能性がゼロとは考えない。
そしてリッドに話を持ち掛けた者と、あらましを伝えた者の存在。こいつは少なくとも、冒険者組合の内情を知っている可能性がある。ゴールドランクの冒険者というリッドが素直に仕事の話として信じるわけなのだから。
あとは、そうだな。もしかしたら、それは暗闇の海を漂う中で、突然見えた灯台の明かりのような話だ。手配書がまだ生きている。アニキは、生き延びることができているかもしれない。
あの日、炎の海を彷徨って、声を張り上げ探したが、結局アニキは見つからなかった。もし、いち早く襲撃に気付いていて、逃げることができていたとしたら。
ただそれなら、俺たちに襲撃を知らせるはず。一人で逃げてくれていたらそれでいいが、アニキはそんなことはしねえ。
「くそ、どういうことだ」
俺は頭を押さえた。
ひとまずアニキのことを考えるのは辞めだ。日が暮れちまう。ただ、生きてくれているかもしれないというほんの少しの希望は持ったまま。




