4話8
訓練学校の件、つまりはヴォルターの言っていた、訓練として簡単な仕事を受けるというやつだろう。しかし生憎今回は別の用事だ。
さて、ではなんと切り出そう。ひとまず悪党退治の仕事のことでも聞くか。そして高額の賞金首や、討伐対象になっている悪党集団の話に持っていき、ディエゴファミリーの名前を出す。壊滅させたっていうならその仕事に参加した冒険者どもの名前をそれとなく聞けばいい。リッドの野郎も声をかけられていたのだから、自分も受ける予定だったんだ、と。
そして冒険者組合なら、死体の上がっていないファミリーの名前だってわかるはずだ。そうなれば、そいつは俺と同じように逃げることができたということ。全員の名前が割れてる可能性はかなり低いが、何人かは首に賞金がかかっている。そいつらだけでも生死が確認できる。
よし、と俺は話しの計画を立て、ゆっくりと口を開いた。
「いや、今回は訓練学校は関係ねえんだ。悪党退治の仕事はどんなものがある?」
「あ、そうなのですね。最近ですと、人身売買を行う犯罪組織の調査、討伐、捕縛依頼が出ていますね。ホールド内での行方不明者も多数存在していて、もしかしたらホールド内に拠点があるのではという噂もあります。そのため多数の冒険者様が調査に参加してくださっていますね」
人身売買か、昔はよくアニキがそういう拠点を潰す仕事を取ってきてたよ。あれは胸糞悪いんだ。奴隷だったら、まだ契約と法によりある程度の権利が保証される。まあ地域や、あとは獣人にとっちゃ無いようなもんみたいなところもあるが。
だが人身売買は、ヒトを物として売り買いする。檻に入れて鎖に繋いで、服も着せずに商品の在庫として置いてんだ。扱いは犬や猫以下だ。初めて見る奴は、必ず二通りの反応をする。ぶち切れるか、ゲロ吐いちまうか。
そして買われりゃ最後、考えたくもねえことされて、後はゴミとして廃棄される。
ありゃ本当に、胸糞悪い。
「人身売買ね。高いのか?」
「討伐、もしくは捕縛で二十金貨ですね。もちろん有用な情報を提供された方にも情報の有用性に応じて報酬が支払われます」
「にじゅっ、げほっ」
とんでもない金額の話が出てきて俺はむせてしまう。金貨二十枚?もう例え話も浮かばねえよ。
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ちょっと埃がね。ほら、人が多いから」
「は、はい。ご無理はなされないように。あとは、アッカーコルン周辺で荷馬車などを襲っている集団の討伐依頼が近隣の交易隊や貴族の方から出ていますね。このところ被害報告が無くなったので、こちらも周辺地域の調査依頼が出ています」
「アッカーコルン・・・?」
俺はその名前に聞き覚えがあった。確か、まだ最近のことだ。それは、ここに流れ着く前。俺はやる気のねえ脳みそをどうにか動かして思い出す。
「おい、それってここより東か?」
「はい、そうですが」
やはり、俺が、俺たちファミリーが最後に野営地を構えてた場所だ。ファミリーの誰かが言ってたんだ。この辺りはアッカーコルンって言うらしいんだって。
誘導する手間もなく、本題に近づいてきたことに高揚して、前のめりになってしまいそうになる。だが、今回はリッドに詰め寄った時みたいにヘマはしない。こんな美人にそっぽを向かれちゃ俺はショックで倒れちまうから。
「その、アッカーコルンってとこ周辺でディエゴファミリーって盗賊団が居たと思うんだが、何か知らないか?」
「ディエゴファミリー・・・、名前はもちろん存じ上げております。多数の方から討伐、捕縛依頼がある大物です。しかし、アッカーコルン周辺での情報はありませんね」
「なに?」
俺は困惑する。第一に、俺たちは確かにそこに居たんだ。アッカーコルンのどの辺りかまではわからないが、最後の野営地はアッカーコルンであったはずなんだ。
もしそれがファミリーの勘違いか何かであったとしても、実際に襲撃は行われ、ファミリーの多くが命を落とした。それらは全てリッドの言った通りなんだ。
そしてリッドは、よくある冒険者組合の悪党退治の仕事とも言っていた。そして簡単な仕事だったと聞いたと言っていた。つまり、一連のことは事実なんだ。
もっと言えば、参加していないリッドにその情報を伝えた奴だっている。何者かはわからないが、少なくともこの出来事のあらましを知っている者。
おかしい。どこかが間違いであったとしても、一切の情報が無いということはありえない。
俺が頭を悩ませていると、目の前の女が心配したように顔を覗いてくる。
「あの、多分大物や無期限の賞金首なら掲示板の手前にありますので、そちらで確認してはいかがでしょうか」
そうして彼女はあの羊皮紙の貼りつけられた壁に手を向けた。
考えても答えは出ないので、俺はゆっくりとその方向へと歩いていった。
コルクのような材質の壁に、所狭しと羊皮紙が貼り付けられている。変な生き物の絵が描いてある羊皮紙が中央に見えたので、少し戻って壁を見る。
そこには俺とはセンスが合わない似顔絵が描かれた羊皮紙が沢山あった。
流すように視線を動かして、一枚の羊皮紙に視線を奪われる。そこには不細工な鳥みてえな顔をした似顔絵と、流石の俺でも読める字が上に書いてあった。
「デッドオアアライブ、ディエゴ・・・ファミリー。・・・ディエゴ。アニキ・・・」
大きな羊皮紙の中央にはアニキの顔。とんだ不細工だ。ガキにでも描かせたらしい。
そしてその下には、小さい似顔絵がいくつかと、名前が書かれていた。
左にゃシェイナの姐さんだ。赤い色で描かれた長い髪が印象的だ。右にゃ多分ライオネルのジジイ。流石自称政治犯だ。ちょっと多めに髪を描いてもらってるぜ。良かったな。
そして真ん中にゃ、ナンバー2ってだけ書かれた黒髪の目つきの悪い男が描かれていた。名前までは割れてなかったか。まあ、俺の仕事はだいたい今と同じだったからな。どっかの誰かになって、どっかの誰かを騙すって仕事だ。
しかし、腑に落ちない。
「なんで壊滅した俺たちの手配書がここにあんだよ・・・」
俺は壁からその羊皮紙を破り取った。
冒険者組合が仕事を出して、冒険者共が殺したんじゃねえのかよ。それなら、こんなとこに手配書があるはずがないんだよ。
俺はその羊皮紙を見つめる。
「へへ、アニキ。アンタ金貨百枚だってよ。すげえな。城が建てれるぜ。姐さんは二十枚か、お、ジジイ三十枚じゃねえか。俺は、やったね。姐さんと一緒だ」
自分を落ちつかせるように、俺たちにかけられていた賞金の額を呟いた。
そのお陰か、少しだけ頭が冷静になる。おかしい。こんな莫大な額を賭けられている盗賊団が、ほとんどくたばっちまったんだぞ。冒険者ならすぐに名乗りを上げるはず。そして組合でさえ放置しねえはずだ。
俺は羊皮紙を握りしめて彼女の元へと戻っていった。大丈夫。いたって冷静だ。
こういう時こそ冷静になれって教えられたんだ。わけのわかんねえ時ほど、冷静に頭を使えって。
教えられたことを確認するように俺は不細工なアニキの顔を見る。全く、俺と同じくらいアニキは色男だってのによ。そして俺のこの目の描き方だって気に食わねえ。見つめるだけで女が惚れちまうような目に描きやがれってんだ。
よし、調子が戻ってきた。ならあの女に何を聞けばいい?やはり最も重要なことは、悪党退治の仕事があったかどうかだ。
悪党退治の仕事を誘われたが参加できなかった。いや、ダメだ。誰に誘われたか聞かれたら答えられない。
俺自身が誘われたということは伏せる。噂でいい。リッドは別の場所から来ていたはず。そこで聞いた話だがと切り出せばいい。
そしてまた彼女の元へとやってきた俺は、羊皮紙を提示した。
「聞きてえんだが、この賞金はまだ有効なのか?」
「はい。そうですが」
「さっきの話に戻るんだが、前居たところでアッカーコルン周辺で悪党退治の仕事があったって聞いたんだ。悪党同士で潰し合わせて、最後に冒険者で掃討するって手でな。その悪党の中にディエゴファミリーも居たらしいんだ。簡単な仕事だったって自慢されたんだが、俺はホラ吹かれちまったのかな?」
「聞いたことがありませんね。ディエゴファミリーほどの賞金首が討伐されたとなると、すぐに報告がされると思うのですが・・・。一応調べてみるので、少々お待ちいただけますか?」
「すまねえな」
そうして彼女は奥へと消えていく。多分、彼女の考えは正しい。そして、調べてもそれは覆らないだろう。
つまり、あの襲撃を計画したのは、冒険者組合ではなかったということだ。
良かったよ、お互いに。
冒険者ってのは好きじゃなかったが、これで反吐が出るくらい大嫌いから大嫌いくらいに戻ったよ。
そして、もしもここで彼女が肯定していたら、この中に居る冒険者を何人かぶっ殺しちまうところだった。




