4話7
「ねえ、いつハンドラーは拾ってたんだい?」
「わからない。多分、オレたちと、ハンドラーが会う前?」
道中、後ろの三人は暇を持て余しているようで、俺の盗みについて話していた。
わかるわけがない。手品師だってどこから見られていてもコインを消すんだ。俺なら真正面からでもコインを奪い取れる。
「それよりもさ、弟だって。オレのことかな?」
「リーチが弟だと、ハンドラー疲れる。多分オレ」
「んなわけねえだろクソ犬」
「リーチ、噛むよ」
「はいはい喧嘩はやめなさいな。でもさ、アニキってのが居たらハンドラーみたいなのを言うんだろうね。おっかないけど、なんだかんだわがまま聞いてくれるような」
「・・・かもな、あ、カーラも一番上なのか?」
「そうさ。下に妹二人と弟がいる」
「二人とも、羨ましい。オレ、兄弟、オレだけだった」
「じゃあガバル、オレがアニキになってやるよ。兄ちゃんって呼んでいいぜ」
「リーチは末っ子。手がかかる」
「んだとゴラァ!」
「やめなさいって」
後ろがうるさい。俺はゴールドランクの冒険者だというのに、何故多分シルバーランクだろうこの男に気を使わねばならんのだ。
「すまねえ。図体のわりにまだガキなんだ」
「フフ、いいと思うよ。この子たちくらいの若い子が元気な姿を見せてくれるだけで、冒険者をやっていて良かったと思える。あ、そろそろだよ」
そうしてしばらく歩くと、それは大きな建物が見えてきた。訓練学校ほどじゃないにしろ、盗みに入るにゃ俺だって物怖じしちまうような大きな建物だ。
「じゃあボクはこれで」
「すまねえな」
そうして俺は案内をしてくれた男と別れを告げる。
大通りの方に消えていく男を見送って、俺たちはその建物の中へと入っていった。
両開きの木の扉を押して中に入ると、猛烈な熱気のようなものを感じた。
焼けた石のような熱。それが中に居る人間が発しているものだと理解するのに時間はいらなかった。別に怒号が飛び交っているわけではないし、喧嘩が起こっているわけではない。そして、むさくるしい男ばかりというわけでもなかった。視線を泳がせば、俺好みの大人の女だって目に入ったさ。だというのに、ぴりついた刃物みてえな気配が飛んできやがる。
無理もねえ。新米100人が1人生き残れるかどうかって世界だ。ここにいる奴らは、ほとんどが、その1人側ってことだろうから。
左手には小汚ぇテーブルがいくつもある。何人もがそれを囲い、日が出ているというのに樽のような入れ物で酒を飲んでやがる。
右手には壁。だが、その壁にはいくつも羊皮紙が貼り付けられていて、何人もの人間がそれを腕組みして吟味している。
奥には高級な酒場のようなカウンターがある。遠目でわかるくらいに美人な女が、ゴツイ男たちを相手どっていた。
「これが、冒険者組合・・・」
,
俺の気持ちを代弁してくれたのはガバルであった。
後ろを振り向けば、尾を股ぐらに巻き込んだガバルの姿があった。耳までへたれ込んで、さっきまで匂いだなんだと言っていたのが嘘のようであった。
リーチとカーラも横で萎縮しちまってる。ヴォルターのおっさんみてえなデカい男が右にも左にもいるんだ。無理もない。
俺だって、少々手が震えちまってる。仕方ねえだろ?盗賊団のナンバー2が、悪党退治だって請け負う冒険者共の巣窟に入ってんだ。今の俺は狼の群れの中に迷い込んじまった子羊ちゃんよ。
ただ、今の俺にゃ狼の毛皮がある。それは懐に入った金色の首飾りよ。
俺は懐に手を入れ、しっかりと存在を確認した。大丈夫。すぐにリッドになり切れる。
「お前らはここで待ってろ。いいか?絶対問題は起こすなよ?」
「ハンドラー、待って、オレたち、置いていくの」
狼の群れの前に子羊たちを、いや黒い子犬たちを置いて俺は真っすぐ前に進む。俺だって自分のことで精一杯なんだよ。待て、くらいはできるだろ。
目指すは美人の姉ちゃんが待ってるカウンターだ。周りを観察するに、あそこがここの窓口だ。
あの美人の姉ちゃんに話しかけた他の奴らは、金を受け取ったり、右手の羊皮紙の並んだ壁に向かってる。間違いない。
窓口だろう場所にたどり着き、俺は立ち止まる。目の前にはカウンター越しに美しい女が待っていた。
紅蓮の双眸、彼女の瞳を見たらルビーだって茶色に見える。髪は珍しい濃紺。深い海の底みたいだ。
「セイレーンの歌声に耳を傾ければ、君に溺れることができるかな?」
「え、な、なんですか?」
しくじった。あまりにも良い女なもんで、自分が子羊ちゃんなことをさっぱり忘れていた。そうだ、俺はリッドになりきる小悪党だった。
窓口の女も突然過ぎて困っている。俺は慌てて懐から証を取り出して彼女に見せてやる。
鍛冶屋のおっさんだって俺の名前を知っていたんだ。冒険者組合の人間なら、必ず知ってるはず。
「冗談だ。本当はこれ」
「あ、ああ証ですね。ゴールドランクの、リッドさんで・・・。む、ゴールドランクのリッド・・・様!?」
「静かに」
やっぱりだ。彼女は証に彫られている文字を見て見る間に表情を変化させた。今にも大声を上げそうな彼女を見て、俺は人差し指を自分の唇に添える。
とても口惜しいよ。ここがベッドの上なら君を黙らせる方法はたくさんあるのに。
「あ!は、はい。承っております。訓練学校の件でいらしたのですね」




