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4話6


 「頼むよハンドラー、連れてっておくれよ」


 続いてカーラも懇願する。

 なんて顔してやがるんだ。いつもの勝気な小娘はどこへ行った。親に怒られるガキみてえにしおらしい表情だ。

 冒険者組合を見に行きたいだなんて、そんなもんはひとまず一年生き残ってから考えればいいっていうのに。

 俺は面倒になって、また手のひらをガキ共の前に差し出した。


 「じゃあ案内料だ。一枚な」


 これでまた悪態ついて、今度こそは諦めてくれるだろう。そう思っていた。

 しかし、俺の予想は外れちまう。三人は互いの顔を見合って、一度何か決心したように頷くと、懐から銀貨をまさぐって俺の手の平に置こうとしたのだ。

 俺は慌てて手を引っ込めた。さっきと同じで冗談だ。流石にガキから金奪っちまったら、アニキに怒られちまう。

 俺はばつが悪いもんで、引っ込めた手でそのまま頭をかきむしったよ。


 「だー、わかったよ。ついてきていい。だがその代わりさっきみたいに騒いだりは無しだ。わかったな?」


 「おお!やった!」


 「ハンドラー、意外と優しい」


 「ありがとうねハンドラー、小遣い減らなくてすんだよ」


 やっぱり撤回しようかな。と内心後悔していた。しかし、それよりも強い困惑が頭の中を支配していた。本当に、どうしちまったんだろうな。

 ガキ共が互いに笑顔になってるのを見て、どこかで昔を重ねてんのかもしれねえ。

 アニキが俺のことを引っ張ってくれてたこと、そしてアニキが居ねえ時は俺がファミリーの面倒を見ていたこと、これでもナンバー2だったからな。

 そんなのと重ねてしまってるのか。そんなことは、無いはず・・・。そう思いたい。

 俺は頭の中の靄(もや)を振り払うように頭を振った。今は冒険者組合に行くことだけを考えよう。


 「あとはお前ら、俺のことをハンドラーだとかドラゴンがどうとか、訓練学校がなんだとか言うなよ?また変に反応されたら面倒だ」


 そう言って俺は釘を刺しておいた。が、三人は気の抜けるような返事をしてついてきていた。本当にわかったのだろうか。心配だ。

 そして俺はひとまず大通りを中央に向かって歩を進める。周囲には未だ外からの客を相手にする店は並んでいるが、とくに目ぼしい建物はない。

 当てが外れたのだろうか。しかし、石畳の上を歩く者の中には、兵士でもないのに武器を持った奴らがそこそこ紛れている。装備も統一されたものではなく、金属などよりも動きやすい革や軽装の者が多い。

 槍、大槌、弓もいる。盾も形が様々だ。冒険者に違いないだろう。


 ただ、こんな都市の中で、これほど武装した奴らが当たり前に何人も歩き回ってるのに誰も何とも思わないのかね。

 例えば悪党共が冒険者のフリして都市の中まで入り込んで、内側から一斉に蜂起したらどうするつもりなんだろうか。

 ふとそう考えて、一つの仮説が思い浮かんで自己解決した。

 そのための証(ドックタグ)ってことでもあるのか、と。武器の所持を認められ、それでいて私は悪党ではありませんよって証明ってことだ。

 なるほどね。


 「なー。まだつかねえのか?」


 「ハンドラー、もしかして、場所知らない?」


 「そういえばハンドラー、外の人間じゃないかい」


 少々冒険者組合を見つけるのにもたついていたため、後ろの三人が飽きてきはじめる。

 

 「・・・お前らは知ってんのか?」


 「いやオレはずっと孤児院でいたし」


 「アタシもただの町娘だよ。花屋とパン屋くらいしか知らないさ」


 「オレも、外から来たし、知らない」


 冒険者目指してるならそれくらい知っておけよとため息を吐く。

 仕方ない、俺は周囲を見回し、冒険者のような人間を探した。

 少し見るだけで何人も目に入る。しかしそのほとんどが数人で動いていた。冒険者ってのは寂しがり屋らしい。

 そして一人ぼっちの寂しい奴を何人か観察する。その中から、他の人間と距離を置いて歩いてる奴は除外する。多分手練れだ。俺ほどじゃないにしろ、道行く人間との接触を嫌ってるのは警戒している証拠。俺はわざわざ難易度を上げて盗みを働くマゾじゃない。

 小綺麗な奴も除外だ。金は持ってそうだが、服が汚れてないのは疲れていないってこと。注意力が削れていない。

 視線があまり動いていない奴もダメ。何か目的があって真っ直ぐ歩いている奴は地理を把握している。地理が分かっている奴は歩く時に他のことに注意を向ける余裕ができる。

 

 なら、と俺は一人の男に視線を向けた。何の生地かわからねえマントを羽織った男だ。全体的に軽く汚れていて、さっきから他の通行人とぶち当たっては謝っている。気も弱そうだ。そしてかなり若い。いいね。こいつにしよう。

 俺はその男にゆっくりと近づいた。

 マントの端からは、短剣がチラリと顔を覗かせている。それを覆いかぶすマントが、少しだけ盛り上がっていた。

 馬鹿だねえ。ぽっけの穴が外についてるなんて。

 ぴたりと左側についた俺は、男の歩調に合わせて歩き、足音を消す。

 そして的を絞り、呼吸を整え右手に意識を集中させた。

 

 【羽根が触れるかのように/フェザータッチ】


 俺の右手は穴に入る蛇のようにマントの中に消え、獲物に噛みついて戻ってくる。

 蛇の口を開けると、そこには銀貨二枚と、銀色の卵みてえな板をつけた首飾りが入っていた。

 その後、俺はあえて間を開けた。すぐに声をかけちゃ俺が疑われちまうからな。

 しばらく男についていき、少しずつ声を大きくしながら、わざとらしく追いかけてきたフリをする。


 「おーい、おーいニイサン」


 「ん?な、なに?」


 「おお、やっと気づいた。落としてたぜ、ニイサンのじゃないのかい?」


 振り向いた男に、俺は首飾りと銀貨一枚を見せてやる。もう一枚の銀貨は落とし物を届けてやった礼として受け取っておくよ。俺は優しいからな。

 男は俺の手の平をみると、慌てて自分の体をまさぐり始めた。いくら探してもあるわけねえよ。今俺がとったんだから。


 「ち、ちょっと失礼。うっ、ボクのだ。うわああ、ありがとう」


 男は俺の手から首飾りを取ると、多分刻まれた名前を確認したのだろう。自分の名前があることに驚き、そして安堵していた。

 そしておかしなことに、男は俺の手から銀貨を取らなかった。


 「ニイサン、この銀貨もニイサンのもんじゃねえのか?一緒に落ちてたんだ」


 「ああ、それはお礼にあげるよ。再発行すると思ったら安いもんだよ」


 そうして男は首飾りを元あった場所へとしまいこむ。

 聞き捨てならないのは再発行のこと。まさか再発行すると代金がかかるのか?

 俺のも再発行したとか言っていた。それもヴォルターのおっさんが立て替えてくれていたのだろうか。

 しかしこの男にゃ悪いな。もう既に礼は貰っちまってるからな。

 元々落とし物を届けてやる代わりに冒険者組合に案内させてもらおうかと思ってたんだが、案内料ってことで返してやろう。

 俺は自分の懐から、リッドの証(ドックタグ)を取り出した。もちろん取り出す際には、指の腹で証(ドックタグ)の滑らかな面を探ったうえで、この男に名前がバレないように見せた。


 「じゃあ案内料だ。実は最近こっちに戻ってきたばっかりで冒険者組合の場所が分からなくてね。この銀貨返すから、組合まで案内してくれるかい?」


 「え、ええっ、君も冒険者だったのかい?しかもゴールドランク、ボクより上じゃないか」


 「いやあ最近ゴールドランクってことになったんだよ。だから気にしないでくれ」


 そうやって俺は笑顔で銀貨を渡してやった。本当のことさ。冒険者ってのになったのも最近なんだがな。

 

 「ふふ、そうかい。じゃあついてきて。ボクは用事があるから、組合の前までだけど」


 「すまないね。恩に着るよ」


 「いやいやこれくらい、気にしないで。それと・・・、後ろの子たちは知り合いかい?」


 「ああ、あのガキ・・・、いやあいつらは、そう俺の弟とそのツレなんだ。久しぶりに戻ってきたら舞い上がっちまってね。どこにでも着いて来やがるんだ」


 「ハハハ、好かれてるんだね」


 そうして男に先導され、俺たちは冒険者組合へと向かったのであった。

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