4話5
俺は眉間に皺を寄せてガキ共にそう問いかけた。
「たまたまだよ。たまたま。なっ?」
「うん。たまたま。武器見たかった」
「そうさね」
ガキ共はそう言って知らん顔をして、下手くそな嘘をついた。リーチは明後日の方向を向いて音の外れた口笛を吹いてるし、カーラも視線が泳いでいる。ガバルにいたっては尾っぽを振り回してるじゃないか。
休日まで子守りをするつもりはないぞ俺は。
「ここ出たらもうついてくんじゃねえぞ、お前ら」
「おう」
リーチはそう言ってるが、顔がにやけている。
そうして店の中で問答を繰り返していると、声を聞きつけたのか一人の男が奥から現れた。
それは体格の良い禿げたおっさんだった。革で出来た分厚い前掛けに、それまた分厚い手袋。腕は露わになっているが、丸太みたいに太く、いくつもの火傷のような跡があった。
こいつが店主だろう。
「なんだあ?兄弟連れて玩具でも探しに来たかあ?ウチにはガキが欲しいもんはねえぞお?」
店主だろうおっさんは、野太い声で悪態をついた。まるで熊の唸り声だ。ヴォルターのおっさんといい勝負をしている。獅子と熊だったらどっちが強いんだろうね。
「いや、知らねえガキだ。俺とは関係ねえ」
虫の居所も悪いし、俺はガキ共に目もくれずに店主に弁明する。
「なん!?おっちゃん!オレたち冒険者訓練学校の訓練生なんだ!そんでこの人オレたちのハンドラーなんだよ!」
「この前、ドラゴン撃退した、ハンドラー」
「全く、酷い人だよ!」
ガキ共が俺の後ろでうるさく騒ぎ立てる。やめてくれよ。この熊が余計に機嫌悪くなっちまったらどうするんだ。
冬眠を邪魔された熊みてえに怒っちまう。
しかし、俺の心配をよそに、熊は驚いた顔をしたかと思うと、急激にその表情を柔らかく変化させた。
怒り狂った雄熊から、子熊のように。
「なんだと、お前が、いやアンタが・・・」
「ど、どうしたんだ」
「どうしたもこうしたも、この辺りじゃアンタの噂で持ち切りだ。救国の英雄だって」
「なんだって?」
「当たり前だ。ドラゴンだぞ。ホールドの方に来ていたらと思うと未だに震えちまう。そんでオレの・・・、オレの上の息子は兵士やってんだ・・・。墓にゃ一番近かったんだ・・・、まだ嫁さんも貰ってねえ・・・。本当にアンタが居てくれたから・・・」
そうして子熊は震えながら、俺の両手を奪って深く頭を下げた。
悪い気はしねえが、俺の手柄ってわけじゃねえ。リッドが消耗させ、そしてドラゴンがたまたま逃げちまっただけだ。俺は少々の居心地の悪さを感じていた。後ろで自分の手柄のように偉そうな顔しているガキ共にも。
「顔上げてくれよ。ドラゴンが勝手に逃げちまっただけだ」
「本当に、英雄なんだなアンタは。すまねえ、汚ねえもん見せちまった。で、今日は何をお求めだい?坊ちゃんたちに武器を見繕えばいいのかい?」
そうして子熊は前脚で瞳を擦ると、すぐに元の熊のような様相に変化した。だが、襲い掛かってくる心配はないようだ。
「えっ!?じゃあオレあの剣!」
「オレは、その横のがいい」
「アタシゃやっぱりあのデカい斧にしようかね」
額に血管が浮き出てくるのが自分で分かった。
俺はまたガキ共を無視しながら、自分の要望を伝えることにする。
「いや、すまねえが武器が欲しいんじゃねえんだ。これくらいの、細くて丈夫な長い釘が二本ほど欲しい。片方は頭を薄く広くなるように潰してくれ、もう片方は先端を直角に曲げてほしいんだ」
そうして俺は片手を開けて、大きさを指示しながら注文した。
それを聞くと、熊は天井を見上げる。多分完成した姿を想像しているのだろう。
「んん?頭を広げて、直角に曲げて・・・。まあちょっと待っててくれ、窓枠用に長い鋼の釘があったはずだ」
そして熊は店の奥へと消えていった。しばらくすると、鉄の弾けるような音が数回店の中に響く。
その後音が鳴りやんだかと思うと、また奥から熊が現れる。
「こんなもんでいいかい?」
俺の目の前まで来ると、熊はその大きな手を開けた。手のひらの上には、開ききったキノコみてえに頭が薄く広がった釘と、先がひん曲がった釘がある。
俺はそれを手に取り、軽く指で折り曲げてみようと力を入れる。釘は微動だにしない。開いた頭も薄いのに頑丈だ。
いいね。注文通りだ。
「完璧だよ。いくらだ?」
俺は二本の釘を懐にしまい込むと、熊にそう問いかける。
しかし、熊はしかめっ面を見せてきた。
「バカ言っちゃいけねえ。釘二本で、しかも英雄に金を貰ったってなったらホールドを出て行かなきゃならねえ」
「良いのか?」
「当たり前だ。その代わり、武器が欲しいって時はウチに絶対来てくれ。ガキの小遣いで買えるくらい安くしとくよ」
「ははは、頼むよ」
そうして俺は店を後にする。
ガキの小遣いで、って聞いていた三人が懐から金を出そうとしていたので、一緒に引っ張りだしてきた。
「ちぇー。剣欲しかったよな」
「うん」
「まあ目星はついたし次にしとこうじゃないのさ」
悪態ついてるガキ共をしり目に、俺はいよいよ冒険者組合ってのを探すために歩き出した。
しかし、俺の歩調と合わせてぴったりと三つの足音がついてくる。
「どこ行くんだろうな」
「それもそう、だけど、さっきの釘も気になる」
「耳かきにしちゃあ物騒だね」
挙句にゃ後ろで平然と話まで始めやがった。
まあ尾行されてりゃ黙ってても気づくが、開き直るその態度が気に入らない。
これ以上眉をひん曲げてたら皺の跡がついちまう。せっかくの色男が台無しじゃないか。ため息をつきながら俺は振り向いた。
「ついてくるんじゃねえって言っただろう?」
「そ、そんな顔しないでってば。だって気になるじゃんかよ。ハンドラーがどこ行くのか」
リーチがそう言うと、後の二人も頷いた。
「こっちは忙しいんだ」
「じゃあどこ行くのか教えてくれよ」
答えていいものか。まあ、何の用があるかまで言うわけではない。
それよりもこいつらに構って時間が無駄にすぎる方が勿体ないな。
「・・・冒険者組合だよ」
「冒険者組合!?」
「ああ、だからお前らとはここで解散。わかったな?」
そう言い残して俺は背を向けた。だが、
「ハンドラー!オレたちも連れてってくれ!」
リーチが俺を呼び止める。予想はできていたことだ。しかし、さっきまで勝手についてきていたというのに、今更なんで行儀よく頼み込んできてんだ。
「なんで冒険者組合にそんなについて来たいんだよ」
「オレたち、冒険者になる。どんなところか、気になる。空気、匂い、感じたい」
ガバルがそう言う。あいも変わらず無愛想な面はしているが、目つきだけは一丁前であった。尾はピンと伸び切り、興奮か警戒かはたまた期待のようなものを表現していた。




