4話4
「あとは、だ。冒険者組合には話が通っているから、もし訓練として組合の仕事を受けたい場合は証を提示してくれ。君に限って心配はないだろうが、もちろん危険が無く、簡単な低難易度の依頼や仕事だぞ?」
そうヴォルターは話した。
なるほど、俺がこの身分証を紛失していたと思ったために伝えるのが今になったわけか。
いいね。俺は内心笑いがこみ上げてきた。もちろん表には出さないさ。
これはリッドである身分証。つまりは、俺はこれで名実ともにリッドになっちまったわけだ。
この訓練学校の中だけではない。冒険者組合っていう、組織の中でも俺はリッドとして振舞える。
リッド自身も言っていた。
『よくある悪党退治の仕事』
つまりは冒険者は頻繁に悪党を相手取る仕事を請け負っているということ。ファミリーを壊滅に追い込んだのは冒険者ども。そして俺は、身分証も持っている冒険者リッド。
これで誰にも怪しまれることなく、情報を探すことができるようになったわけだ。
しかも、最短の道のりでな。
「危険が無い・・・ね。逃がしたドラゴンの討伐が無いか探してくるよ」
「ハハハ、私の方でも探しておこう」
そうして、金と証を懐にしまいこんだ俺は、ヴォルターの部屋を後にする。
部屋から出る前に、またヴォルターに握手を求められた。あまり男の肌に触れるのは趣味じゃないんだが、仕方なく前脚を上手く使う練習に付き合ってやったよ。
その後俺は自室に戻ることもなく、訓練学校をすぐさま出て行った。もちろんそれは、冒険者組合とやらに向かうためだ。
ただ一つ問題がある。場所を聞いていない。全くこの辺りの奴らはいつも大切なことを伝えるのを怠りやがる。リッドの野郎は冒険者には証があることを伝えなかったし、俺は字がほとんど読めないというのに文書で本の返却の催促をする。適切な情報の共有は仕事で最優先されるべきことだぞ。
まあ、どうにかなるだろう。少しばかり面倒くさがりな脳みそを使えば済む話だ。
冒険者組合・・・。つまりは冒険者共が集まる場所。仕事の受注や報告も恐らくそこでするはずだ。なら、都市の中央部よりも玄関口付近の方が何かと都合が良い。人や店も多いだろうから、物資を用意するのにもその日の宿にも困らないはず。そして情報にも。
グリムヴァルドホールドならば、東の正門付近だ。
後は、仮に俺が本当にリッドだったとしても、冒険者組合というものの場所を教えないのも引っかかる。リッドもグリムヴァルドホールドの人間ではないはずだからだ。つまるところ冒険者組合というのは、都市によって構える場所に大きな違いがない、もしくは冒険者であれば傍から見ても一目でわかる様相をしているか、そのどちらかということだろう。
俺は軽くそう予想を立てて、しばらくぶりの東の正門へと足を運んだ。
「はあ・・・」
デカい門の近くまで来た俺は一つ大きなため息を漏らす。それは門の警備が厳重だったからではない。むしろ門は巨人があくびしてるみてえにデカい口をずっと空けてるよ。
ファミリーの仇の情報を探せると思って心躍らせていた俺の気持ちを無情にも蹴飛ばしたのは、
「あ!ハンドラーじゃん!」
うちのクソガキであった。
そこには三人のガキが居た。頭の悪そうなガキと、黒い犬と、小娘。
リーチとガバルとカーラであった。ガキは基本寮で過ごすんじゃなかったのか。
面倒な奴らに見つかってしまった。俺を見てリーチが声を上げ、それに釣られて二人がこちらを見る。
そうして来なくていいのに三人ともアホ面下げて俺の方に寄ってくる。
「ハンドラーも買い物かい?」
カーラがそう問いかける。
「も?」
「給金が出たんだろう?」
「そうだが、まさかお前らも貰ってんのか?」
そう俺が質問を返すと、三人とも今までに見せたことがないくらい鬱陶しい笑顔をした。
余程懐は温かいらしい。まさか死ぬ訓練をして金まで貰えるとは。そりゃガキ共が集まるわけだ。
そうなると、こいつらには興味はねえが、こいつらがどれだけ貰っているのかは気になるな。俺ほどじゃないにしろ、半分でも貰ってたら大金だ。ガキに持たせるにゃ心配な額だ。
俺が預かってやらないといけないかもしれない。
「お前らいくら貰ってんだ?」
俺はそう問いかけた。
「銀貨三枚だぜ」
自慢げに話したのはリーチであった。銀貨三枚だと?大金じゃないか。
全く、貴族共は何考えてんだ。いや、集めたガキ共が離れないようにするためか・・・。死ぬまで訓練学校に縛り付けるための方法だな。寝床に飯、金も貰えるとなれば訓練を厳しくしても大丈夫というわけか。
「そうか。じゃあ一枚でいいぞ」
そうして俺は手を出す。
三人はアホ面で俺の手と顔を交互に見た。
「な、なんの一枚って言うんだい?」
「ほら、お前ら訓練してやってんだから」
そう言うと、三人は驚いて口を大きく開ける。ガバルはまあそこまでデカい口ではなかったが。
「これは、オレたちが貰った。お金」
「訓練生から金取ろうってのかい!?」
「ハンドラーも金貰ってんだろ!」
三人は口々に反論してきた。うるさいガキ共だ。
「うるせえな。まあいい。じゃっ」
そうして俺は早々に踵を返す。俺は忙しいんだ。ガキ共に構ってる暇はない。
「お、おう」
デカい口を開けた門の近くには、何人もの衛兵が構えている。周囲には馬屋、露店も出ている。外からやってきた奴らを相手にした店だろう。
門に沿って櫓やはしご、足場が作られており、その上を衛兵が巡回している。防備は万全だ。そしてそいつらは門を通る人間を親の仇かってくらい睨んでいる。
門からは綺麗な石畳の道が伸びている。それを挟むように両脇には店が並んでいる。
俺は石畳に沿って都市の中央側に向かい歩を進める。
「買い物じゃあないようだね」
「ハンドラー、お金あまり、貰ってない?」
「オレらで銀貨三枚だろ?金貨一枚くらい貰ってんじゃね?」
周囲に目を向けると、宿屋に酒場に鍛冶屋、門付近はまだ外の客を相手取る店が多い。これが雑貨や食料品を扱う店になってくる前に冒険者組合というのはあるだろう。
鍛冶屋か、金もあるし寄ってもいいかもしれない。いざって時のために道具は持っておかないと。
俺は金槌と金床を象った看板を掲げる店へと入っていった。
「少し熱いし暗いね」
一緒に入ってきたカーラが呟く。そりゃそうだ。店の中には炉があるだろうし、熱した鉄の温度を見るために蝋燭やたいまつの類いは一切ないはず。鍛冶屋ってのはだいたいそうだ。
・・・カーラ?
そう思って振り向くと、店の壁に並べられた武器を興味深く観察するガキ共がいた。
「オレはやっぱり剣かなあ」
「オレも、剣。使いやすいのが、良い」
「アタシゃこのデカいトンカチみたいなのがいいね。ゴブリンの頭もかち割れそうだ」
玩具を選ぶようにガキ共が見回している。
「じゃっ、って言っただろうが。じゃっ、て。なんでついてきてんだよ」




