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断章 守護星座で占いをしよう2


 そうしてミリアはカーラの前に開かれた本へと視線を落とした。


 「カーラの守護星座はなに?」


 「アタシゃ騎士だよ」


 カーラの言葉を聞いたミリアは、指で本をなぞると黄ばんだ羊皮紙のページを数枚めくった。様々な匂いの入り混じった香ばしい空気が、揺らぐページに仰がれ漂ってくる。本の前に顔を置いていたフウは、まともにその空気を嗅いだのだろう。んにゃ、と小さく鳴くと、顔をしかめて目を閉じた。でも、また無表情に戻ったかと思うと、もう一度そのかぐわしい香りを自ら嗅ぎにいっていた。そしてまた、んにゃ、と小さく鳴く。


 「騎士・・・。戦士ユークリッドに付き従った忠義の騎士、エウクレイデスの守護星座。司るのは献身、守護、忠誠、信念など・・・。えーと、騎士の守護を受けるあなたは理想や目標に忠実に行動ができる人です。強い目的意識は長期間の努力に繋がり、研鑽と成功を約束します。恋愛については・・・あ、あった。能動的というよりも受動的な騎士の守護を受けるあなたは、恋愛下手。関係を変化させることがとても苦手です。相手も奥手であったらその恋はなかなか実らないでしょう。そして、恋が成就したとしても、あなたの強く重い忠誠心は相手にとって枷になることもしばしば、相手を困らせることもあるでしょう・・・。相手を困らせることもあるでしょう!」


 「二回も言わないでおくれよ。ミリア、あんたさっきと言い結構なサディストなのかい?」


 カーラには失礼かもしれないが、わざとらしく声を大きくしたミリアに私も少し表情が緩んでしまった。

 ミリアはいたずらな笑みを浮かべてカーラを見ていた。距離が縮まると、人は意外な顔を見せてくれる。お嬢様のようなミリアも、年頃の女性のようだ。

 しかし、ミリアの読んだ内容というのはとても的を射ているように思えた。確かにカーラはトゥーモを前にすると大人しくなってしまうし、カーラから何かを求めるということはしないように思える。

 たかだか守護星座一つでそこまで合っているというのであれば、もしかしたら戦士の守護を受けたものは力強く、盗賊の守護を受けたものは俊敏で、魔術師の守護を受けたものは魔法に長けるといった昔の言い伝えというもの、あながち間違いではないのだろうか?


 「あ、でも、もし家庭を持てばその献身と家族を守ろうとする想いで、きっと良き父良き母となるでしょう。って書いてる。カーラ肝っ玉母さんみたいだもんねー」


 ミリアは本について感心していた。そして私もフウも、良き母になりそうということに頷き顔を上下させる。

 一方カーラはというと。


 「か、母さん・・・。や、やだ」


 きっと幸せな家庭を想像したのだろう。頬を赤らめ俯いていた。


 「カーラ、スケベな顔してる。何考えてる?」


 「なっ、そんなこと考えてないよ!」


 「ハイハイ、じゃあ気になるトゥーモの守護星座はなんなの?」


 「もう・・・、道化師だったはずだよ」

 

 「道化師ねー・・・」


 そうしてミリアは本のページをなぞっていった。しばらく指が動くと、ぴたりと一点に止まる。


 「あった。んー、道化師の守護を受けるものとの相性は、普通です!」


 「普通・・・」


 ミリアがまたわざとらしく声を大きくすると、カーラは目に見えて表情を曇らせた。夕方になって太陽が徐々に明るさを失うように、カーラの赤い髪が彼女の顔に影を落としていく。

 それにはミリアも慌て、すぐさま本の続きを読み始めた。


 「ふ、普通でそんなに絶望しないの。ほら続きあるから。えー、道化師は二面性、自己犠牲、隠匿、孤独を司り、騎士の守護を受けたものは道化師の掴みどころの無さに困惑を覚えるでしょう。騎士の献身も、感情を表に出しにくい道化師には届いているかわかりづらいです。しかし、他者のために尽くせる二人は、恋仲となればきっと長く素晴らしい関係が続くことでしょう!だって!」


 「!?」


 見る間にカーラの表情は明るくなった。太陽がまた昇るように、いつものカーラが戻ってきた。


 「つまりはくっついちゃったらこっちのもんってことね。もう押し倒しちゃえば?」


 「な、なに言ってんのさ。アタシはそんな・・・」


 またカーラは小さくなってしまった。


 「あらら、あまりいじめちゃ可哀そうね。じゃあ、ピオニアはどうなの?」


 そうしてミリアが私の方を向いてきた。どう、というのは、どういうことなのだろう?

 

 「どういうこと?」


 「ほら、誰か良いなって思える人はいないの?」


 「良い人・・・」


 つまりは、カーラのように一緒になりたいと思う人ということか。

 私は教室の中を見回した。階段のように連なる机に、点々と級友たちがついている。初めに視界に入ったのは体の大きなジェットであった。

 猛々しい毛並みと、逞しい体つき、力も強いしきっと一緒になれば沢山の獲物を取ってきてくれるだろう。

 ただ、彼と私では種族も違う。そして彼だって、私のこの白い毛には忌避感を覚えるのではないだろうか。

 視線を動かすと、ガバルが見えた。彼とは同じ種族だが、彼だってきっと私の毛は嫌なはず。


 更に別の方向を見ると、レオンとリーチが談笑していた。レオンは知的で、とても美しい髪をしている。しかし、少し華奢だ。私なんかが人を評価していいわけはないが、レオンはあまり狩りが得意じゃなさそう。

 そして、リーチ・・・、彼の方を見た瞬間、以前訓練で足を運んだ孤児院でのことを思い出した。

 リーチは子供たちの世話が得意で、そして愛情深い人だ。体つきも良い。私は彼を見ながら、自然と一緒になるところを想像した。

 そして尾が震えるのを自分で感じた。彼はきっと良い父親になる。子供たちを大切にし、家族を守る者となるだろう。

 気づけば私は、


 「リーチ」


 と呟いていた。

 その瞬間、


 「え?」

 「げ」


 とカーラとミリアから驚きの声が上がっていた。

 その反応を見て、すぐに私は自分のおこがましさを悔いていた。皆も孤児院でのことを見ていたのだ。私なんかがリーチを選ぶ権利はない。カーラはトゥーモのことを好いているが、もしかしたらミリアもリーチのことを・・・。


 「す、すまない。私なんかが」


 「いやいやいやいや、冗談はよしなよ。リーチだよ?」


 何故か信じられないものを見たかのような表情で、カーラが聞いてくる。


 「え、ええ。リーチ」


 そう答えると、


 「ピオニアだめ!!自分を大切にして!リーチを選ぶくらいなら私がピオニアをもらいます!」


 そう言ってまたミリアが私の体毛に手櫛を絡ませてきた。

 二人の反応と、遠慮なく私の体をまさぐるミリアの両手に私は戸惑ってしまう。


 「ピオニア、獣人(ボクたち)にとってはリーチは良い男に見えるけど、多分二人には普通くらいなんだと思う」


 「ふ、フウもリーチのこと良いって思うのかい?」 


 恐る恐るカーラがフウに問いかけると、フウも黙ってこくりと頷いた。

 私は驚きを隠せなかった。リーチはとても魅力的なのに、二人にはそうでもないだなんて。そして、そんなことも意に介していないミリアの両手にも。人と獣人(われわれ)の感覚の違いにも。


 「あいつのどんなところが良いんだい?」


 「リーチは子育てが上手(じょうず)そう。獣人の男は子育てに関心があまりない。だから獣人(ぼくたち)には子育てが上手(じょうず)そうな男はとても魅力的に見える。あとは愛情と、そして匂い」


 「匂い?」


 「うん。獣人(ボクたち)は鼻が良くて、女はとくに鼻が良い。強そうな男の匂いには敏感」


 「匂いねえ・・・。リーチのねえ。じゃあ、他にも良い男の匂いしてるやつはいないのかい?」


 カーラがそう聞いてきた。その言葉に、私とフウの視線は交差した。

 それはきっと私たちの身近で、最も強烈な男の匂いを発する者が、お互いに浮かんだからだ。

 私もその男の名を出そうとしたが、ミリアの執拗な攻撃に私は喋ることができなかった。


 「ハンドラー」


 「ハンドラー?ま、まあドラゴン追っ払っちまうような人だし、Cクラスのハンドラーも一瞬でのしちまったけどさ。そんなになのかい?」


 カーラの問いかけに、少しだけフウは間をあけて答えた。


 「ハンドラーの匂いは強烈。強いとかじゃない、危険。ボクたちが若くて良かった。あと五歳大人だったら多分危ない。獣人の女には劇薬に近い雄の匂い」


 「へ、へー。ミリアわかる?」


 「いや全然。私はピオニアの匂いの方が好き」


 一瞬手を止めてくれたのに、今度はミリアは顔を私の体にうずめてきた。


 「ちょ、ああ」


 私がくすぐったくて我慢できなくなっていると、その直後に教室の扉が開く音がした。

 皆が止まり、その方向へと視線を向けると、粛々と教室に入るマネージャーの姿があった。


 「噂をすればってやつね」

 

 カーラが本を閉じ、手元から離した。ミリアも私から手を引き、何事もなかったかのようにすまして着席する。

 座学の時間が始まるのだ。解放された私も、皆から離れて席につこうとする。

 すると、カーラが私を引き留めた。


 「何どっか行こうとしてんのさ」


 振り向くと、並んで座って笑顔をこちらに向ける三人がいた。


 「一緒に座学受けよう?」


 私は、いつからか誰もが私のことを忌避していると思っていた。この白い毛のせいで、獣人だけではなく、人間さえも。だから、いつも皆から離れて座るのが習慣となっていた。

 ミリアが自分の隣を叩き、座るように促している。私はひたすらに目頭が熱くなるのを感じながら、ミリアの隣へと向かったのであった。

 


 

断章ピオにゃー編でした。読んでいただけてる方には、私の考える獣人の文化や価値観などが、主人公の独白だけの世界観説明ではお腹いっぱいになると思ったので考えた、ピオにゃー視点での断章です。その意図さえも後書きで説明する自分の拙さが恥ずかしい。

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