3話15
「困らせてはなりませんよ。ほら、なんて言えばいいのでしょう?」
俺が黙っていると、アリアが近づいてきて優しい笑顔で孤児のガキの頭を撫でた。神ってのは信じてねえが、聖母ってのは実在するんだな。俺の頭ですら邪なことを控えちまいそうな優しい顔だ。
「あ、あの、今日は楽しかった。ありがとうございございました」
「ああ、こちらこそ」
ダメだな。ガキに笑顔を向けられると調子が狂う。
「もう、戻られるのですね?」
アリアが俺にそう聞く。アリアだってガキと同じような気持ちになっちまってるようだ。ただ、惜しみげにはするが、引き留めるようなことはしないだろう。
「そうだな。今日は世話になった」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。寄付も頂き、リーチの顔も見せて頂き、子供たちまで見てもらって」
「気にしないでくれ。うちの訓練生もぶっ倒れるくらい楽しかったみたいだしよ」
「ありがとうございます」
アリアがまた深く頭を下げた。
「では皆さん。訓練学校へ戻りましょう。挨拶を」
そうマミアが言うと、うちのガキ共は各々礼を述べてこの場を後にしようとする。
そして訓練学校へと帰ろうと、背を向けた時であった。
「リーチ!」
後ろから、アリアの声がした。
振り返ると、こちらに駆け寄るアリアの姿があった。
アリアはリーチに向かって真っすぐ走り、そしてまた強く抱きしめた。
来た時とは違って、リーチは恥ずかしがるということも無く、黙ってアリアを受け止める。
そうか、俺が言ってやれって言ったからか・・・。本当になんであんなことを言っちまったんだろうな。もしかしたら、それは本当に万に一つくらいの可能性しかないが、帰る場所があるってことをリーチに教えてやってほしかったのかもしれない。
帰る場所も、待ってる人間も居ねえってのは寂しいからよ。
「リーチ、こんなことを言う私を許さないでください。あなたの決意を惑わすようなことを言う私を許さないでください。リーチ、私はいつでもあなたを待っています。いつでも帰ってきてください」
リーチは涙を流しながら訴えるアリアを、優しく、そしてゆっくりと引きはがした。
「ありがとうシスター、でもオレは帰らねえよ。オレは、冒険者になるんだ。きっと冒険者になって、たんまり金稼いで教会も建て直してやる。沢山飯も食わせてやる。それまで信じて待っててくれよ」
「うう、うう」
顔を手で覆い、嗚咽を漏らすアリア。
「心配すんなって、オレのハンドラーはドラゴンだって追っ払う冒険者なんだ。オレもすぐにそれくらいになってやる。だからよ、安心してくれよ。・・・おふくろ」
アリアは、リーチのその言葉を聞いて、ハッとしたしたかと思うと、顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流した。もちろんそれは落胆や絶望なんかじゃあない。俺みたいな二枚舌の奴なんかじゃねえ、リーチが自分のことを母親だと言ってくれたのだ、
俺だってそれくらいわかる。アリアがその一言でどれだけ救われたかなんて。
リーチのことだ。深い意味なんてねえ。ただ、そう思ったから、そう思っていたから出た言葉だろう。
そしてリーチは何も言わずにアリアに背を向け、こちらへと合流する。
カッコつけやがって。最後の最後に手前の泣いた顔見せたくないからってキザなガキだ。
そうして俺たちは孤児院を後にした。後ろからは「また来てね」と大声で叫ぶガキの声がいつまでも聞こえていた。
「アンタ、もうこれで絶対に冒険者にならないといけなくなったよ」
カーラが鼻水を垂らすリーチに話しかける。
「ふん、冒険者になる気が無くて冒険者訓練学校に入るか」
「・・・そうさね」
「うおおん。俺ラあ他人の涙に弱いんじゃあ。リーチ、お前はんという奴はあ」
リーチとカーラが話している横で、ドラ猫が虎みたいな唸り声を出して泣いていた。近所迷惑になるからやめてほしいものだ。
そして初めて屋外訓練とやらを行った俺たちは、冒険者訓練学校へと帰ってきた。これでガキ共も少しは多数を一度に相手をするってことの恐ろしさみたいなもんが分かっただろう。
剣の振り方も教えた。多数を相手にすることの恐ろしさってのも教えた。上出来だ。次は、俺のやりたいことをやらせてもらう。
作者です。三話が終わりました。なんとここまでで二話の予定でした。書くということの難しさと自分の計画性の無さを痛感しております。




