3話12
「買いかぶり過ぎだ。俺はそんな奴じゃない」
「そう仰るのであれば」
はぐらかそうとすると、マミアは隣でクスリとほほ笑んだ。勘違いしてくれるのは良かったが、つくづく侮れない女だ。マミアの前では言葉遣いを更に気を付けなければ。
そして俺たちは建物の外へと出てくる。
庭じゃガキ共が散らばって色々やっていた。
ガバルとジェットが代わる代わる孤児院のガキを肩車して暴れている。ジェットの頭の上じゃ少々高すぎるのか、ガキは悲鳴か何かわからない声で叫んでいる。ガバルは案外ガキと遊ぶのは好きなようだ。いつもの無表情のまま、尾を振り回していた。
花壇の方じゃピオニアと、金髪の・・・あれはミリアか、孤児院のガキと座っていた。孤児院のガキが気持ちよさそうにピオニアの白い尾を触っているが、ピオニアはそれを優しそうな表情で見ていた。ミリアもそれを見守っている。
少し離れてトゥーモが孤児院のガキを膝の上に乗せて何か話していて、それを隣でカーラが見ていた。カーラの表情が何やら恐ろしい。物欲しそうな顔、まさか自分がトゥーモの膝の上に座りたいのか。いや・・・、ありゃ違う。まさかガキ共の寮部屋ってのは男女共同じゃないよな?トゥーモ、今日は扉につっかえ棒をやっとけよ。
庭の端じゃネコのような小娘、ありゃ確かフウってやつだ。黒い鞭のような尾をゆったりと動かし、孤児院のガキがネコのようにそれを掴もうとしている。逆だ。
そしてエイケとリオが座って孤児院のガキと何か話している。だいたいガキ共はしっかりと子守りをやっていたようだ。
だいたいな。俺はそれにあぶれた三人の方へと向かう。
「お前らは何故ここで突っ立ってる?」
「あはは、いやレオンに昔の話を。でも最初は相手してたんだぜ?だけどあいつら体力無限にあるんだよ」
「リーチが一人一人名前や性格など教えてくれてたんです。聞いてないのに思い出も沢山話してくれましたよ」
レオンがリーチの方を笑いながら向く。まあサボっていたわけではないだろう。
ただ、もう一人が問題だ。少し離れた場所で、建物に寄り掛かっているガキ。ザメルだ。服も小綺麗なままだし、孤児院のガキとはあまり関わってはなさそうだ。
嫌だね偏屈なガキは。まあ別に俺の知ったこっちゃないが、声だけはかけておくか。
「で、お前はずっとそこにいたのか?」
「冒険者になることと関係がなさそうだったので」
こっちも見ずにザメルはそう吐き捨てた。そうだな。確かに関係は無いさ。・・・今まではな。
そろそろ本来の予定に移ろう。シスターも中に入ったまんま、しばらくは出てこんだろう。ちょっと孤児院のガキを使わせてもらうとしますか。
「よーし、お前ら集まれ。孤児院の子もだ」
俺は全員が聞こえる程度の声量でガキ共を呼んだ。
ガキ共は俺の声を聞くと、意外にもすんなりと集まってきた。ザメルも含めてだ。
そして丁度良い具合に鼻を垂らした孤児院のガキが木の棒を持っていたので拝借する。
その木の棒で、綺麗にならされた庭に二つほど円を描いた。直径5ヤード(4メートル半)くらいの円だ。後から消してはおくが、少々悪い気はするね。
「なんかするのか?」
リーチが興味ありげに円を見る。
「二つの円・・・。わかりませんね」
レオンがまた難しそうな顔をする。丁度いい。レオンに聞こうか。
「レオン、こっちじゃなんて言うんだ?円の中に入って、外に出されたら負けって奴だ。シュヴィンゲンか?グリーマか?」
「あ!なるほど!リングレンと言ったりする地域もありますが、一般的にはレスリングかと。まさか子供たちとレスリングをするんですか?」
「そのまさかだよ」
「ええっ。体格は全然違いますし、抱きかかえてしまえばすぐに勝ってしまうのでは?」
「誰が一対一でしろって言った?四対一だ。もちろんお前らが一の方だ」
「よんっ・・・。それはしんどいですね」
レオンが苦笑いをする。しんどいと理解できる頭はあるようだ。しかし、四人相手に遊ぶって感覚だろうな。
「なんじゃ相撲か!俺ラん一番得意なこった!ハンドラー、全員まとめて相手したってもええですよ!」
ジェットがデカい声で前に出てくる。獣人の方じゃレスリングをスモーというらしい。確かにその体格だったら得意と言うのも頷ける。俺だってただの力比べならジェットに負けるかもしれない。だが、それもこれも、一対一での話だ。
孤児院のガキと比べりゃ、身長は倍、体重は数倍違うだろう。全員まとめて相手ってのもそれを見て出た言葉だ。ただ、体格に比べてオツムの方は少々成長が足りんらしい。全員まとめてかかってこられたらどうなるかってのが想像つかないのだから。
「じゃあジェット、お前からだ。もちろん怪我はさせるなよ?殴ったり蹴ったりしてもダメだ」
「は、ハンドラー、俺ラそんな乱暴もんじゃねえです・・・」
「あとは、お前らは円の外に出ても負けだが、倒されても手をついても負けだ。しかし孤児院の子は外に出されること以外は負けにはならない。わかったか?」
「わかっとります!怪我させずに外に持っていけってことじゃろう!」
そうして細長い縞模様の尾を振りながらジェットは円の中へと入っていった。多分、分かってないな。まあ怪我させることはないだろうし、ほっとこう。
さて、俺は孤児院のガキ共に近づく。
「じゃあお前ら・・・。いや、君たち四人にお願いだ。あの大きなネコをこらしめてやってくれ。あの円から外に出してくれれば君たちの勝ちだ」
「わかった!」
「勝ったらまた遊びに来てくれる?」
「それなら頑張るよ!?」
孤児院のガキ共は素直だ。指示すれば目を光らせて言うことを聞いてくれる。どっかのひねくれたガキも見習ってほしいもんだ。
「ああもちろん遊びにくるよ。だから頑張ってくれるかな?」
「はーい!」
そうしてドラ猫の待ち受ける円の中へと四人の孤児が入っていった。10歳前後のガキ四人、ジェットに近づくと本当に大人と子供くらいの差だ。
「全員まとめてって言ったんじゃがなあ」
ジェットは少々ご機嫌斜めだ。
「ジェットー、負けるんじゃないよー」
カーラが円の外で笑って応援している。
そして円の中央に孤児たちとドラ猫が寄っていったので、俺は円に近づいた。
「じゃあ準備はいいか?はじめろ!」
顔を確認して俺は合図をした。
その言葉と同時に、孤児たち四人がジェットに群がっていく。二人は両の脚へ、一人は真正面から腹へ、一人は背中まで回ってズボンを引っ張った。
「ぬお?おお?」
多分油断していたんだろう。そりゃそうだ。その中の一人をさっきまで軽く肩車していたんだから。それが四人来たくらいではと、ジェットはどっしりと構えて待っていた。
しかし、抱き着くように両脚にがっしりとしがみついたたった二人のガキに、完全に動きを制御され驚きを隠せないと言った表情だ。
そこに前から腹を押すガキ、後ろから引っ張るガキも居て、倒れそうになるのを精一杯我慢している。
だいたい50ポンド(22キロちょい)くらいとは言え、それが完全にしがみついてきたらそうなるんだ。無理もない。
「こ、このお」
ジェットはひとまず空いた両腕で腹にしがみついたガキを抱きかかえた。それをそのまま外に出せればいいのだが、両脚にしがみついたガキのせいで上手く動くことができない。そしてそれを確認した背中に居たガキが、前に回ってジェットの体をよじ登り始めた。ガキらしい良い手だ。
ジェットは脚を引きずりながら体を回転させ、円の外の方へと歩こうとする。脚にしがみついたガキたちは、ジェットの足の甲をまるで椅子のようにしてしがみついたまま座っていた。それがそこそこ面白いようで、ケラケラと笑っている。
「ああまずいこりゃああああ」
そうして、多分正面からよじ登られたのが決定打だろう、ジェットは上手く動けず背中から倒れた。
孤児たちは大きな獲物を取った狩人のように、ジェットの腹へと腰を腰を下ろした。
「ジェット何負けてんのさ!」
カーラが怒っているが、ジェットはガキに座られて虫の息だ。
「まあこんな感じだ。二つ円描いてるから、順番に二人ずつやってみろ」
そして、俺はガキ共にそう指示したのであった。




