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3話10


 しばらくすると、建物の中から騒がしい声が聞こえはじめ、大勢のガキが建物から飛び出してきた。下は8歳かそこら、上は12歳くらいか、男も女も同じくらい居てそいつら全員がリーチに向かって駆け寄ってくる。

 そいつら全員をリーチは笑顔で迎えた。

 そしてその後に、ゆっくりと修道服に身を包んだ女が出てきた。リーチもそれに気づき、女の方を向いた。同じく、俺も彼女に視線を奪われる。

 俺の目がかっ開く理由なんて一つしかねえ。漆黒の修道服に身を包んだその女は、あまりにも美しかった。

 スラリとした肢体、修道服が窮屈そうに感じる豊満な胸、思わず頭身を数えちまいそうになるような小さな顔。少々やつれているような印象を受けるが、それがまた大人の色気のようなものを放っている。

 ウィンプルか、白と黒のほっかむりみてえなものから覗かせる髪は、太陽に当たる麦畑のように美しい金髪だ。

 そしてその細い目、とても興味をそそられる。彼女の瞳は何色に光るのだろう。間近でじっくりと見つめてみたい、神に仕える彼女の瞳を歪ませてみたい、そんな淫靡な感情を掻き立てるような目だ。


 「シスター・・・」


 「リーチ」


 リーチと目が合うと、彼女は速足で歩み寄り、そして強く抱きしめた。羨ましい。俺も実は孤児だったんだ。今からでも遅くはないだろうか。


 「シスター、恥ずかしいからやめてくれよ」


 リーチはそう言うが、彼女の腕を振り払うということはしなかった。


 「元気でしたか?夜はちゃんと寝れてますか?ご飯は食べていますか?」


 リーチから離れると、彼女は酷く心配するように声をかける。


 「だ、大丈夫だよ。ついこの前出て行ったばかりじゃねえか」


 「それでも、私にはとても長く感じました。あなたを思わなかった夜はありません。もしかしたら・・・、もうあなたの顔が見れないのかと思い不安で胸が張り裂けそうにもなりました。今日あなたの顔が見れてどれほど安心したか・・・」


 「シスター・・・」


 細い目から落ちる涙を見て、リーチも黙っちまった。俺にゃ母親ってものはわからねえが、もしかしたらこういう女のことを言うのかもしれない。勝手に出て行っちまったガキのことをずっと心配しているような、そんな女のことをな。

 そして涙をぬぐった彼女は、こちらを見ると俺の方に近づいてきた。


 「お見苦しいところを見せてしまいました。私がここの教会でシスターをしておりますアリアと申します。詳しいお話を伺いたいのですが、中へ入られますか?」


 俺はマミアの方を一瞥する。するとマミアは目を閉じこくりと頷いた。

 

 「そうさせてもらうよ」


 「かしこまりました。他の皆さんはどうしましょう?」


 シスター、アリアはうちのガキ共に視線をやった。既に孤児のガキ共に珍しそうに群がられているし、丁度いい。


 「よしお前ら訓練開始だ。この子たちと遊んでろ」


 「えぇ!?なんだよその訓練!?」


 リーチが驚いて口を開いていた。しかし、孤児のガキ共もそれを聞いていたようで全員の表情が明るくなる。


 「にいちゃんたち遊んでくれるの!?」

 

 孤児のガキ共の顔を見て、リーチは悩ましい表情を見せた。どうやら孤児のガキ共にはリーチは弱いらしい。


 「言っただろう?子守りの任務だって」


 「マジだったのかよ・・・。じゃー・・・、遊ぶぞおめえら!!」


 そうしてリーチは孤児のガキ共も連れていく。うちのガキ共も怪訝な表情をしていたが、仕方なさそうにリーチについていった。

 

 「では、こちらに」


 そして俺とマミアは、アリアについて建物の中へと入っていった。

 建物の中は、外観通りの具合だった。長椅子がいくつも並んでいるが、背もたれが少々壊れているものが目に入る。前方には一段高いところに説教壇が置いてある。その奥にゃジジイが何かしている模様の巨大なステンドグラスが日の光を通して輝いていた。

 ステンドグラスってのは字の読めねえ奴でもわかるようにした見る聖書だ。きっとあのジジイが神様か何かに違いない。偉そうに人に崇められている模様や、神々しく光ってる模様など、色々あって鬱陶しい。


 その脇にゃ薄暗い室内を淡く照らす蝋燭が何本か立っていた。優しい光を放つ、オレンジ一色の蠟燭。遠目で見てもわかるほど綺麗な色だ。あれは知っているぞ、蜜蝋。しかも圧搾蜜より純度の高いやつだ。確か滴下蜜の蜜蝋だ。早くも知識が役に立った。あんなものを使わなければアリアの頬もこけずに済むのに。

 そして部屋の端には木の箱みたいなものが置いてある。大人でもすんなり入れそうなデカさだ。告解室か。俺が入ったら全ての罪を告白するのに何日かかることか。


 更にアリアについていくと、今度は細い廊下に向かった。そこを少し進むと、一つの部屋へとたどり着く。

 そこそこの部屋であった。広さだけはヴォルターの部屋とあまり大差ない。だが中にある物の値打ちってのは雲泥の差だろう。木のテーブルと長椅子が二つ、奥に一つ机があって、申し訳程度に本棚が一つあるだけだ。流石の俺もこんなところで盗めるものを吟味しようとは思わない。

 ふと気づいたのは、建物の中はボロだったが、埃ってものがほとんどなかった。蜘蛛の巣一つくらいありそうなものなのに、開いてある椅子や床も綺麗なものであった。

 掃除が行き届いているようだ。アリアか、孤児のガキ共が毎日やってるんだろう。


 「こちらにおかけ下さい」


 部屋につくと、長椅子に俺とマミアは座らされる。そしてテーブルを挟んでアリアが長椅子に腰を下ろした。


 「まずはようこそおいでくださいました。そして多額の寄付と多くの食べ物を頂き、本当にありがとうございます」


 そう言ってアリアは深く頭を下げる。即座に俺は「なんてこたーない」と笑顔を見せてやろうかと思ったのだが、一つ言葉が引っ掛かり言葉に詰まる。

 多額・・・?

 俺は確かマミアに、給金を半分くらい前借りさせてくれと頼んだ。そしてそれら全てを食べ物にせず、一部は金(カネ)のまま寄付しといてくれと。

 ・・・まさか一年分くらいの給金を半分にしたのか?そういえば何ヶ月分だとかは言っていない。そして俺は訓練学校の給金の仕組みを知らない。てっきり一ヶ月ごとくらいに貰えるもんだと思っていた。

 おいおい。逃走資金にも当てようとも思っていたし、変装のために服も用意しようかとも思っていた。そこそこあるなら娼館を探して女でも買おうかとも思っていたのに。

 しくじった。いや、もしかしたらハンドラーの給金というものは俺の想像以上に多いのかもしれない。もうそれに賭けるしかない。


 「ハンドラー?」


 意識がぶっ飛びそうになっていた俺を戻してくれたのはマミアの声だ。


 「あ、ああ。な、なんてことはないよシスターアリア」


 「ありがとうございます。では、訓練?でしょうか。そちらのことを伺ってもよろしいでしょうか?昨日少しそちらのマミア様からは伺ったのですが、孤児の子たちと遊ぶという訓練をするためにこちらにおいで下さったと。冒険者様たちが様々なことをするのは存じ上げてしますが、子供と遊ぶというお仕事もあるのでしょうか?」


 アリアは不思議そうな顔をする。別に怪しんでいるというわけではなさそうだ。単純に冒険者というものを知らない故の反応だろう。

 そして、俺もそんなことは全く知らない。俺がマミアの座学で聞いたのは、冒険者ってのはだいたいゴブリンと殺し合ってるってことだけだ。

 後はドラゴンに潰されるってことと、それと悪党どもをだまくらかして討伐するって話くらいしか知らない。

 だいたいが何かしらと戦ってるってことだ。

 ただまあ、冒険者ってのは何でも屋、便利屋ってのは昔からよく聞いていた。もしかしたら子守りの仕事もあるかもしれない。危険な場所の掃除や失せ人探し、要人を守るみたいな仕事だってあるかもしれないと安易に想像はできる。

 

 しかし、それは俺の想像にしか過ぎない。もしかしたらそんなものは無いかもしれない。下手にここで子守りの仕事の有無を述べて、マミアに怪しまれてもダメだ。

 であるなら、俺がすべき言い訳ってのは、仕事の内容については言及せずにはぐらかし、それでいてこのシスターが今回の俺たちの来訪を不審に思わないようにさせるような内容。

 あわよくば、俺の印象が良くなるようなことを言えればいい。そうすれば何の役にも立たん神に祈るよりも、俺との一夜の方が天国に行けるということを教えてあげられるかもしれない。


 


 

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