3話5
「獣人の方だからでしょうか、ピオニアは体の使い方というものがとても上手でした。そして剣の振り方というのも決して素人と言う感じではないようで、少し要点を説明するとすぐにできるようになりましたね」
レオンが総括する。教えながらガキどもの観察までしていたようだ。俺がトンズラこいた時には、レオンがハンドラーをやればいい。
素人じゃあない、か。あの白い毛並みだ、もしも俺の思った通りなら、ここまで来るのはとても過酷な道だっただろう。肉食の動物にも魔物にも見つかりやすく、何より恐ろしいのは邪な人間だ。同量の金に代えることができそうなピオニアだ、もしかしたら剣を振り回すこともあったのかもしれない。
「ちっ、オレのとこもガキやバカ犬じゃなくてこっちが良かった」
リーチが口を尖らせている。飲み込みの早い生徒を持ったレオンに嫉妬したか?いや、もちろんそういうわけではないだろう。
リーチの目は、雪や氷のように白銀に煌めくピオニアを追いかけていた。至極単純な理由だ。あわよくば手取りナニ取りピオニアに稽古してやろうと思ったのだろう。さっき見せた真剣な表情に揺らいだ俺が馬鹿みたいだ。
あとは、少しは視線を隠した方がいい。女ってのは男が思っている以上に視線に敏感だ。じっと見てりゃすぐバレちまう。
さり気なく、一瞬の隙に目に焼き付けとくんだよ。焼き付けた姿は後から何に使っても、誰にも咎められないんだから。
「次だ」
ピオニアを下がらせ、次のガキを催促した。
一番手がピオニアだったんだ。二番手を買って出るのは余程の自信家か、それとも何も考えてない奴かだ。
そして静かに前に出たのはアッシュブロンドのガキだった。灰みがかった落ち着いた金髪は、レオンのものとは違った気品みたいなものを放っている。見てくれはとてもよく、面も俺と同じくらい色男だ。
ただな、いけ好かない。所作か、それとも立ち振る舞いか・・・、いや構え方だ。
カカシの前まで歩み寄ったそのガキは、慣れたように構えた。
左脚を半歩前に、右脚は少しだけ引き、膝をゆったりと曲げて腰を落とす。左手は力感なくみぞおちのあたりに添えられている。木剣を握った右手は腰の前あたりにあり、そこから伸びる切っ先はカカシの首元へと向けられていた。
重心は前に寄っていて、背筋は伸びている。前に行くことしか考えていないような構えだ。飛び掛かって斬るってより、そのまま真っすぐ剣を突き出して首を貫こうって構えだ。
今からカカシをしばけっていうのにな。
だが、このガキの顔はそれをなんら不思議に思っていないのだ。突きを狙ってるのがあからさまな剣の位置も、引くことを考えてないような重心の位置も、まるでこれが自然体なんですよって言わんばかりに、体が勝手にそうさせたのだ。
別にその構え方が悪いってわけじゃねえ。突きを狙ってるってのも悪くはないんだ。むしろ、そうだな、兵士なんかにゃお手本みたいに映るだろうよ。こいつの構え方ってのは、それくらい、何度も何度も型として練習して体にしみ込ませたように綺麗なんだ。
見てくれも悪くねえ、指南役をつけて長時間剣術を教え込まれてそうなその構え、もう別に何が来たって驚かねえくらいになったとは思っていたんだが、こいつはそれ以上かもしれん。
「はあ!!」
そしてガキはカカシに向かって一撃を入れた。綺麗な一撃だった。その構えに相応しいくらいのな。
そのままガキは何も喋ることも無く、元に居た位置へと下がっていった。
おいおい、自己紹介も無いのかい。スカしてんのが格好いいとでも思ってんのかね。いや・・・、そういうわけでもないな。きっとこの訓練と、俺に剣を見せることに興味を持ってないだけだ。更には俺に対しても。
こっちはハンドラーってやつで、更にはドラゴンさえも撃退したって噂の冒険者様だぞ。リッドの野郎だったら機嫌を損ねちまう。
「レオン、奴は?」
俺は横にいるレオンに声をかける。
「彼はザメル、ザメル・ザックザバンです。冷静かつ口数が少ないという感じの人でしょうか。とても恰好いい人ですね」
そうか、お前はああいうのが格好いいと思うのか、ちょっと俺とは趣味が合わんようだ。嫌だねガキは、ちょっと偏屈で根暗そうな方が格好良く見えるようだ。俺みたいな色男の魅力がわかるのはまだ先だな。
いや、そんなことはどうでもいい。
「か・・・、それはどうでもいい。何かないのか?」
「・・・ザックザバン家というものに聞き覚えがあります。グリムヴァルド領の東の国境沿いがザックザバン辺境伯の領地だったかと。しかし辺境伯の息子ともという人が、冒険者訓練学校に来るかなというのが疑問ではあります。同じ苗字を持つ方もいないわけではないですし、領地を持つという意味のフォンも名前にありません。たまたまかなというのが僕の考えです」
なるほどね。確かに辺境伯の息子なんてものがこんなところに来るはずはない。他国や異民族との戦争が起きるかもしれない国境沿いを任せられる辺境伯は、位だけで言や伯爵より上、侯爵と同等かそれ以上だ。しかも国の許可なく動かせる常備軍だって持ってたりする。力だけで言えば辺境伯は他の貴族より上だ。
そして名前だって、もちろんたまたまってことはある。
だがなレオン、お前の推察は間違いだ。こいつはお貴族様だよ。そうすりゃさっきのことも頷ける、そして何より、俺の勘が言ってたんだ。いけ好かないってね。金がある家は好きだが、金持ち自体は好きじゃないんだ。
「よーし次だ次!まどろっこしいからあとの三人全員出てこい!」
レオンと話をしていると、隣で大声を出すやつがいた。もちろんリーチだ。
振り向くと口を開けて暇を持て余したリーチの顔があった。
「何故お前が仕切るんだ」
「いや、だって暇なんだよ。さっさと終わらせばハンドラーも構ってくれるだろ」
なんで俺がお前を構ってやる前提なんだ。
リーチの頭でもしばこうかと詰め寄ると、その間にカカシの前に並ぶ三人のガキが見えた。
まあ、別にいいか、そう思って俺はガキどもの方へ向く。別に一人一人見てやる必要もない。それでいいんだ。




