3話4
「なーオレにもやらせてくれよー、手伝ってくれよー」
リーチがガバルとカーラに懇願している。が、二人は既に俺が教えた防御の練習をし始めていた。
リーチの人徳には脱帽するね。もう二人の耳にはリーチの言葉は入っていないようで、交互に木剣を打ち合っている。
最終手段、って言ったんだがな。真っ先に意識するのは相手の攻撃の来る方向を察知して、避けれるかどうか、逃げれるかどうかを考えることだ。相手の攻撃を打ち落とせるくらい見えてるなら、避けることも容易いはずだ。避けれるなら避けた方がいい。
まあ、教えちまった俺が悪いか。
「そりゃ最終手段って言っただろう。戦闘の基本は避ける、逃げる。その次に攻撃だ。もういいからカカシをしばけ」
「いや、もうコツも掴めてきたところさ。ゴブリンの武器だって楽に吹き飛ばせるよ」
「うん、オレにもできると思う」
ダメだ。ガバルの尾も跳ねている。こりゃ何言っても無駄だ。もうこいつらの頭の中では、ゴブリンと決闘よろしく一対一で戦って、ゴブリンの武器を吹き飛ばし、そしてゴブリンの頭をかち割るところまで見通しが立っちまってる。
座学で何を学んでんだか。今日だって朝はゴブリンの脅威について、マミアが胸を壁に擦りつけながら教えてくれていたというのに。
俺もマミアの胸に集中していてあまり聞いちゃいなかったが、それでもゴブリンの数がどうとかって話はあったはずだ。
本当のゴブリンの怖さってのが分からないと、どうしてもこうなるか・・・。
「なあハンドラー、レオンの方いこうぜ。オレ暇なんだけど」
いよいよ手持ち無沙汰になって、リーチがいつにも増してアホ面になっている。
「はあ。リーチ、お前はゴブリンと戦えるか?」
そう聞くと、リーチのアホ面は今までにないくらい真剣な表情になった。
そんな顔もできるのか?
できればその顔でずっといてくれると、俺のため息の量も減らせるんだが。
「・・・正直、まだわかんねえ、です」
座学の時に一度に10匹は殺すと豪語していたのはこいつだ。てっきり、もう戦える!連れてけ!みたいに言うと思ったが、想像とは裏腹に自信がなさそうに声を小さくした。
「おかしいな。お前は10匹はぶっ殺すって言ってた気がするが」
「い、いや、あれは・・・、強がりに決まってんじゃねえか、いや決まってるじゃないですか。オレみたいな馬鹿が100人のうちの1人側になれるのかってずっと不安だったし、チョビ髭は何も教えてくれねえしよ。気分くらいはって、みんなの前だしよ」
「なるほどな」
「でもよ、アンタが、ハンドラーが来て、もしかしたらって思い始めたんだ。剣の振り方一つだけどよ。確実に、一つだけでも強くなった、出来ることが増えたって思えたんだ。今は多分、99人側だ。ゴブリンと戦って生きて帰れるなんて思っちゃいねえ。でも、ハンドラーに着いていきゃ、いつかオレは1人側に立てるって思ってる」
そうして、リーチは自分が持っていた木剣を握り締め、じっと見つめた。
どうやら、この馬鹿の方が現実をよく理解しているらしい。そしてやはり、こいつには調子を狂わされる。
正直、自分でも驚いてるよ。たった数日しか会ってねえクソガキにこんなに調子を狂わされるなんてな。
何もかも、こいつが悪い。生意気で素直で、俺好みのクソガキなこいつが。
まあ、ゴロツキなんてそんなもんだ。あったその日にウマが合って兄弟分になる奴だって多い。
もしも会う場所が違ってれば、そういうこともあったかもしれない。
ああ、会う場所が違ってたらだ。俺は自分に言い聞かせる。
「おいカーラとガバル!そっちの三人に剣の打ち方を教えておけよ!」
木剣を持ってじゃれ合ってる二人に声をかけて、俺はそこを離れた。俺たちは、か。
次の遊び場についてくるガキのような顔でリーチが後ろにいる。やだね。アニキについていく俺ってのはこんな顔をしていたんだろうか。
「おーいレオン」
レオンのところに着くと、リーチが話しかける。
俺たちが近づくと、レオン含め木剣を振り回していたガキどもがこちらを向いた。
リーチの時とは大きく違う。全員レオンにきちんと学んでいるようだ。いざこざは起こっていない。
「あ!ハンドラー!言われた通りみんなに教えましたよ!みんな筋が良くてすぐにできるようになりました。リーチの方はもう終わったの?」
「あたぼうよ。オレの教え方が上手いからな」
よく言う。さっき地団太踏んでたガキはどこのどいつだ。
「じゃあ見せてもらおうか。お前ら一人ずつカカシをしばいていけ」
「よし見せてもらおうか、レオンの指導力ってものを」
リーチが俺の隣で腕組みをしている。俺より偉そうなのはどういう了見だ。
「では、私が」
そう言って先陣を切ったのは、白い毛並みが特徴的な獣人の女だ。長い手足、触り心地の良さそうな尾、一切の汚れを知らない純白の毛がなびく様は人間の雄にゃ目に毒だ。俺だってあと五年も経てばほっとかないかもしれない。
ただ、白い毛か。それは人間にはただただ美しく映り、手櫛を絡めたいという欲求を湧きあがらせるものでしかない。だが獣人にとっては・・・。
俺は最も自然な方法でその白い毛が何をもたらすかってのを問いかける。
「お前、名は?」
「・・・ピオニアです」
やはりか。名前を聞いて俺は頭の中で納得する。
獣人が最も重要視してるのは、氏族名や家族名だ。それを名乗らない、いや名乗れないってことはだ、元奴隷か、あとはもしくは、一族を追放された者だ。
恐らく後者、白い毛ってのは獣人共にゃ忌むべきものなんだ。当たり前だ。森や山ん中で群れで狩猟生活をしている奴らだ。緑の中に純白の尾は目立ちすぎる。
獲物にはバレやすいし、外敵にだって見つかりやすい。白い獣人は長生きできないんだ。だから白いのが生まれりゃ追放したりする。
こいつも、ピオニアもそういうことだろう。
「じゃあピオニア、やってみろ」
「はっ!」
そうしてピオニアはカカシの前に立つ。その容姿で落ち着き払い、木剣を構える様はとても絵になる。少し深呼吸をしたかと思うと、すぐさま強烈な一撃をカカシに叩き込んだ。
良い音がした。教えたのも俺じゃなくてレオンだ。コツもわかりやすかったのだろう。
「綺麗だ」
良い感じだと褒めようかと思った瞬間、隣から声がする。
振り向けばリーチがとんでもないアホ面でピオニアを見ていた。こいつは絶対に剣の振り方を褒めたわけではないだろう。剣を振った勢いで、踊るようになびくその純白の毛並みに視線を奪われたのだ。
ひとまずこいつはほっとこう。
「良い感じだ」
「ありがとうございます」
犬みてぇな獣人にしちゃ珍しいな。褒めてやったというのにピオニアの尾は少々揺れるだけであった。
ガバルなんてすぐに千切れそうなくらい振り回してたのに。




