3話3
「はあ、最初からハンドラーが直々に教えてくれりゃよかったんだ。無駄な時間だったよ」
ガバルの一部始終を見ていたカーラがぼやく。
「んな!?ハンドラー剣返してくれ!オレがこいつのをしばく!」
するとリーチが血相を変えて俺の持っていた木剣を奪っていった。
「おい、喧嘩はやめてくれないか」
「いいさハンドラー。初めから強く打ってきていいよ。やり方は分かった」
俺の方が慌てちまって仲裁しようとしたのに、カーラは更にリーチを不敵な笑みで誘っていた。
本当に危険だ。何かあれば俺に責任が発生するだろう。リーチは線は細いが体格がいい方だ。そしてカーラはかなりの小柄。体重の差は一回り以上違うはず。
しかもリーチはちょっとオツムが弱いんだ。直情的でそのまま全力で振り下ろす可能性もある。
「やめっ・・・」
「後悔すんなよ!」
直後、リーチはカーラの構える木剣目掛けて、ほぼ全力だろう一撃を振り下ろした。
乾いた大きな音が鳴り響き、俺は顔をしかめた。流石に小娘の手首が折れるのを間近で見るのは好きではなかったからだ。
しかし、俺の心配とは裏腹に、なんとリーチの全力の一撃を、カーラは受け止めていたのである。
「ふ、ふふ。やるじゃないのさ。結構手が痺れたわ」
感情任せで初めから脱力の効いた一撃が打てなかったのが原因だろう。しかし、加減はしていなかったのはリーチの馬鹿面が物語っている。それをこの小娘が・・・。
カーラは眉をひそめながら強がっている。多分手のひらがバカみたいに痛いはずだ。
「お、お前すげえな」
「当たり前じゃない。イイ女ってのは我慢強いんだ。なるほどね、脱力と瞬間的な力み、これを剣を打つ時に意識しろってことね」
流石のリーチも我にかえり、カーラを賞賛した。そしてカーラは木剣を持ち替え、先ほどまで剣を握っていた右手をしかめっ面で振る。痛かったことは隠さないらしい。
よほど自分の負けず嫌いさを訴えたいようだ。
体格を物ともせず、男とも対等に渡り合おうとするそんな小娘を見て、俺はある女性が頭を過り、
「姐さん・・・」
と、漏らしてしまった。
まずいと思って口を塞ぐが、カーラには聞こえていたようだ。
「姐さんだって?そんなデカい弟が居た記憶はないよ」
生意気な小娘だ。俺だってお前のようなちんちくりんの姉が居た記憶はない。
ただ、気丈に振舞うお前のような赤毛の女性が一人、ファミリーにはいたんだ。
名前はシェイナ。俺がファミリーに拾われた時から居た、アニキの女だ。
勝気で男勝りで大雑把で、世界で一番イイ女で、アニキだって尻に敷かれていたほどのファミリー皆の姉貴分。元孤児で元娼婦ってことくらいしか知らなかったが、そんなことなんて微塵も感じさせない強い女だった。
そんな姐さんが、この小娘と被る。生意気だ。
少しはわきまえてくれ。お前じゃ足元にも及ばない。
「忘れろ」
「いいや覚えとくよ。男が忘れてくれって言うのはいつも大事な用事さ。覚えときゃ浮気した時に使えるだろう」
男の弱みを握ろうとするところまで姐さんと一緒か。小娘の皮を被った悪魔に見える。
こいつの将来の旦那は苦労するだろう。自分が忘れちまった悪事でさえ掘り返されるかもしれないのだから。
そして腕っぷしまで強いときた。こっちが皿を投げつけて家を出て行かないといけなくなるぞ。気の毒に。
「もういい。振り方が分かったら二人ともカカシをしばけ。打つ場所はわかるな?」
「当たり前よ。棒でしばくのには慣れてる」
「オレも、それくらいは、わかります」
そうしてカーラとガバルはカカシの前に木剣を構えて立つ。既に呼吸も整え、余計な力を抜いたその立ち方は堂に入っている。なかなかどうして、筋が良い。リーチもまあ良い方だったんだが、それより上だ。
話によればCクラスとDクラスってのは素養の低い者が集められているはず。もしかすると腕っぷしや剣を振り回すこと以外に何かあるのか?
しばらく考え、仮説として一つ浮かびあがる。すぐにそれが出てこなかったのは、それが俺には縁の無かったものだったからだ。
俺が本当にリッドであるならば、もしかしたら真っ先に出てきたかもしれないだろう。
そう、魔力。そして魔法に対する適性だ。
いくら腕っぷしに自信があっても、離れた場所から火の玉投げつけられちゃどうにもできない。
まだ確定ではないが、おおよそこいつらは魔力ってものが少ない。もしくは適性が低いと判断された者なのだ。
Cクラスのガキどもも、声だけデカくて魔法を上手く撃てる奴は少なかった。
魔法を使えるってだけで手札が増えるのは俺自身がよく理解している。わけのわからん生き物と戦うとして、魔法が使えるか否か、回数を撃てるか否かってのは生き残ることに直結するだろう。
この仮説にはかなり自信がある。
「はっ!!」
「ふんっ!!」
隣でクソでも気張ってんのかって声が聞こえると、直後乾いた大きな音がした。
カーラとガバルがカカシをしばいた音だ。丸太で作られた人形に木剣、木と木がぶつかったにしては大きすぎる衝撃が起こる。
カーラもガバルも、雑にこしらえたカカシの木の皮を弾け飛ばすほどの一撃であった。
「ふ、ふうん。まあまあだな」
リーチが冷や汗を垂らしながら腕組みをしていた。
「まあまあ?これだからガキは」
「んだとコラ!勝負するか!?」
またカーラとリーチは喧嘩をしようとする。こいつらは水と油のようだ。あまり相性がよろしくない。
「すごい。ハンドラー、すごいです」
子犬の方は可愛いもんだ。表情こそ変わらんが、尾は千切れそうなほど暴れている。
獣人ってのはリーチよりもわかりやすいし簡単だ。特にこいつみたいに犬みてえな方は。
さて、いよいよリーチとカーラが木剣を構え出してきた。マミアも見ている。ここで子守も得意だってところを見せておかないと。
「ガバル、剣をよこせ」
「はいハンドラー」
口は素直だったが、どうやらカカシをしばきたかったらしい、俺に木剣を渡すと子犬の尾は力なく下を向いてしまった。耳もへたり込んで垂れてしまった。用事が終わったらすぐに玩具を返してやるさ。
「リーチ、そういえば報酬を渡してなかったな」
「は!?え!?」
リーチはアホ面下げてこっちを見る。カーラに殴ってもらってからでもよかったか、多少は男前になるかもしれん。
「礼だ。交換条件って言っただろう?」
「・・・あ!そうか!何教えてくれるんだ!?」
「打ってこい」
「え、え?」
「木剣で打ってこいと言ってる」
俺はガバルから渡された木剣で、リーチの持っている木剣をしめした。
リーチは恐る恐る木剣を構えて俺の方を見る。
「い、いいのかよ?」
「早くしろ、俺が教えてやったことを意識して、ここに打ってこい、ここに」
そうして俺は頭を指差した。
「い、いくぞ。本当に・・・。おらあ!!」
リーチは完璧な脱力とともに、俺に向かって木剣を振り上げた。
真っすぐ振り下ろされる木剣に向けて、俺は丁度リーチが力を込めるだろう瞬間に合わせて、手に持った木剣を虫でも払うように下から振り上げた。
木剣同士は激しい音を立ててぶつかった。
そしてリーチが持っていた木剣は、はるか上空へと弾け飛んでいった。
「ぎゃっ!!」
すぐにリーチは右手を抑えてへたり込む。直後、空を舞った木剣がそばに落ちてきて音を立てた。
「パレか、パラーレ。防御術の一つだ。相手の攻撃のタイミングで合わせて教えたように打ちゃ、負けた方の武器は吹っ飛ぶ。武器同士でかち合うから自分の武器が破損する可能性もあるし、相手の力が単純に強ければこっちが吹っ飛ぶ。あとは確実に攻撃が来る場所とタイミングが分からなければ成功することはない。まあ、最終手段だ。こういうこともできるってくらいに覚えておけばいい」
「ぬぬぬ、すげえ!けど、いつも痛えんだよおお!うううっ」
リーチは表情を騒がしく変化させ右手をばたつかせる。
「パレね。ちょっと試してみたいわ。ガバル、手伝いなさいよ」
「わかった。オレもやってみたい。ハンドラー、剣を返していただきたいです」
尾の機嫌は直ったようで、俺から玩具を渡されると子犬は尾を振り回した。




