2話8
逃げた先はカカシのあたり。丁度見たことのあるガキどもがカカシを木剣で殴っていた。
目つきの悪いガキ、リーチだ。横にはセットのようにレオンがいる。
リーチは力任せにカカシを滅多打ちにしていた。
不思議なのは、全員やる気のある目はしていなかったはずなのに、訓練自体は進んでやっている。
少しスコルの方に目をやると、何故か俺のことを睨んでいる。さっきのことを見ていたようだ。
だが別に他のガキどもに何か助言をするわけでも、怒りさえもしない。まあ適当に見ているだけと言ってたくらいだ。ガキどもが何をしようが気にはしないんだろう。
そのため、なおさら不思議だ。
スコルに怒鳴られることもないなら、それこそこいつらも適当にやってりゃいいんだ。
飯は食えるし寝る場所もある。外の空気吸ってぶらぶらしてりゃいいんだ。
だが一人としてサボってるやつはいない。やってることが意味があるかどうかは置いといて、何かしら訓練しようって全員が動いてる。
・・・何故だ。
「あっ!ハンドラー!」
近づきすぎたか。面倒なお坊ちゃんに声をかけられた。
「やあレオン」
仕方なく声はかけてやる。さて次はどこに逃げようか。
「やっと来てくれましたね!リーチと待ってたんですよ!」
そんな約束をした覚えはない。
「やっと来たかよ。何か教えてくれよ」
リーチも生意気な表情で俺を迎える。
「面倒だな」
「お、おい!」
おっと、心の声が漏れていた。
どうにもこいつが居ると調子が狂う。俺好みのクソガキってところがダメだ。
まるでファミリーに居た時を思い出すからだ。こういう生意気で目つきが悪くて、そして素直なバカばっかりだったから。
仕方ない。ハンドラーの役を演じるのも今は大切だ。
信用させといて隠れ蓑にできればそれでいい。何かあれば味方になってくれるやもしれん。俺は利用するだけだが・・・。
「ちょっとそこのカカシを叩いてみろ」
「え、あ。おう!!」
何故かリーチは表情を明るくさせ、嬉々としてカカシをしばきはじめた。
まあレオンと違って少々体格がいい、力も多少はある。だがそればっかりだ。木と木が衝突する音は鈍く、響くような音はしない。これが刃のついた剣だとしたら、肩の骨で止まる。肋骨に邪魔される。ゴブリンの細腕でも切り落とすことは難しいだろう。
力み過ぎだ。理由は分からんが、やる気が先行し過ぎている。
多分こういうやつが死亡率を高めてるんだろう。
「ダメだな」
「ああ!?なんでだよ!?レオンより速いし強いだろ!?」
レオンがカカシをしばいてるのは遠目でしか見てないから、それは知らんが。
「リーチ、これは比較対象の統一だよ。僕と比べても意味はない。ですよねハンドラー!?」
レオンが同意を求める目を向ける。
まあ今回ばかりはその意味ってのが分かった。比較対象を統一する。つまりはゴブリンの強さが10だとして、リーチの強さが5としよう。そしてレオンが3だ。レオンより強いと言ってもゴブリンには及ばない。
多分そういうことだと思う。僕より強くても意味ないぞー。とレオンは言いたいのだ。
だよな?
「まあ、そう、かな。それはさておき。リーチ、お前は力いっぱい振りゃいいと思ってるが間違いだ。基本は脱力。剣が当たる瞬間だけ力を込める感じだ」
説明したが、リーチはアホ面下げて困っている。ため息が出る。
まあこいつみたいなのは言葉で説明も、頭で理解もさせるだけ無駄だ。やってみせる、やらせてみせるってのが手っ取り早い。
俺がそうだった。俺もアニキにそうやって・・・。
またアニキが頭ん中に出てきやがる。
そうだ。同じだ。
『まずは腕を上げろ』
アニキの言葉が脳裏によぎる。
「その棒を一度離せ」
「え、おう。レオン持っててくれ」
「うん」
「まずは腕を上げろ。肩の高さで拳を真っすぐ前に突き出すように」
レオンに木剣を渡したリーチに右手を上げさせる。
肩の高さで、そのまま前に拳を突き出すようにだ。
正面を殴りつけるようにと言ってもいい。
「あげたぞ」
「今からその腕を上から叩く。お前はその腕が叩かれても下に下がらないように、思いっきり力を入れとけ」
「え?お、おう!!」
そうしてリーチは思いっきり拳を握るように力を込めはじめた。
一目みて全力だとわかるくらい、鼻は大きく空いてるし、腕は小刻みに震えている。うん、やっぱりこいつ頭が足らん。
その震えるリーチの前腕部に対し、俺は平手を強めに打ち下ろした。
平手がリーチの前腕部に直撃すると、大きめの破裂音とともに腕が下に大きく下がった。
「あで!!」
情けない声を上げて、リーチは腕を素早く擦る。棒状の物を擦るのには慣れているらしい。とても速く、均一なリズムだ。
熱を帯びたのか息も吹きかけている。そこまで強くしたつもりはないのだが。
「いでー!いでーよー!」
「うるさい。もう一度腕を上げろ」
「ええっ、またしばかれるの。レオン変わってくれよ」
「もう一度やらないと意味がない。さっさとしろ」
「はい・・・」
そうしてまたリーチの腕を上げさせる。
そして、
「今度は力を抜け。できるだけ完全に。肩から先は一切力を入れなくていい。拳も握らず、力を抜いてただ腕を上げてるだけにしろ」
「そ、そしたら腕が」
「いいから。そして俺がまた叩くから、俺の手が当たる瞬間に力を込めろ。その時は思いっきりだ。拳も強く握れ」
「お、おう。力を抜く・・・。ただ上げてるだけ・・・」
顔までは力を抜かんでもいいのだが、まあいい。そのアホ面は我慢してやる。
「いくぞ」
そうして俺はまたリーチの前腕部に平手を打ち下ろした。さっきと同じくらいの強さでだ。
俺の平手がリーチの前腕部に直撃する瞬間、リーチの顔がアホ面から真剣な表情へと変わる。腹が立つ。
大きな破裂音がしたまでは先ほどと同じだった。違うのは、硬い棒を叩いたのかという感触。
リーチの腕は俺の平手を食らっても、微動だにしなかった。
アニキの顔が思い浮かぶ。同じだ。にやりと不敵な笑みを浮かべたアニキは、多分今の俺と同じことを考えたのだろう。そして、俺もアニキと同じ面をしてるのかもしれない。
「お、おお」
自分の腕が下がらなかったことに感動しているようだ。ただその感動は長くは続かない。すぐに飛び跳ねて腕を擦りはじめた。若いやつはすぐに擦るからよくない。
「いでー!ふー!ふー!」
「騒ぐな。今の感覚を覚えておけ。レオン、棒をリーチに返せ」
「は、はい」
そしてレオンはリーチに木剣を渡す。
「リーチ。そいつは剣の形をしているな。剣はどのあたりで斬ったら一番威力がある?」
「えーと、この辺か?」
リーチは木剣の真ん中あたりを握った。
「違う。このあたりだ」
そうして俺はリーチの持つ剣の真ん中から切っ先までの中心辺りを握ってやった。全体の七分目くらいか。
切っ先に近づけば近づくほど遠心力が乗りスピードは出るが、切っ先は細く軽いため威力が出ない。その上しなるしぶれやすい。
柄に近づけば遠心力が出ないため斬るにはスピードが乗らず不向きだ。
中央部分は刀身も分厚く遠心力もそこそこ乗るから強い部位ではあるが、最大ではない。
だから七分目くらいのところ。まあ小難しい話や理論じみたものは俺もこいつも苦手だろうから、だいたいこの辺でしばけって言うだけでいい。
「このあたり・・・」
「一度目を閉じてみろ。道具ってのは自分の体の延長線だ。触れただけでわかるようになっていたほうがいい」
リーチに目を閉じさせ、俺がリーチの木剣を何度か握ってやる。別に暗喩じゃあねえ。その通りの意味だ。
「ここは?」
「違う」
「ここ」
「違う」
「ここ」
「そこだ!」
「目を開けてみろ」
リーチが不敵な笑みを見せる。やはりこいつは頭で考えるより、実際にやらせた方が早い。
俺が剣の七分目辺りを握っていることを見事リーチは当てて見せた。




