2話7
しかしだ。ただ突っ立ってるだけじゃあ暇だ。俺もスコルと同じように女神とお喋りを楽しみたいが、今は我慢しよう。なんせ今はマミアだってそばにいるんだ。やきもちを焼かせるなんて俺にゃあできない。
せっかくだ。俺だって昨日からやっと自由に魔法が撃てるようになったばかり、もしかしたらガキどもの方がコツを知ってるかもしれない。
何かこいつらから学べることはないかと、俺は石の的に向かって暴言吐いてるガキどもの方へと向かっていった。
やはり同じクラスでなれ合ってるのか、うちのガキとCクラスのガキは分かれて訓練している。
少々Cクラスのガキの方が上手いようだ。ちゃんと魔法が出てんのは教室じゃ見かけてないガキの方だ。
もちろん上手い方に近づく。別に自分のとこのガキがへたくそだからと言って構ってやったりはしないさ。
「火球/ファイヤーボール!!」
一人の小娘がデカい声で叫ぶ。
その声のわりには表紙抜けするくらい小さな火の玉が石の的に飛んでいく。俺の玉の方がデカいくらいだ。
まあ出るだけ上出来だ。隣を見れば声だけデカくて何にも出てねえやつもいる。
やはり魔法ってのはイメージが重要のようだ。この小娘にゃそれができてる。
・・・ふと俺は考えた。イメージが重要であるということは、精神的な状態も魔法の発現に影響するんじゃないかと。
多分関係はあるはずだ。気分が落ちこみゃ悪いことを考えるようになる。逆にハイになれば考えは前向きになる。できない、魔法が撃てないという考えになれば失敗することもあるんじゃないか?
そして同じように感情もだ。頭の中に出てくるもんは、魔法に全て関係するのではないだろうか。
調べてもいい。指輪があとどれほどの魔力を残しているかはわからない上に、今はこんな状況だ。俺にはできない。
ただなんという幸運。検証を手伝ってくれる奴がこんなにもいるじゃないか。
有効に活用させてもらおう。こいつらも、そして俺の立場も。
「おい」
俺は魔法が撃てていた小娘に声をかける。
小柄な金髪の小娘だ。将来有望そうな見た目をしてるが、あと十年は必要だな。
「は、はいい!」
飛び上がって驚いている。心配するな、あと十年くらいは取って食ったりはしないさ。
「ええと」
「はっ!Cクラス、ユキ・ヨーネックです!ハンドラー!」
小娘は右手を胸の前に当て姿勢を正した。自己紹介はいい。覚えるつもりはない。ガキはなおさらだ。
「いらん。それよりお前は魔法を撃つ際、どんなことを考えている?」
「どんなこと、ですか?特に・・・、火の玉よ飛んでいけー、ってくらいですかね」
まあそうだろうな。だがそれくらいで魔法が放てるのか、こいつはそこそこセンスがあるようだ。少なくとも俺よりは。
「よし、そうだな。何かお前があったら嬉しいと思うことを考えてみろ。なんでもいい。だが小さなことではダメだ。お前の夢が実現したっていうようなデカいやつだ」
「嬉しいこと・・・。デカい、夢・・・」
小娘は少し俯いて考える。しばらくして急にだらしない顔になってしまった。
汚い顔だ。未来のボーイフレンドに忠告してやるが、寝起きはなるべくこいつの顔を見ない方がいい。夢から覚めちまう。まあ察するに、多分デカい夢ってのが想像できたらしい。
「それで魔法を撃て」
「は、はい!!火球/ファイヤーボール!!!!」
小娘が両手を石の的に向けてそう叫ぶと、巨大な火の玉が形成され、中空を真っすぐ走っていった。
激しい音と衝撃を生みながら石の的に直撃し爆発する。
あまりの衝撃に、周囲のガキどもが全員振り返るくらいであった。
やはりだ。精神や感情というのは魔法を放つ上で重要なのだ。
そうなるとあのだらしない顔で何を考えたのかが気になる。俺もできるのであれば真似してみればいいはず。
「今何を考えていた?」
「い!いやっ、ちょっとお恥ずかしいのでそれは」
小娘は慌てて手を振り目を泳がせ顔を赤らめる。なんだ?スケベなことなら俺の方が何倍も詳しいはず。
それなら俺のファイヤーボールは国一つくらい飲み込むくらいデカいはずだ。
ならばなんだ?
「言え。俺はハンドラーだ。お前はなんだ?ユキ」
「訓練生であります!あの、その、ドレスを着るところを想像しました。白い・・・、教会で・・・」
巨人がぶっ飛ぶような大きさのため息が出そうになった。
あいにくと俺にゃドレスは似合いそうにねえ。てんで参考にはならんかったが、俺の仮説が正しいことが証明されたってのは違いない。良しとするか。
ただ、気になるのはこの小娘の夢だ。いや、内容については別におかしくない。
16、7くらいの小娘だ。こんなところに居なければ、本来ならば母親に料理を学び、服や恋に興味を持つ年ごろ、別に結婚を夢見るのはなんらおかしくはない。
しかしだ。そんなことを夢見てしまうような少女が、こんなところに何故いるのかということだ。
俺はじっと小娘を見る。見てくれは悪くないさ。今すぐにでも貰い手には困らないくらいの器量だ。
貧困が最大にして唯一の原因だとしたら、ありえないのだ。金持ちの家にでも嫁げばいい。何故・・・。
「ハンドラー、何か至らないことでも・・・?」
少々睨み過ぎたようだ。小娘にも興味もないし、加虐趣味を持つサディストでもない。
俺はすぐに話と自分の頭を切り替えた。
「いや、次はそうだな。お前が最も辛いと思うことを考えろ」
「ひ、辛いことですか。意見具申願います」
「ダメだ。生きるのを諦めてしまいそうになるほど、お前が絶望することを考えろ。お前の人生の柱が倒れるような最も辛いことを考えろ」
「ええ、えええ。うう、辛いこと辛いこと、もうこれが辛いですハンドラー」
しばらく小娘は目を閉じ眉をひん曲げていた。しかし、すぐに小娘の閉じた瞳から涙があふれる。
どうやらこいつは想像力が豊からしい。魔法は三か四の何たらって話だ。想像力のある奴のほうが素質があるはず。
俺も想像力だけは自信があるんだがな。
「いまだ。撃て」
「・・・はいっ。火球/ファイヤーボール・・・ッ!」
涙を弾かせながら、小娘は叫ぶ。
石の的に向けられた両手からは、小さな火の粉がほとばしっただけであった。
やはり。仮説が正しかったことを満足し、俺は頷く。
「わがりまじた。ハンドラー」
鼻水を垂れながら小娘は俺を睨みつけてきた。
おいおい、いじめるつもりじゃなかったんだ。ただの実験だよ。
そんな目で見てくるなよ。
いや、わかりました?
「魔法の、発現には、魔術師本人の気持ちも大事ってわけですね。ずびっ。ありがとうございました。ずびびっ」
鼻水は吸い込むとあまりよくないってファミリーの誰かが言ってた気がする。
「あ、ああ。鼻水は吸わない方がいいらしいぞ」
「そうなのですね」
小娘はそういうと、装備の袖で鼻を拭いていた。
そうか。見てくれが良くても中身が足りないということか。そう俺は勝手に理解した。
「ハンドラー!俺にも教えてください!」
「私にもお願いします!!」
するとだ。先ほどの小娘の魔法を見ていたのか、周囲のガキどもが餌を見つけた蟻のように俺に群がってきた。
こいつは面倒だ。
俺は別に魔法の助言をしたわけではない。するつもりは、いやそもそもできる助言なんてものはない。
専門的なことを聞かれればボロが出るのは目に見えている。
俺は適当に流して、その場から逃走した。




