2話6
ガキどもの面を見ると、あらゆる感情でごっちゃになったような表情をしていた。
不安、緊張、なかにはレオンみたいに目をかっぴらいてるやつも居はする。しかし整列という言葉も知らんガキどもからは、そこまでやる気というものを感じられなかった。
「ンオホン。それでは実技訓練を始めるが、まずは今日から合流するリッド君の挨拶もかねて、一つ手本を見せてもらおうか」
スコルはわざとらしい咳払いを一つすると、俺の方を見る。
待ってくれ、話が違う。いや、別にそういう話はなかったが、手本?
俺は先任教官殿の手腕を見てから訓練とやらの作法を学ぼうかと思っていたんだぞ。急にそんなことを言われても困る。
「手本?」
「ああ、君は確か魔術師だったね。ドラゴンをも撃退する君の魔法を訓練生たちに是非とも見せてやってくれ」
「今すぐにか?ええっと・・・」
「どうしたのかね?まさかドラゴンを撃退したのは嘘だったのかな?それともたまたま運が良かっただけで自信がないのかな?」
大きな声でガキどもに聞こえるように言いやがる。焦りで本当はこいつが真実を全て知っていて、俺の正体を暴こうとでもしてるのかと被害妄想に陥ってしまいそうだ。
しかしまさにその通りだ。ほとんどリッドが一人でドラゴンを追い込んで、たまたまドラゴンが運よく興味を無くしただけ。自信はおろか、むしろ魔法なんて何も知らんのと一緒だ。
えらいことになった。
何より、指輪なんだよ。
俺はまだ指輪について検証段階なんだ。昨日の晩、どれだけの時間で指輪に魔力とやらが溜まるのか調べるため、すっからかんになるまで魔法を練習していたんだ。
もしまだ魔力が一切溜まっていなかったらどうする。時間だけで魔力が溜まるのならもしかしたら多少は溜まっているかもしれない。しかし、何らかの条件があったらとしたら・・・。
逃げるか?
しかしこのスコルが厄介だ。
リッドと同じゴールドランクの冒険者ってことは、リッドと同程度の実力があるってことだ。
脚ももう万全で逃げ脚にゃ自信がある。しかしこいつが何かしてきたら・・・。
万事休すってやつだ。
もう賭けるしかない。この幸運の指輪に。
少しでいい。たった一発でも魔法が撃てるならあとはハッタリでどうにかなる。
頼むぜ指輪ちゃん。
「ハハハ、あまりいじめないでくれ。ちょっと恥ずかしかっただけさ」
あくまで平静を装い的の方へと歩みを進める。
スコルは少々不敵な笑みを浮かべていた。
なるほどね。リッドと同等ってのがよくわかったよ。
こいつは真実を知っているわけではない。絶対に。
しかし、ドラゴンがそう簡単に撃退できるものではないってことを知っているんだ。
胡散臭い顔はしているが、よく見りゃ筋肉質で無駄の無い体付きをしている。その横柄な態度も俺と違って伊達やハッタリじゃねえ。十年の経験に裏打ちされてる自負に近い。
俺が見るに、スコルは決して弱くない。しかし、それでも手に余るのがドラゴンってやつだ。
スコルはそれを知っているから不信感を抱いているんだ。
自分と同等で、しかも一回りも若い奴がドラゴンを撃退したなんて、絶対に何かある。と。
的の前で足を止める。
昨日の晩と同じくらいの位置だ。
少し周りを見ると、さっきまで目に生気がなかったガキどもの目が興味津々で俺の方を見ている。
見世物じゃねえぞ全く。そいつはもしかしたらすぐにトンズラこく小悪党かもしれないんだぞ。
ドラゴンを撃退した英雄か、それとも小悪党か、それを決めるのはお前だ指輪。運気の上がる指輪だってんなら、本当に頼むぜ。
俺は慣れたように左手を的に向けた。
魔法ってのはイメージだ。それさえ出来てればどうにかなる。
言葉に出さなくてもな。
まるで息を吐くように、頭の中で炎の塊があの的を襲うところを強くイメージする。
出ろや。
どうやら賭けには勝ったようだ。心の中でそう思った瞬間、左手から淡い光が放ち、目の前に人の頭大の黒い炎の塊が生み出される。
そしてすぐにその炎の塊は的に向かって一直線に走り、小規模の爆発を引き起こした。
土煙がおき、そしてそれが晴れると、石で出来た的に黒い炎が燃える粘液のようにへばりついていた。
・・・脳みそにへばりつく悪夢ね。スコルにいじめられたし、今日は少々落ち込んでいるらしい。病んでる時は昔の嫌なことを思い出しやすいからな。
「おお?おおおおお」
直後、歓声とは少しばかりもの足りない声がガキ共から上がる。
一か八かの賭けに勝ったというのに、拍手の一つくらいくれてもいいだろう。
「そこまで大きいものじゃなかったな」
「あれくらいなら俺でも」
「いや無詠唱であのスピードで魔法を撃てるのはやはりとんでもないよ」
「それよりまとわりつくようなあの黒い炎はなんだ」
聞き耳を立てりゃ色んな声が聞こえてくる。
まあ及第点ってところか。規模はそこそこ、しかし声も出さずに魔法を撃てたところは評価点らしい。
スコルを見れば苛立ちを隠せないようで睨んでいた。流石ハンドラーだ。お前のその顔が俺の魔法の出来栄えを表している。
なかなか良かったってことだな。
「んん、ありがとう。訓練生たちも良い勉強になったはずだ。ゴールドランクというもののレベルというのがどれほどのものかと理解もできたはず」
どうやらスコルは頭も回るらしい。
俺の魔法を適切に評価した後、自分の保身も忘れていない。俺が凄けりゃ手前も凄いってわけだ。
「それでは実技訓練に移ろう、貴様ら、いつも通り始めたまえ」
そうしてスコルは号令をかけた。
するとガキ共は返事も無く各々好き勝手に散り散りに分かれて行った。
ある者はカカシの前に木剣と鍋の蓋みたいな盾を持ち近づいて、ある者は何人かで石の的の前に集まっている。
一人だけでうろうろし始めるやつまでいる。
なんだこれは。俺は不思議に思った。
訓練というのであれば、ああだこうだと俺たちハンドラーが指示して、それを見ながら助言やなんかをするんじゃないのだろうか?
ヴォルターも言っていた、まずは剣の握り方からと。
見てみろ、勝手にカカシを木剣でしばきはじめたガキ共を。ただ力任せに殴ってるだけだ。ストレスを発散するにゃ丁度いいだろうが、あれじゃ骨まで斬ることはできない。
石の的の前に並んだガキ共は、声だけはデカいが魔法みたいなもんが出てるのは少ない。演劇の練習でもしに来てんのか?イメージが大切だってのは昨日くらいから俺でも知ってるぞ。
「なあスコル。俺たちは何もしなくてもいいのか?」
「おかしなことを。奴らがどうなろうが私たちの給金は決まっているんだ。適当に見ていればそれでいいのだよ」
そうしてスコルは隣の女神に話しかけていた。
リッドの言葉を思い出す、ガキ共相手に適当にやってりゃ、ってやつだ。
そりゃそうかと俺は感心した。別にちゃんと訓練しなければクビになると言われているわけではない。
ならば適当に突っ立ってる方がいいに決まっている。俺もそっちにしておこう。




